愛しの御主人様3







(わー…夢じゃなかったぁ…)


朝目覚めて、幸村が隣にいるのに感動するケイジ。

今日、猫たちはいつ帰ってくるのだろう。
その前に、昨日許してもらえた『甘え』を、できる限りやっておかなければ。


ぺろっ

寝ている幸村の顔を舐めると、「ぅん…」と反応したが、逆側を向かれてしまった。


(起きてよ、幸村〜)


つぶしてしまわないよう、前肢で自身を支えながら、幸村に覆い被さる。

顔だけ近付け、何度も顔を舐め…


(…うーん…?何か、舐めにくいな…)


舌がしびれてきたので、鼻先を寄せるだけに変更。

すんすん、すりすり

すべすべの肌を滑るのは、とても気持ちが良い。


(腹減ったなぁ…)


昨日から思っていたことだが、幸村からは、やたらと良い匂いがする。
甘くて美味しそうな──特に、ここから強く…


(寝る前に、ジュースでも飲んだのかな)

その場所を一舐めすると、


…想像以上に、甘い。



(エサくれないと、これ食べちゃうよー)


はみはみ、かぷかぷ

ケイジは、軽い力で幸村の唇を食む。
柔らかくて、甘噛みする度、唾液を誘う味が口の中に拡がった。


「…っふ、…ん、…っ!?」


(あっ、起きた?)


さすがにだったのか、幸村がうっすら目を開き──忙しなく瞬かせる。


「……っ!?」
「おはよー幸村!俺、腹減ったよ〜、エサちょーだい」
「──!?……!?」

幸村は口をパクパク、言葉を失っている。


「え、?はっ…?ど、どどどちら様…っ?」

顔を赤くし唇を覆う姿に、ケイジはキョトンとする。
だが、すぐピンときたように、


「あ、寝惚けてる?やだなー、俺じゃん!ケイジだよ〜、よく見てくれって」
「…!?け、ケイジ殿…っ?」

(あ、やっと分かってくれた)


「さっ、エサ出してっ?待ちくたびれちゃって、そこ食べちゃうとこだったよ」
「…ッ!」

再び、ボンッと顔から湯気を出す幸村。

ケイジは笑って、


「どーしたんだ?さっきから、幸村へん〜」
「ええぇぇ、いやあの」
「まだ覚めねーのー?」

ぺろぺろっ

「ひぁッ…、やめっ…」
「あはは、幸村可愛い」

首筋を舐めると、いつもと違い弱々しく瞳を潤ませる。
それがケイジの目に心地好く、何度も繰り返す。


「…っ、がみ、…鏡を、見て下されぇ…っ」
「え?」
「今、すぐ…!」

でないとエサを抜くと言われ、ケイジは慌てて姿見の前に移動。

そこに映っていたのは、


(──誰?)


自分の毛と同じ色をした、長い髪。
四つん這いになっているので、それが背や首元に、パラパラと流れる。

…幸村たちと同じような、人間。


ケイジは、ポカンと鏡を見つめる。
それが、前にあるものを映す道具、というのは知っていた。


(やっぱ、夢…?)


…だから、舐めにくかったのか。

ああ、もうこの体勢も、しんどいな。


ケイジは、四足歩行をやめ、人間で言うところの『足』で立ち上がった。




「──どうしよう、俺…もう、元に戻れねぇのかな…?」
「ケイジ殿…」

シュンと項垂れる姿は、犬のときに見せるものと、ほとんど変わらない。

…幸村は、心を痛めた表情になる。


「こんな姿じゃ、もう幸村に可愛がってもらえない…飼ってももらえねぇよ…。どうせなら、猫にしてくれりゃ…」

「すみませぬ、ケイジ殿…!」
「え?」

突然の言葉に、面食らうケイジだったが、


「某のせいでござる!某が、『皆が人間であれば』などと考えておったゆえに!…であれば、長くともにいられると…」

今度は、幸村が落ち込み、泣きそうな顔になってしまうが、


「…っあ、でもそれは俺も考えてたよっ?昨日、すっげぇ楽しくてさ!ずっと、このままいられたら良いのにって」
「ケイジ殿…」

「あ、いや…!あいつらがいるときも楽しいよ?我慢とかしてねぇし、寂しくもねーし!拾われなかったら、ずっと幸村に会えなかったんだなぁ、って思うとさ」

「…うっ…」
「(な、泣く…っ?)」

涙ぐみそうになる幸村に、ケイジは一層焦るが、


「ケイジ殿は、やっぱり良い子でござった…犬でも人間でも、全く変わらぬ。──なのに某は、喜んでしまいました。『これからは話せるし、長生きしてくれる』と。…この、あまりの身勝手さ…叱って下されぇぇ!」

「どわッ!」

わー!と、床に額をぶつける幸村に、飛び上がるケイジ。


「………」

だが、すぐにその表情は輝き出し、


「ほ、…本当、幸村っ?」
「え?」

「俺、犬でも人間でも変わんないっ?だったら、これからも可愛がってもらえんの!?」

「えっ」と幸村が言うや否や、ケイジが、抱き付いてくる。…もう学んだのか、ちょうど良い力加減で。


「俺も、幸村と話せて嬉しい!これからも、ちゃんとエサ(朝以外の)は採って来るし、番犬の役目も果たすからな?」

「のわっ、け、ケイジ、どの…っ」

昨晩や先ほどのように、遠慮なく顔中舐め回してくる彼に、幸村の赤面再び。

教育の方は、また一からやり直しか…と思いながら、彼の顔も同様に笑っていた。



「じゃあ、あいつらもこうなってるのかもな?」
「そうであろうか…?」
「きっとそーだよ!楽しみだなっ!」

じゃれつくケイジは、以前よりも犬らしいような…
やはり、我慢させてしまっていたのだなと、幸村は心の中で詫びる。


『ガチャッ』


「おい、玄関のチャイム電池切れてんぞ?てか、えれぇことになって──」

元親が合鍵を持っているのは、長い付き合いの中、単に行き来の簡易化を図ったもので、深い意味はないのだが…

そんな立場の彼であっても、やはり驚き、青ざめはするだろう。


…友人が、素っ裸の大男に押し倒され、色々なところに顔を突っ込まれていたのだから。


だが、彼が戦いた本当の理由は、それとはまた違うものも含む。





「あーあ、耳は元のままが良かったのにな〜」
「どっからどー見ても、完璧な面構えだぜ。俺、マジ王子だったんだな」

「次回は、向こうに(食べカスを)取ってもらうとしよう。(その後は、当然…)」
「…(今度こそ、色々思い知らせてやれる…)」

「とりあえずさ、あの男(家康)はどーにかしとかないとね?」
「いや、俺的にはその前にテメーが消えろ」

「そうだな、まずは二人で決を着けてみては?(結果、双方消えよ)」
「貴様は、他にもらわれるが良い。穀潰しにも程がある」

「はぁ?」
「んだよ」

「…エサ代は、迷惑をかけておらぬが?」
「菓子代に、いくらかかっていると思っている…?」


………………


『ガタタ!』
『ギギギギ!』


外に停められた元親の車が、可哀想なことになるまで、あとわずか。

──窓に浮かぶのは、飛び跳ねる猫たちの形ではなく、複数の人影に見えた…。







‐2012.2.23 up‐

あとがき


読んで下さり、ありがとうございます!

はは…(失笑)
何かもう、ホントすみません。

あの四人は、犬猫かでいえば非常に猫っぽいと、常々。幸村と慶次は、犬。
家康は犬で元親は猫かな?とも思ったけど。

とにかく慶次をああしたかったんですねー結局。

せっかくなのに、攻めが猫耳でして(←描写ほぼないけど)、ただただ残念ですね(´ω`)


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