数年分を数日で4
ここ数年、一人たりとも女を抱いていない。…記憶のある限りは。
多忙でそんな余裕もなく、恋人を必要とする欲求さえも削がされ、
『癒し』は、別にそういう相手でなくても手に入る…と知ってからは、興味も潰えてしまった。
──などと、考えていたからだろう。
この夢は。
細く華奢な腰を掴み、何度も何度も自身のものを行き来させる。
己の下で揺れる白い躯は、顔が見えない。
であるのに、異様なまでに昂揚していき、
(…っ、……)
『まずい』と、一旦止まる。
しばらく、落ち着くのを待つのだが、
(あ…っ?)
体勢が逆転し、自分が仰向けになっていた。
視界を覆う、白く光る引き締まった肢体。
見えない顔が自分を覗き、…少し笑ったようだ。
こちらの髪を撫でようとしているのか、手を伸ばして、
(余裕……振ってんじゃねぇ…ッ)
無性に苛立ち、再び下から突き入れる。
揺らめく身体が艶かしくて、また考えなしに動かしてしまう。いつもなら、余裕など手に余るほど携える己であるというのに。
まるで、まだ不慣れだった、昔の頃のような。
腰が甘く砕かれ溶かされていき、止める術が見つからない。
滅茶苦茶なやり方でも、少しは快楽を与えられたのか、白い上半身がこちらに傾き、相手の頭が近付いた。
(……っ!?)
見えたその顔に、全てが引いていく──
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「……ッ!」
ガバッと起き上がり、
(……あぶ、ね…ぇ……)
下着に手を入れ無事を確認し、ほぅっと息をつく。
この歳でそれは、精神的にもかなりの大ダメージだったことだろう。
しかも、小十郎は夢精の経験がないので、とんだデビューになるところであった。
(…あ……)
腕が、昨晩より太くなっているのに気付き、鏡の前に立つ。
また成長しており、高校生頃の自分の姿に変わっていた。
顔は、どこかまだ少年らしさは消えていなかったが…
身長は、現在のものとほぼ同じで、一回りは細い体躯。
だが、幸村の服は最早きつく、Tシャツは脱ぐことにする。
(もうしばらく寝るか…?)
まだ七時前だったので、ベッドに倒れてみたが、
(……治まらねぇ…)
股の間に手をやり、溜め息をついた。
トイレに行くか迷いながら、目を閉じていると、夢の光景が浮かぶ。
(溜まってたんだとしても……あれはねぇだろうが…)
これまで、現実にいる身近な相手がそんな夢に出たりはしたことがなく、自慰の際に浮かべた試しもない。
それが、しかも女でなく男で…
…かつてないほどに、熱を持ってしまったのだとは。
あの苛立ちは正しく、寝る前に感じていたものと同様。
反抗期によく抱いていた、向けられる「子供扱い」に対する、不服…。
「っ?」
ベッドが揺れ隣に目をやると、──寝転ぶ幸村の姿。
トイレに行った帰りで、寝惚けたままであったのか、普段の場所に戻ってしまったようだ。
(…部屋に帰ろう)
何故、そんな簡単なことが思い付けなかったのか。小十郎は歯噛みしつつ、身を起こそうとしたのだが、
「んー…」
「!?」
幸村が寝返り、小十郎の腰に手を回してきた。
片方の手のひらは、髪の中に差し込まれ、
「かたくらどのぉー……よしよし…」
初めの一言にはドキリとしたが、続いたものに瞬時に冷まされる。
『二人で寝ようと思っておったので…少々残念ですが──』
同じように夢に己を見ているらしいが、それは、あの幼児の自分であるようだ。
幸村が、最も目を輝かせた自分。
昨晩のより今のより、そして、現在の本当の自分の姿よりも。
…小十郎の胸に、再び苛立ちが沸き上がる。
「おい」
「ふ…?」
肩を揺らすと、幸村は薄く目を開け、
「か……、片倉殿…!?何故、」
「お前が、寝惚けて入ったんだ」
「え……あ」
すぐ理解した幸村は、「すみませぬ」と起き上がり、
「…片倉殿、また大きく……」
「ああ…」
「あっ、暑かったでしょうか?」
「いや、きつかったからな」
ジャージのズボンだけになっている彼を、幸村は上から眺め、
──股間の状態に、固まる。
「…仕方ねぇだろうが」
隠しても治まらなさそうだったので、もうヤケな思いでそうしていたのだが。
「あ…っ、はいっ…!そっ、某ちょっ、……あッ!買い物に行って来まする!下の、コンビニに…!」
真っ赤になり、幸村はあたふたとベッドから出て行こうとした。
(……だから、そんな反応…)
小十郎の頭と胸は、急激な機能低下をきたしていく。
「片倉殿…?」
「………」
「えっ…」
小十郎に腕を掴まれ戸惑う幸村だったが、それを引かれベッドに倒されたことに、忙しく瞬きする。
上から覗かれると、
「『世話』ってのは、これも含まれるのか?」
「は……」
膝で立ち、小十郎は腰を前に突き出す。…そこを、見せ付けるように。
幸村は、「??」といった顔になるが、
「夢の中にお前が出てきて……で、起きたらこうなってたんだ。…責任を取れ」
「…っへ……ぇぇえぇ…!?」
仰天し、幸村は目を白黒させる。
が、小十郎の頭は、先のことを全く考えられなくなっていた。
身体の熱と同じく、心のものも早く吐き出してしまいたい──それだけに囚われ、
「今の『本当の俺』は、ずっと気付かねぇ振りをしていた……が、よく分かったぜ。何で、お前に対してこうなっちまうのか」
「あ…、の…」
戸惑いの消えない幸村に、小十郎は苦笑いを浮かべると、
「どうも、惚れちまってたらしい。…気色悪ぃだろうが」
「──……」
意味を解すためか、幸村の瞬きの数が急増する。
(この頃の自分なら、こんなにも早く理解し受け入れ、…伝えられていたのか…)
大人になると、どうしても持たされてしまうしがらみや、硬い殻などが一切もなくて。
取り返しのつかないことを言ってしまったというのに、気分はやけに清々しい。
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