かみかくし(後)-3







「とうとうバレちゃった。…どうすんの?」

「どうもこうも。あいつの言う通りにするしかねーだろ」


「そーだねぇ…」

佐助は、押し殺すように笑うと、


「今なら、『姫を愛し過ぎた悲劇の王子』で済むもんね。多分、アンタのファン一層増えると思うよ?」

「…Han」

政宗の失笑に、佐助の笑みは何故か増し、



「それだけが真実ならね」



……場の空気が固まり、冷たく凍り付く。





「…Ah?」

政宗は、大分遅れて聞き返したが、…心なしか、顔色が悪い。

佐助は、それを楽しむように覗くと、


「知ってたよ…あれは、偶然なんかじゃなかったって。悪魔が、森に入った旦那と会ったのは、誰かさんに仕組まれてたものだった…ってこと」


「…ち、が…、…俺、は…」

政宗は掠れた声を出すが、


「ああ、分かってるって。旦那を心から愛してるアンタだもん、そんなつもりじゃなかったことくらい。…襲わせたかったのは、もう一人の方。
旦那と仲の良かった、『**君』──でしょ?」

「………」

黙ってしまう政宗だったが、その左目には暗い光が灯る。


「そうそう、その目…二人を、いつもそんな目で見てたよね。ずっと、俺かアンタかと一緒だったのに…どういうわけか、転校生の彼と同室になって。そりゃ、悔しいよなぁ」

佐助は嘲笑うと、


「目の前で襲わせてショックを与えて、彼を守れなかったと自責する旦那を、アンタが優しく包む──とか、そういう作戦だったんでしょ?…なのに、大金渡して雇った少年嗜好のあの偽教師は、何故か旦那を。…悪夢だったろうねぇ」


政宗は唸るように、

「俺は、はっきり伝えた…何度も。あの野郎は、『好みだ』と舌舐めずりしてやがったんだ。なのに、**の首を絞めた。…何でだ…」

「で、もう動かないってのに、彼を必死で庇う旦那に、」
「やめろ!!」

「………」
「………」

悲痛な声で政宗が叫ぶと、再び沈黙が訪れた。




「なぁ。…お前は、何だ?」
「え?」

佐助が眉を寄せると、


「お前は、何故ずっとあいつの傍にいる?
……あいつを、嫌ってるんだろう?」

「はぁ?」

思わず意表を突かれた表情になった後、佐助は嘲笑し、

「何年も一緒にいて、よく」


「Shut up…まぁ、聞けよ。…俺も、お前の『秘密』知ってんぜ?」

政宗は、汚いものでも見るかのような視線を、惜しみなく佐助に送っていた。



「お前──…いただろ。

…あいつがヤられてるとき…いや、**が動かなくなる前から、ずっと潜んで、見てたんだろうが…っ!?」


最初の一突きの際、偽教師が漏らした言葉。…彼は、ギャラリーがいることに愉悦を得ており、わざと気付かぬ振りをしていたのだ。


「正気の沙汰とは思えねぇ…!何でだ!?お前は、いつもあいつを可愛がってたじゃねーか?それは『振り』で、本当は憎んでたんだろッ?──としか、思えねんだよ…!」

怒りざま、政宗は佐助の襟首を掴む。

が、佐助は表情を変えず、笑みさえ浮かべたまま、


「嫌ってるわけないじゃん?大好きだよ。…アンタと同じで、物心ついたときから、世界は旦那一色」
「っ!?じゃ、何で、」

政宗は目を見開くが、佐助はわずかな笑みだけを残した、静かなる表情へと変わっていく。


「振られたんだ…随分前に。アンタは、あのときに自分の想いを告げただろ?あれよりも前にさ」
「…で、その腹いせに、見て見ぬ振りか?」

まさか、と笑うと、


「もう、一生叶わないと知ったから。どうにかして、他の方法で旦那の心を手に入れたかった。そこに、あんな絶好のチャンスがやって来て。

そりゃ、辛かったよ?何度も何度も旦那に謝りながら、目を瞑って声だけ聞いてた。一生分、泣いた。

でもね、それを乗り越えれば『叶う』ってことの方が、大事だったから。…アンタもね、旦那に振り向いてもらえるかもなんて夢は、さっさと捨てた方が良いよ?俺様は、アンタへの嫌悪さえ、利用させてもらってんだから」


「嫌悪だと…?」

「旦那からの、ね。…他の奴らに嫌悪すればするほど、一度振って『安全』だと認識した俺様への信頼は、高まる一方。依存させるためだよ、依存。何だって良いから、俺様がいなきゃ駄目だと教え込ますために」

ペラペラと、狂ったように回る口。
政宗は顔を歪め、唾を吐く。


「分からない?しょうがないな、教えてやるよ。『**殿を好いておるから』っつって、振られたの、俺様。アンタの計画知って、旦那が襲われるかも知れないとも、予想してた。何でってさ…」





──**は、女の子だったんだよ。





「Ha…?」

「アンタもあのときゃ、かなり喪失してたから…知らなかったでしょ。だからだよ、悪魔が首を絞めたのは。服ひんむいたら、自分が一番嫌いな生き物だったから。腹立ててさ。で、矛先が旦那に向かったわけ」

政宗は声を失い、茫然と佐助を見ていた。


「だからね、無理なんだよ。旦那は、絶対俺らなんかとそうなんない。俺様も最初は知らなかったから、何であんな奴をって…けど、分かってから頭切り替えることにして」

「…じゃ、あいつは……言われなくても、女を知って…」

佐助は苦笑すると、


「小学生だったし、そりゃないんじゃない?でも、知ってたんだから、何かはあったんだよね。漫画みたいな、ラブコメ的なのが。お嬢様の道楽だったらしいけど、旦那はもうメロメロでさぁ…」











「…つーのが、真実だ。一つ残さず聞いたかよ?Guy?」


「──…」

政宗が部屋のドアを開けると、潜んでいた人影が、ゆらゆらと蠢いた。



「ああ…そんなに震えなくても、大丈夫だよ。アンタだけじゃない…仲間は、沢山向こうで待ってるから」

後から来た佐助が、慈愛の笑みでもって、それに近付く。



「Haー…久々だったから、肩凝ったぜ。後で揉めよ?」

「ハイハイ。てか、俺様のが台詞多くて大変なんだからね。ったく…」

二人は、幸村の前で見せる、あの優しい笑顔を浮かべ、


「何も分からないままなんて、嫌だもんね。だから、俺様たちはいつも、敬意を払って『聞いて』もらってるんだよ」

「アンタは、○人目のaudienceだ。ご静聴、special thanks。一夜限りの舞台は、これでおしまい」





“大丈夫。


少々足元はフラつきますが、


しっかり支え、帰り道までご案内致しますから──…”














分かってるよ。
彼が意識の底では、俺様の気持ちが変わっていない事実に、気付いてることなんて。

知ってるよ。
俺の気持ちを忘れてやしないし、ただ罪悪感から、離れられないだけだという事実は。

…そして、俺たちの存在こそが、あの獣の行為を忘れさせない、最大の原因であることだって。


だが、そんなものは、汚れきった自分たちには、今さら何の傷も、咎や枷さえ負わさない。


傍にいてくれるなら、それだけで。
…現実では、触れることはできなくても。

彼を独占できれば、それで良いのだ。


そうして、この先もずっと三人で
灰色の泡雲の中を、漂いゆく。


終わることのない幸福に浸りながら。










翌日。


生徒一人の、急な転校が知らされた。








※次がラストですが、政+佐→幸がお好みでしたら、ここで止めるのもアリです^^

慶→幸と、タイトルにかけた(しょうもない)含みも見てやるか、という心の広い方、次ページへどうぞ。

その後の様子も少し窺えますが、嗜好によっては後味悪いかも…m(__)m

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