告白合戦いたしましょう4
「………」
「………」
政宗が離れてからしばらく、視線を合わせながらも二人は無言だったが、
「言っとくが、jokeで男にkissする趣味はねーからな。…悩ませるとは思うが、明日から長ぇ休みだし、」
「いっ、いえ…!必要のうござる!某は…っ」
Ha?と政宗が聞き返すよりも早く、幸村は彼に向き直った。
「…申したで、ござろう?いつも、追っていると。──政宗殿を追って、高校も…」
語調はたどたどしく、赤面も強まっていく。が、幸村らしく目をそらしはせず、
「某も、幾度も『違う』と思おうと致しました。しかし、諦めるには想ったほどの年月が必要そうで…それまでだけでも、近くに在りたかったのでござる…」
(…Are you serious?)
政宗は白昼夢か否かを確かめてみたが、つねった箇所は正常に痛みを拾った。
「ずっとお慕いしておりました、政宗殿…」
「──きむら…ッ!」
政宗は幸村をガバッと抱き、
「んだよ…っ!悩む必要なかったんじゃねーか!つーか、俺スッゲェだっせーし!」
「ぃい、いえぇ、そのようなこと、は…っ」
「Ah〜、何だよマジで…てっきり、お前こんなの辞書にねーもんと…俺、数年は覚悟してたのによ」
「そ、それは…」
しかし台詞とは違い、政宗の顔は照れや歓びでホクホクである。
幸村も、それが分かってからは同様に表情を温めた。
──政宗ばかりが翻弄されていたと思いきや、幸村の方が何年も早くから想い、苦悩を抱えていた。
だが、今となっては二つの想いに大きな差はないだろう。
無敵のそれで結ばれた、きっと世界一似合いな二人。
その恋の結末は、笑顔のhappy endで平和に幕を閉じたのだった。
〜〜 Fin 〜〜
……とは、すんなり行かないようで。
「けど、いきなりのkissはfairじゃなかったよな…sorry。firstを、あんなのにしちまって」
今後のためにもと、政宗は殊勝な姿勢を取ったのだが、
「い、いえ、平気でござるよ!それに、初めてではありませぬゆえ」
───…What?
…いやいやいや、これは聞き間違いに違いない。
だが、幸村から返ったのは、
「保育園の頃の話でござる。向こうは、もう忘れておられましょうし」
「…お前は覚えてんのかよ」
幸村は照れ笑いを浮かべ、
「何と言いますか…あれが、某の『初恋』だったのでは、と」
(初恋だと……?)
first kissは、そうやって特別なmemoryに納めてて…
だから、平気だってか?
…俺とのは、『特別』にならねーってわけかよ。
政宗の機嫌の雲行きはどんどん怪しくなるが、気付かれないよう表情を取り繕いはできた。
しかし、そのまま引き下がりもできず、
「まぁ…そうだよな。初恋っつーのは、やっぱ『特別』だ」
「…です、な」
幸村のほわっとした笑みに、政宗はより『ムカッ』とし、
「俺も、first loveは今でもよーく覚えてるよ。そりゃあspecial cutieで、しかも優しくてな?」
今すげぇ美人になってんだろなー、と幸村をチラリと窺うが、
「そうでござるか…」
「(な…)」
(何だよその反応!…何か、俺が悪ィみてーじゃねーか)
幸村の気落ちした顔に、政宗は『お前のせいだろ』と思いながらも、『言うんじゃなかった』と後悔していた…。
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「では、良い夏休みを…政宗殿」
幸村の笑みに、「おう」と政宗も手を上げ返す。
(──Shit…)
何でこうなるんだと歯噛みしたまま、政宗は幸村が乗った電車を見送った。
(あんな、心にもねーこと…)
しかし、幸村も最後は笑っていた。大した問題じゃない。
が、その後も政宗の気分は晴れなかった…。
夏休み中は、幸村は実家に戻って過ごす予定だった。
休みに入り二週間近く経った頃、政宗から電話があり、
『今晩から、そっちへ行くことになってな』
『何と…!うちにも、是非遊びに来て下され!』
そして翌朝は、幸村の方が政宗の親戚宅へと赴き…
「ようこそいらっしゃいました、政宗殿!」
「Ohー、ちょっと久々だな。ここは、もっと懐かしいが」
「四年振りですものなぁ」
彼の親戚に挨拶した後、二人は街中へと向かう。
(…全然普通じゃねーか)
表面ではいつも通りを装いながら、政宗は幸村に対して苛立ちを募らせる。
夏休み前のあれ以来、政宗から連絡するまで、幸村はメールの一つも寄越さなかった。
平素からそういうのにマメな性格ではないが、普通ならあっても良いものではないか?これまでと違い、何もしなければ会えない長期休暇だというのに…
(これじゃ、俺だけがそうだったみてーな…)
幸村は小学生の頃から想ってくれていたようだが、その割にはアッサリしている。
政宗の方は、『何で鳴らねーんだ』と、毎日ケータイを睨み付けていたのに。
悶々とするにつれ、頭から離れなくなっていくのは、幸村の『初恋』…
『お前の、そっちのfriendsにも会ってみてーんだが…』
『某も、そうしたいと思っておりまして…!』
そこで今日は、こちらの高校(で部活動をしている友人ら)や、行きつけだったらしい軽食店(友人宅経営で、幸村のために何人も集まってくれていた)、夕方からはちょうど夏祭り中の中心街に足を運び、いくつものグループと対面した。
小さな街であるしで、同じ保育園だったという友人らには、ほぼ全員と会うことができた。ただ、政宗が積極的に話しかけたのは、女友達ばかりだったが。
(この中に、幸村のfirstを奪った女狐が…)
──今どき、三流のテレビドラマでも聞かないような台詞である。
しかし当人は本気も本気で、渾身の『イイ男オーラ』を振りまき、彼女らの目を全てハートに変えることに成功した。
…どうやら、それが彼なりの決闘と勝利だったらしい。
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