猿飛さんは闘病3






翌朝、無事元の姿に戻れ、ホッと息をついた三人。
──放課後になり、新聞部の前を訪れていた。


「三成くん、怒ってるだろうなー…」

金吾は、ガダガタと震えるが、


「平気だって。怒りを買う台詞吐いたのは、旦那ってことになってんだし」
「そうでござるよ!某たちがしっかりお守り致しまするので、安心して下され」

「うぅ、ずびまぜん…僕が言ったのに…」
「何の!昨日も言った通り、某こそが思っていたことなのだから」
「そうそう。(俺様的には、旦那があいつらに嫌われた方が、せいせいするし)」

「あ、ありがとうございますぅぅ…」

(見た目は)爽やかに頼もしく微笑む先輩二人に、感謝するよう涙ぐむ金吾。

いよいよ覚悟を決め、ドアをノックすると、


「──ホゥ、これはこれは…」

吉継が、にわかに驚きながらも招き入れる。

中には、都合良く三成と元就も揃っていた。


「昨日は、失礼を申し上げた。『人でなし』は、言い過ぎでござった──申し訳ござらぬ」

が、吉継はニヤニヤと笑い、「いや、正しき比喩よ」と、少しも気を悪くした風ではない。


「これ三成、言わぬか」
「……ッ」

つつかれ、三成は顔をいつも以上にしかめたが、こちらを見ようとしない。

吉継は苦笑し、


「昨日、徳川を訪ねてな…。ヌシがカラクリでないことを、確認した」
「えっ!」


(み、三成くんが、わざわざ家康さんを…?)


金吾を初め、幸村も佐助も驚きの眼になる。


「まぁ、あれはやり過ぎた…と、反省しておるのだ。許せ、金吾よ」
「えぇぇぇぇ(大谷さんが、謝っ…!?)」

ひぃぃ、と恐怖する金吾。

それにすら、愉悦の笑みを浮かべる吉継。
彼は、自分が楽しむ方法をとことん知り尽くしている。


「…刑部、わけの分からんことを抜かすな」

三成は顔の険しさを増やし、


「辞めたければ、そうしろ。長曾我部の心は入れ替えた、貴様の代わりなど誰でも…──家康のところへでもどこでも、勝手に行くが良い。…貴様らもな」


「「……!!」」

恐らく、初めて口にしただろう彼の譲歩の言葉に、金吾と佐助の顔が輝く。

この部から解放される、その喜びに包まれて…




「いいえ、辞めませぬ!!」


((エ゙ェ゙ェ゙ェ゙ー…))


気持ち良いほどKYな一声に、瞬時に闇へ落ちる二人。

それ一途に向かった幸村が、そんな彼らを察知できるはずもなく。


「この幸村も、心を入れ替えたのでござる!今までの不真面目を覆すほど、力を注ぐと決め申した!小早川殿に倣い、皆が楽しみにしておる新聞作りをしていこうと、誓ったのです!」


((…ぎゃーん…))


ハツラツ宣言に、今度は佐助も涙ぐむ寸前。

だが、金吾は小十郎との約束を思い出し、『そうだった…』と徐々に考えが変わっていく。


「…ふん、何を企んでいるか知らんが。どうせ、貴様も家康側の人間だろうに」


((──き、傷付いてる…っ?))


またも、驚愕の姿を前に、三成を畏怖の表情で見返す金吾と佐助。

そんな彼に、幸村は静かに近寄り、


「申し訳ござらぬ。…あれは、石田殿に言ったように見えて、実は自分自身に向けて放った言葉でござった」
「…何だと?」

幸村は目を伏せ、


「某こそが、徳川殿に多大なる劣等感を抱いておりましてな…つい、あのような暴言を…」


((…ちょぉぉっと、無理が…))


金吾たちは冷や汗をかくが、幸村は迫真の表情。
そもそも、既に演技のつもりもないのかも知れない。


「…下らん。貴様が家康に劣るだと?」

三成は唾でも吐くかのように、


「次にほざけば、即斬り捨てる。…ここの部員である以上、奴に劣ることは決して許されない。事実がどうであれ、自ら敗北を口にするなぞは、最早謀反とみなす」

「石田殿…」

無茶苦茶な言い分であるのに、何故だか感激したらしい幸村。

そんな彼を鬱陶しそうに振り切り、三成は、


「分かれば、さっさと仕事に就け。金吾、貴様もだ…!」

「(ヒィ…!)は、はいぃ…!!」
「改めてよろしくお頼み申す、小早川殿!さぁ、取材に参りましょう!」

「は、はいっ、…って、引っ張らないで真田さぁぁ──…」


声の名残だけを置き、二人は部屋から姿を消した。



…………………



(…喜んでる?)


三成の、視線を机上に落とす様を見て思う佐助だったが、


「──あら、お宅も?」
「…何の話だ」

ピクリと眉を動かす元就を笑い、


「聞いたよー?金吾くんのこと、実は気に入ってんだってね。『よくやってくれている』?──マジ見たかった〜、そんときの顔!」

それは愉快そうに、覗き込む。


「貴様のその顔も、真田に見せてやればどうだ。少しは、振り向いてもらえるやも知れぬぞ」

「…はっ、なーに言ってんの?意味分かんね」


「猿飛、備品を壊すな」

いつも冷静なくせに、幸村のことに対しては一瞬にして崩れる彼。

顔は無表情だというのに、動揺のせいで手が滑り、その辺の置物が飛んだ。…のを、吉継がキャッチした。


「あんなもの、策の内の一つに過ぎぬ。あそこまで使える雑用係は、貴重なのでな。あやつが片倉先生に傾倒しているのは、昔からよく知っておったし」

「ホントにィ〜…?わざわざ、そこまでするー?センセ、言ってたよ?アンタは気に入りの奴を、ついつい苛めちゃうんだって。小学生みたーい」

「貴様の頭がな」
「残念。俺様たまに学年一位です〜、アンタ越えて」
「それも、あやつの気を引くための所業…これほど虚しいものはないな」

「──あっはは。…はぁ〜…何か、急に身体動かしたくなってきちゃった。その辺に、ズタズタにしても良いサンドバッグとか転がってねーかな」

「その派手な頭に入れてみてはどうだ。少しは、現実が見えるようになるであろう」


「………」
「………」

終いには、無言で冷気を交わし出す二人。


三成はというと、全く眼中にないらしく、先ほどの微妙に嬉しそうな顔から、依然変わらぬまま。


(…これであるから、同じ気質の者だけでは、場が持たぬのだ…)


金吾や幸村、官兵衛に元親たちの(再)出現を、珍しくも心待ちにする吉継であった。

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