かみかくし(後)-4







メールのやり取りは、一日一回。



だが、だからこそなのか、今まで交わしたどんな相手のものよりも、待ち遠しく、心が華やぐ。



『今、何考えてた?

俺は、最近お前のことばっか考えてるよ。

今日は、ちゃんとご飯食べられたのかなぁ、夜眠れたのかなぁとかさ。

食堂の手作りプリン、すげー美味かったよ?あれなら、幸も食べられると思うんだよな』






『某も、慶次殿のことを考えておりました。それで、いつもいつも考えておりまする。

すると、お腹が減るのでござる。
ですが、調子に乗って食べ過ぎると夢見が悪いので、少しずつにしております。

相変わらず眠りは浅いのですが、時々慶次殿が夢に出て、一緒にバスケをやっておるのですよ。

プリン、食べとうございまする』






『今日、一回目が合ったよな?
勘違いじゃなけりゃ良いけど。

俺、ずーっとニヤニヤしてたよ、あの後。友達にもツッコまれたしでさ。

昨日は眠れた?
今日の夕飯メニュー、消化に良さそうだったよ。

明日も合ったら嬉しいな』






『慶次殿が楽しそうに笑っておったので、つい見てしまいました。

本当は、もっと見ていたいです。

悪夢は続きますが、最近、必ず朝方に良い夢を見るようになりました。
慶次殿が笑っておる顔と、あの漫画の面白かった箇所など…

プリン、美味しゅうござった!
夕飯も、楽しみでござる』






『最近、お前に会いたくて仕方ないよ』






『?毎日、お会いしておりまする。

土日は、抜かることもありまするが』






『そうじゃなくて、本当のお前と。メールでなく、生身で。

あの晩、もっと触っとくんだった』






『無体を仰らないで下され。
某は、これだけで本当に、今までになく楽しゅうござるよ。

ご飯と同じで、望み過ぎると、上手くいかない気が致しまする。
慶次殿には、ずっと学校にいて欲しい。
どうしてか、某が気になっていた方々は、転校することが多いので。

でも嬉しゅうござった。
今日はよく眠れ、良い夢を見られそうです。

某も、慶次殿と目が合うと、嬉しいです。

あの手の温もりを、いつも胸に抱いておりまする。
これさえあれば、何もかもが暖かくなりますので』











(…ん?)


部屋を掃除していると、見慣れないメモリが出てきた。

何だっけ?と、パソコンに挿し、開いてみる。




……………………




『……………………………………………………………
………………………………………………………………
………………………………………………………………
………………………………………………………………
………………………………………………………………
…………一夜限りの舞台は、これでおしまい………』



──その後は、無音。





(こ……れ、は…)



慶次は口元を押さえ、その背には冷たい汗が流れる。


あの友人は、数ヶ月前に転校した。

あの教師も、春の連休中に。



『神隠し』──




(あ、れ…?何で、俺……今まで、忘れて…)



──おかしい。


だいたい、あの友人は、録音したこれを、どうやって自分の手元へ?

…記憶のない物が、何故この部屋に。





「!!」

突然ケータイが鳴り出し、慶次は身を固める。


…深夜にも近い時間。

相手は、──非通知。




(ま、さか…)


全身が震えるが、どうにかボタンを押した。



「も、しも、し…?」
『………』

沈黙が、恐怖を煽る。


「あの、」






『……ぃじ、どの…っ』



(え…っ!?)


慶次の恐怖は吹き飛び、


「ゆき…っ?」


(ウソっ?何で?マジでっ?)


混乱の中、胸には喜びが湧くのだが、




『…も、無理でござ…っ、嫌でござる、きもちわるい…!あれは、夢ではなくて!…二人は、毎晩おれにっ…』

「え…」





(……あ、そっか)




その声で、慶次は全てを思い出した。


──あのメモリは、自分が作成したものであったと。



あの日、友人のケータイは、ずっと慶次のものと繋がっていた。

それを録音し、もしもの際には警察に提出してくれ、と頼まれていたのだ。

慶次の方からかけ、友人の特殊なケータイは、着信履歴の時間がデタラメに表示されるようになっていたので、あの二人は疑いもしなかっただろう。


…しかし、慶次はそれを提出せず、今の今まで封印していた。

自身に暗示をかけ、記憶までも同様に。


何故なら






「幸…落ち着いて。…二人にバレたら、大変だ。静かな声で──そうそう。ゆっくりで良いから。…何があったか、教えてくれる…?」





…そうだった。


自分は、これを待ち望んで。




『……依存だよ、依存……』


あの言葉を耳にし「なるほど」と共感して。
佐助が、幸村の政宗への『嫌悪』を利用していると聞き、


『あっ、俺もそれ使わせてもらおう』

──と。


自らの記憶を封じたのは、あの二人に、己が何か知っていると感付かせないためでもあった。(自分は、顔に出やすいたちなので)




夢か現か分からない状態で続けられる、幸村への『調教』

心の底では佐助をも拒んでいるのならば、次に信頼するのは何だ?


今までは、それが現れなかった。

だが、こちらからも、彼の無意識に領域を広げていけば、いずれは?


もしかしたら…





退屈しのぎなどではない。
本気だ。

本気で、落ちてしまった。
同じ、男であるのに。

彼らの言う通り、望みはゼロに近いというのに。


手に入れたい、…どうしても。


自分には到底不似合いである、このような手段まで使い。

あの話を聞き、自分が救世主になり、二人を悪役にできる可能性に、ひどく歓喜してしまったなんて。


汚れているのは、彼らだけではない。
何故そうなるのかも、自分たちにしか理解できないものであろう。


…それほどに、彼という存在は。



(だけど…)


俺が本当に欲しいのは、

あの素顔だ。


そこだけは、彼らより幾分か鼻を高くしても良いと思う。




大丈夫。

すぐに、そこから救ってあげるから


…少しだけ待っていて。





臭いものには、蓋をしろ。

禍となるものなんて、隠すが利口。



“かみかくし”



(あいつらがやってたのは、『禍実隠し』だったよな……なんつって)



だけど、その努力と功績は、絶対無駄にはしねぇよ──…




慶次の笑みと表情は…

彼が初めて見た、あの二人の陶然としたものに、酷似していた。







‐2012.4.14 up‐

あとがき


読んで下さり、ありがとうございます!

完全なる自己満足・意味不明文でしたm(__)m
かなり前から書きたかったものなんですが、学パロ終わるまではな…と。
テンションもあれですが、最後が慶次?な展開だったので。

黒い話でも、いつも攻めは幸村を優先するのですが、今回は自分優先でした。ひどい捏造に題材、すみません(´Д`)

慶次のケータイも、何かスゴいハイテクだったんでしょう; 暗示も、何やかんやでどうにかした。

私、捏造キャラの扱いひどいですね…(--;)


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