勝率0%確定2



「だ、大丈夫か、佐助…?」

「……」


頭を殴ってから、しばらく何も話す気になれなかった。
旦那がそう聞くってことは、きっと、もう俺様自身の表情に戻っているんだろう。

大将の心配をしないのは、その必要がないくらい、身体が頑強だと信じきっているからだ。…俺様と違って。



「……い」
「え?」




「…旦那なんか、大っ嫌いだ…」



今日は、ついても良い日なんだから。

だけど、その反対の言葉を伝えるためじゃない。そんなのが通じない人だってのは、さっきのでよく思い知った。

だから、


(ちょっとでも想ってくれてんなら、これで分かるだろ…)


俺様が感じた、この、




「…『嫌い』っつったんだけど…?」


(何で?)


──何でこんな顔して、

…なん、で…



「だ、…から…、だ、ろぅ、…」



それは、今までになく嬉しそうな顔と、

…自分の背に回される、旦那の両腕。



“だから”

その言葉と、彼の表情を逐一見比べる。


“だから…”

“よって、”

“…つまりは、”



「旦那、今日が何の日か覚えて…」

「初めてだったが、お前のはすごかったな!本当にお館様のようで、見事であった」
「…え、」


(あ、あれもバレて…)


だというのに、知らない振りで付き合ってくれたと?


(…マ、ジ、でぇぇ…っ!?)


は、恥ずかし過ぎる…ッ!

何て失態!
俺様としたことが、しかも旦那の前で…


(…や、ちょっと待て)


てことは、何?もしかして、


『佐助が足を滑らせ…』
『そのような貧弱な身体』
『お館様に決まって…!』


あれも、全部嘘…?


「──なの!?旦那ァッ!?」
「(うおっ?)お、おう…っ」

俺様の勢いに圧倒されてたけど、旦那は確かに頷いてくれた。


「じゃ、じゃあ…、…大将より、俺様のことが…!?」
「し、ぃぃッ!…おっ、お館様が、起きてしまわれるだろうがっ。…い、言うなよ?決して…」


「…だっ…旦那ぁぁぁ…っ!!」

別に大将に見られたって。
いや、そんなこと考える数秒でも惜しい。

俺様は、旦那の身体を力一杯──は自重して、でもこの想いが伝わることを願いながら、抱き締める。


「てことはさ、今朝の…」


『最近、佐助といるとすごくつまらぬのだ。お前の傍に寄るだけで、気持ちがしぼむ…』


「──ってあれも、…」

「言った後で、猛烈に恥ずかしくなってな…。佐助、きっと笑っておるだろうと」
「…まさか」


(この世の終わりか以上に、ヘコんでたっつーの!!)



え〜〜、つまり、…何だ、


『最近、佐助といるとすごく楽しくてたまらぬのだ。お前の傍に寄るだけで、胸の動悸が治まらず、恥ずかしくてならんから、どうしようもない。好き過ぎて、わけが分からなくなる』


…って解釈で良いんだよね?

ですよね!!?


(一時は、もうフラれちゃうのかと…)


──実は、付き合ってからは、まだ日が浅い俺様たち。
ずっと一緒に暮らしていたとはいえ、そっちはまだまだ一年生なのだ。

劇的な回復(これこそ、それ以上に)を迎え、世界は光に満ち溢れる。


「でも珍しいね、旦那が…」

「佐助はいつも言ってくれるが…俺は全くだろう?お前は、俺の性分をよく知ってくれておるしで。だが…」

旦那は、恥ずかしそうに睫毛を伏せ、


「いつも嬉しい…のだ。それを、お前にも……だが、何度も機会を逃してしもうて。それで、この日にちなんだ話を目にし、真似をな…」



(やっぱ、今日の運勢…一位だったわ)


結構本気で恨んでしまったことへの罪悪感の分、旦那の真っ白な想いが、一層綺麗でいとおしくなる。

旦那自身も、より一層…


(…だよな。俺様なら、あんな嘘見抜けて当然だったのに…)


というくらい、彼に関してだけは、普通ではいられなくなるのだ。
恐らく治る術は一生見付からないだろうし、それで構わないとも。

──その度、こうしてまた積もりゆくのだから。



「佐助…、う、嬉しかった、か…?」
「あ、当たり前じゃん…っ!」

(…ヒヤリともしたけど)


「また、好きんなっちゃった。あと何回言えば、全部渡せられんのかなぁ…その間にも増えるってのに」
「お、俺は、」

「旦那はね、大丈夫。俺様、耳良いでしょ?…いつも、聞こえてっからさ」

ね、と髪に軽く口付けを落とす。

こんなよく分からない、一歩間違えれば正常ではない(いわゆるキモい)比喩や言動も、俯きはするが、旦那は毎回歓んでくれる。


「ちょっと遅くなったけど、すぐ昼ご飯作るから」
「あ、実はな…たまには良いかと」
「おー、久し振り!…俺様の好きなの、覚えてくれてたんだ」
「う、うむ」

旦那が買って来てくれたハンバーガー屋の袋の中身に、またまた感激してしまう俺様。


「それと、元親殿にシジミとハマグリを頂いてなぁ。お館様に、」
「旦那ってば、さすが!(俺様が行くときゃアサリなのに、親ちゃんの奴…)」

大将への罪滅ぼしも兼ね、夕飯には、美味しいシジミ汁+胃に優しい海鮮料理を、たんと作ってやれそうだ。

ハンバーガーを頬張りながら、二人して目で笑い合った。



「美味しいね」
「おうっ!」


──そんな、ある春の幸せな一日。





(見た目は)だましあいっこ

騙されたもの負け
(一生勝てる見込みなし)









「………」


(今日も、謙信の家へ邪魔するとしようかのう…)


親の心、子知らず。


起きるタイミングを、先ほどからずっと潰され続けていた信玄。

これを話しても、『よきこと』と菩薩のように微笑まれるばかりで、いつも力が抜けてしまうのだが。
かくいう自分のこれも、ヤケ酒とは反対の結果であり、向こうには全てお見通しなのだろう…

信玄は美麗な親友を思い、微苦笑を浮かべていた。







‐2012.4.1 up‐

あとがき


読んで下さり、ありがとうございます!

4/1企画お題(色付き二題)は、【biondino】様から拝借、感謝^^

ネタ、バレバレですね(--)
そして、勝手にやってろって感じですよねぇぇすみませんんん(@_@;)

すごい嘘をつくなぁ、と思いながら、便乗して佐助を褒めまくろう!と張り切った旦那。大して褒められてないですが;
『お館様とどっち』は、照れてしまい、ついためらった^^

口調がお館様にそっくりだったんで、旦那は気付いてないんですが、最初の『幸村』だけで、それ以上名前呼ぶの無理だった佐助。(照れで)

いつもこんな二人ですみません…(´ω`)


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