数年分を数日で2



「当たり前だろうが。…政宗様や他の奴らに、絶対に言うんじゃねぇぞ」
「政宗殿はともかく、信じてもらえませぬよ、こんな…」

あ、でも…と、幸村は呟き、


「言いませぬから、元に戻るまで、世話をさせて下され」
「あぁ…ッ!?」

小十郎はいきり立つが、「でないと、言いふらしまする〜」と、幸村は得意顔。

…彼が、いつもよりずっと小さく、強面も迫力がないから──なのだろう。


「世話なんざ…」
「しかし、不慣れな身体では、何があるかも分かりませぬ。…本当に、心配なのです…」

「………」

さっきとはまるで違う、消沈した表情で言われれば、小十郎もむげには断れなかった。


──その後、お子様ランチを注文させられ、小十郎の不機嫌は増すのだが、



(……美味ぇな)


味覚も変わっているらしく、結局完食してしまった。

昔に食べたのを思い出し、両親の顔も浮かぶ。


「おまけや、この旗に喜んでおりました…。懐かしいですなぁ」

ランチに付いたおまけの玩具を触りながら、幸村が目を細めた。

食べている間、ずっとそういった慈しみの眼差しを向けてくるので、居心地が悪くはないが良くもないような──奇妙な気持ちに、身体がムズムズさせられる。


その後、懐旧の思いのままクリームソーダを頼み、小十郎も付き合わされた。


「はい、片倉殿!分けてあげまする」
「おい…っ!こんなに食えるか」

自分のアイスを小十郎のグラスに分け、幸村は満足顔。


「一度だけさせて下され…っ」

と、あまりにしつこいので、小十郎は、またもや彼の願いを許した。



「はい、『あ〜ん』でござる♪」


「………」

スプーンで取ったアイスが小十郎の口に消えると、幸村のニコニコは輝きを増す。


(何がそんなに楽しいんだ…)


全く理解不能だったが、彼と話すだけで心が落ち着くのは、大人のときと変わらない。

そして、見たこともない表情を多く目にし、心中は、外に出している顔とは逆の気持ちで一杯だった…。




…………………………




ランチの後は、近所の河川敷でキャッチボールをした。

…これは意外と楽しくて、小十郎も本当に『童心に返って』いたのを、大いに自覚する。

幸村がスポーツ万能だとは知っていたが、このように一緒に何かをしたことはなかったので、コントロールの良さなどには感心した。

が、彼も彼で、

「片倉殿、こんなに小さい頃から野球のセンスがあったのですなぁ!」

と、実に楽しそうに笑う。


「お前も、大したもんじゃねーか?」
「そういえば、久しく政宗殿とも……今度、バッティングセンターにでも行きませぬか?時間が取れましたら」

「…そうだな、それくらいなら可能かもな」
「早く、お仕事が落ち着いたら良いですなぁ」

休めたら、皆で試合しましょうっ!と楽しげに言う顔に、小十郎も釣られる。



(仕事のときより、動いてるってのに…)


しかも、こんな小さな身体になって。

…だというのに、疲労はどんどん取れていくようだ。


(あの桜餅……食って、損ばかりでもなかったってわけか…)


夕飯の買い物を一緒にし、その晩も幸村の家に泊まる話になった。













幸村が作ってくれた料理は、子供に高人気のカレーライス。──もちろん、甘口。

「小学生以来で、新鮮でござる」と、幸村も同じものに付き合ってくれた。

小十郎の方は、カレー自体が久々だったのだが、『こんなに旨いもんだったか?』と驚きつつ、おかわりまでしてしまう。

…それに喜ぶ幸村の顔を見ていると、その理由を少し理解できた気もした。


後片付けは手伝うと申し出たが、「危ないから」と、断固拒否され、傍で見ていることにする。


(まさか、こいつを見上げる日が来ようとはな…)


もう慣れたとはいえ、不思議な光景には変わりない。

洗い物をしている横顔に目を向ければ、彼は何も違わないはずなのに、どことなく大人びて見えるのは、角度の問題なのだろうか…



「さぁ、風呂に入りましょう!」
「…あ?」

ボーッとしていたらしく、それまでの彼の行動を分かっていなかった。


(まさか、一緒に──)


冗談じゃねぇ!と、すぐに反論しようとするが、


「某、髪を洗って……洗わせて下されっ」
「中身は同じなんだ、それくらいできる」

「『世話』でござるよ、これも!でないと、政宗殿に喋りまするぞっ?」


(しねぇくせに…)


が、幸村は一歩も譲りそうにない。

結局、小十郎はまたも押しきられてしまうのだった。











初め、彼はやはり後悔した。

…服を脱ぎ改めて自分の身体を見てみると、色々と情けない気持ちで一杯に。

しかし、幸村は何も指摘して来ず、気にもしていないようなので、もう開き直ることにした。

さっさと出てしまおう、と大人しく髪を洗われる。



(案外、気持ち良いもんだな…)


美容師の腕には及ばないというのに、ついウトウトしてしまいそうになる。


「…某……」
「ん?」

背後にいる幸村を、前の鏡越しに見ると、


「ずっと弟が欲しくて、憧れておったのです。キャッチボールも…」

照れたように言い、彼も鏡の中の小十郎に笑いかける。

小十郎が顔を歪ませると、それから逃れるように、「流しまするので、目をつぶって下され〜」と、桶を用意した。

再び心の中で舌打ちし、小十郎は従う。


何度か湯を被せられ、


……………


「──おい、まだか?」
「…あっ、すみませぬ!もう大丈夫でござる」

その返答に、やや憮然と目を開ければ、


「大人しく目を閉じておる姿が、子供らしくて、つい…」
「………」

「あっ、いえ!嘘でござる!」

出て行こうとする小十郎を慌てて引き留め、湯船に促す幸村。

自分も急いで身体を洗うと、一緒に浸かった。
浴槽は結構広いので窮屈ではないが、距離は大分近い。

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