真田さんと共闘6
「よくやってくれている、と誇らしげに言ってたぞ。…あいつも俺に似て、周りから敬遠されてるようだが…」
「そんなことはありませぬ!片倉先生は、優しくて強くて、男らしくて格好──んがっ」
すかさず叫んだ小早川殿だったが、佐助が片手で口を塞ぎ、
「だーんなァ〜?…マニュアルは、死ぬほど教えたはずだよねぇ…?」
「ひぇッ…!ごめんなさッ…」
「やだなぁ、なぁに怯えてんの。旦那ってば、ホント冗談のセンスないんだから〜(笑)」
恐らく、小早川殿もあの瞳を目にしたのだろう。
…あの顔と震え方からして、もしかすると、以前にも見たことがあるのかも知れない。
二人のやり取りを、片倉先生は変わらぬ表情で見ていたが、
「男の嫉妬ほど、無様なもんはねぇよなぁ」
クックッと笑い、小さく呟いた。
いつもなら佐助も聞き逃さなかったはずだが、小早川殿へ小言を言うのに夢中で、それどころではないようだ。
「…で、毛利だがな。ああ見えて、実はそういう奴だからよ。これからも、よろしく頼むぜ」
片倉先生が俺の肩を叩くのを、小早川殿は複雑な面持ちで見る。
「何だ、真田。何か言いたげだな」
「あ、いや…ッ」
「遠慮せずに言ってみろ、…毛利のことか?」
「…は、ぁ…」
小早川殿は、たどたどしくも、
「先生はご存知ないでしょうが、…毛利殿は、毎日のように小早川殿を虐げており……某、日頃から我慢がならず…」
が、片倉先生の顔付きは微動だにせず、
「真田、人間の性格は千差万別だ。…毛利はな、嫌いな人間にはとことん冷淡だが……気に入りの奴には、それに加え、ちぃっとひねくれた愛情表現が出ちまう。不器用な奴なんだ、長い目で見てやってくれねぇか」
「…あ、あいじょうぅ…?あれが…?」
小早川殿は唖然となるが、
「あんまりひでぇときゃ、お前ら先輩が庇ってやりゃぁ、あいつもそこまで」
俺は「あっ!」と声を上げ、
「それは既に!さっきも、真田さんが、とても堂々と庇ってくれたんです!相手は、三成くんでしたけど…」
「ほう、さすがはお前だな。…石田も大谷も、毛利と似たようなもんだ。お前ら、しっかり後輩を守ってやれよ?」
今度は佐助の肩も叩き、あやつは、「へぇい」などと生返事をしたが、
小早川殿は、「はっ、はい…!!」と、感激に満ちた表情。
…先生の微笑みで、全てのこだわりが消されたと窺える。
「これからも、記事楽しみにしてるからな。──頑張れよ」
はい、と答えようとしたが、小早川殿の快活な返事に先を越された。
先生がまた口端を上げ、再びあのピンクのオーラが放出する。
佐助はブスッとしていたが、やはり親バカ心が根強いようで、彼の喜ぶ顔を、それ以上抑えようとはしなかった。
帰宅後は、いつものようにお館様と殴り愛を交わしたかったが…
この姿では叶うはずもない。
部活の関係で小早川殿を泊めることになった、と説明、夕食では精一杯の演技をし、怪しまれることもなく終わった。
あとは、明日に備え寝るだけ。
お館様の入浴後、誰から順に入るか決めようとしていると、
「お風呂…」
佐助が呟いたなり、気を失ったんじゃないかと思うくらい、言葉と顔色をなくしていた。
「佐助?」
「…やだ。
──イヤだぁぁ、旦那の裸を、他の誰かに見られるなんて!むり!耐えらんない!!」
「なっ?」
髪を振り、取り乱す姿に、俺はギョッとしつつも、
「さ、佐助、どうした?見られるって?ほら、誰もいないぞ?」
風呂場の窓を開けて見せるが、佐助は駄々っ子のように、「イヤだ」とわめくばかり。
(どうしたというのだ…)
小早川殿も驚いていることだろう、と視線をやるが、
「あの……猿飛さん、僕入りませんから…」
「…えっ!?いや、遠慮しないで下され、小早川殿!畑仕事もしたし、体育も──捻挫しているのだから、ゆっくり休めて」
何故か気を遣う彼を、慌てて引き留める。
が、小早川殿はおずおずと、
「え、と…、見かけだけですけど、真田さんの身体でしょ?だから、猿飛さんは、僕がそれを見るのを、嫌がってるんだと…」
(──な、なるほど…)
今までも、それに似たようなことを言われた記憶があるので、納得はいったが、
「佐助、大丈夫(?)だ。男同士であるし、普通、自分の身体をじっくり見たりなど」
「俺様には、男とか女とか関係ないのっ!そもそも、そんなん無視って想ってんだから、たとえ誰であろうと許せない!(大将は別として)」
「(…どういう意味だ?)しかし、来てもらっておいて、風呂にも入れぬなど」
「ああああのぅ!じゃ、っあ、こうします!」
小早川殿は、洗面所に置いてあった赤い手拭いを細く折り、
「これなら、見えませんから!」
と、目を隠す形で巻いた。
「「………」」
俺と佐助は少し黙っていたが、だがこれでは洗えぬし、手元足元も危ない…
そう言うと、
「じゃあ、すみませんけど、洗ってもらって良いですか?自分の身体なら、見ても大丈夫ですよね」
と、小早川殿は闇の視界の中、手を引く。
……俺ではなく、佐助の。
「えー…っと。…あれ、上手く脱げないや……すみません真田さん、脱がしてもらっても良いですか?」
そのまま彼の手を、足元に落ちたズボンの方へ持って来るが…
「──遠慮のう、ゆっくり浸かって来て下され?」
「………」
手拭いを外してやると、目をパチクリさせていたが、何があったかすぐ悟ったようで、
「じゃあ…」
と、浴室へ消える。
「…佐助…」
「………」
床に飛び散った鼻血を黙々と拭き取る背中は、今までの人生で見て来た中で、最も悲哀を帯びていた。
「…俺様、誓ったのに……幻惑に負けないって……何度、裏切れば気が済むんだ…こんなカス野郎、旦那の相手に相応しくない…」
(佐助…)
ブツブツ呟く姿に、どうしてかひどく胸が締め付けられ、
「旦那…」
同じ体勢になり、佐助の背をさする。
「何があったかは分からぬが、そんなことはない…俺は、佐助がいないと。…どうすれば、元気になる?俺にできることなら、何でもするから…」
「だん……なぁ……」
佐助は感涙にむせびながら、(鼻血も未だに垂れていたが)
「……じゃ、あ……この後、…一緒に、お…、風呂…」
遠慮がちに言うので、何だそんなの、お安いご用だ、と笑おうとしたとき、
『カチャッ』
「すみません〜、ボディーソープが、切れちゃってるみたいで…」
……結局、風呂には一人で入ることになり、
後で聞いた話によれば、佐助は深夜まで、お館様からの拳を頂戴していたらしかった…。
※【猿飛さんは闘病】(完結編)に続きます。よろしければ…
‐2011.12.9/2012.1.9/27 up‐
あとがき
読んで下さり、ありがとうございました!
妙な妄想を長々と申し訳ない(--;)
佐助が残念ですよね。
どうしてもそうしたくなってしまう…すみませんm(__)m
ドSトリオ大好きで、Sさを素敵に表現したいんですが。やはり叶わず;
金吾に、ガツンと言わせたかった…見た目は幸村だけども;
長々とお付き合い頂き、本当に感謝しております(><)
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