告白合戦いたしましょう2






入学式から数ヶ月経っても、政宗の『緊張』は一向に解けない。

苦悩に光を射してくれたのは、夏休み前のある日に聞こえてきた言葉だった。
クラスメイトらは、刑事ドラマの話をしていたのだが、


「ずっとA(ゴツい男前俳優)の隣にいるからさ、最後にはB(若い青年俳優)が女みてーに見えちゃって」
「Bもイケメンだけど、あれに比べりゃ可愛いもんな」
「周りがあんなんばっかだから、華奢に見えるしさぁ…」


(──I see…!)


『そーか、それでか!』と、政宗の目から鱗がバラバラと剥がれ落ちた。

この学園は、共学になってからまだ五年にも満たない。未だ女子の数は少なく、政宗のクラスにいるのも中学からの数人のみだ。向こうもこちらも、顔を見慣れている。

幸村は、その俳優に似た系統の顔付きで…


(あいつの顔と、周りの環境のせいだったってわけだ)


そうと分かれば、解決は容易い。














(何の話であろうか…)


終業式の後、招かれた政宗の家の一室で、幸村は一人、落ち着かない心地で正座していた。

幸村の実家から学園は大分遠いので、彼は中間地点にある祖父母の家に下宿の身、放課後はすぐに電車で帰宅する。
が、今日は政宗が『どうしても家で話したい』と言うので、連絡を入れた後邪魔していた。


「Sorry、待たせたな。準備できたからよ」
「準備?」

政宗に案内されたのは、それ自体がクローゼットである広い部屋。何着もズラリと並ぶ光景に、幸村は目を丸くし、

「全て、政宗殿の…?」
「No no、知り合いの衣装屋から借りてきた。芸能人が着る服だぜ?なかなかねーだろ、こんな機会」

「はぁ…」

お洒落に疎い幸村にとっては、その価値もいまいちピンとこない。だが、政宗は気にしていない様子で、

「話ってのはな…お前のことだ、幸村」
「某の?」

「Ahー、実はな…」

ふざけ半分の行為だとしても、幸村にはできるだけ嘘をつきたくない。そこで政宗は、理由を下手に装うのはやめた。


「お前に惚れてる野郎がいる。残念ながら、『man』な?同じ男だ」

「は──」

幸村は唖然とした後すぐに顔を赤らめ、「ななななな…ッ」と慌てふためいていく。

そこは、『はい!?』や『ご冗談を!』などと、政宗の言葉を疑うか気味悪がるのが普通だろうに。


(…他の奴らから実際言われりゃ、同じ反応すんのか?)


──違え違え。
そーいうのに囚われねーようにするための『これ』だろうが。

政宗は気を取り直し、


「まさか…」
「と思うだろ?俺も最初は『まさか』『あり得ねぇ』だったんだが、事実だ」

これは説得力があるに違いない。…何せ、実体験なのだから。

「え──あ──そ、某は、しか、し…」
「言いてぇことは、よーく分かってる。お前は悪くねぇんだ。が、うちの学校はあんな環境だろ?」

政宗がそれを説明すると、予想通り幸村は「そんな…」と愕然、ショックを受け落ち込んだ。


「そう気にすんなって。トチ狂ったのはそいつだけだし、本人もんなつもりでお前に惚れたわけじゃねぇ。言われてみて、『そうだったのか』と気付いたくれーでな」
「…、あぁ…」

「俺も、お前を女みてーに思ったことねぇよ」


(ただ、そこらの女よりイイとは思うがな)


マジでイカれてるっつーわけだ。
早いとこ正さねぇと。せっかくこうして、一緒にいられるようになったってのに…


「そこで、『イメチェン』作戦だ!周りのせいなだけで、お前も実はガッツリ男系なんだぜってとこを、見せつけんだよ。相手の目も覚めんだろ?人助けだと思ってよ」

「えっ…(その御仁が、家にいらっしゃるので…!?)」
「Ahっ?…あ、いや……写真に撮って見せて良いか?」

幸村はホッと表情を和らげ、「お願い致しまする」

お願いするのは政宗の方だというのに、幸村の頭は立場を逆転して捉えたらしい。大いに助かる政宗だが、あまりの素直さや信じやすさに少々呆れも起こる。

やはり、このどこか抜けたpure angelには、俺みてーな見守り役が必要…いや、friend視点だけどな?angelっつーのは。
頭の中で誰にともなく言い訳すると、


「ま、そう力まず、お前は普段しねーfashionを楽しみゃいーんだ。俺に任せとけ、とびきりの男前に仕立ててやっから」

「は、はい…!」

言いながらそれも純粋に楽しもうと、政宗は服を手に取り始めた。












(やべぇ…)


──楽し過ぎる。


時計を見れば、あれから二時間近くは軽くいっていた。
幸村の『変身』に夢中になり、いささか目的を忘れかけていた政宗。


(やっぱ、こいつ良い素材持ってんだよなぁ…)


初めは無難なカジュアル系から…としたのが、思った以上のハマりように火が点いてしまった。
靴も何足も履き替えさせ、ハットだキャップだダテ眼鏡だの、あれこれ試してはその変化ぶりに心を踊らせる。

恐ろしいほどに幸村は何でも似合い、身に着けるだけで顔の良さが際立った。特に被り物はどれとも相性が良く、ヘッドアイテムのために生まれてきたんじゃないかと感動したくらいである。

しかし、目指すのはもっと男臭いイメージだ。惜しい気もする上、きっと『服に着られる』状態にはなるだろうが、この誤った己の熱も少しは冷めるはずだ。



「い、いかがでござるか…?」
「Ahー…」

クラスメイトの話が色濃かったせいか、着せてみたのはスーツだった。…のだが。


「政宗殿?」
「大人しくしてろって」

政宗はヘアワックスを手に取り、幸村の髪にくしゃっと馴染ませる。
後ろから前に髪を寄せ前髪を横に流すのも、逆に前髪を全て上げて後ろに流すのも、どちらもスーツ姿とピタリと合致した。さらに、スーツは一流メーカーだけあって、スタイルの抜群さはどの視点から見てもパーフェクト。


「Ohー…マジかよ……んだこのイケメン」
「えっ……」

幸村はサッと頬を染めるが、

「ま、真でっ?男らしゅうございまするか?」
「ああ。これなら、二十歳越えでもいけんだろーぜ」

「おぉぉ…!」

よほど嬉しかったのだろう。
幸村はさらに紅潮させると、姿見の中を誇らしげに覗き込んだ。

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