真田さんと共闘5






佐助は、そう待たずして自分たちのもとへやって来た。


「猿飛さん、よく出て来られましたねー」

「まぁ、俺様が本気出しゃーね。それより、ごめんね旦那…すぐ、気付かなくてさ…」

「いや…。ところで、佐助…」
「ん?」


「そちらは──…どなただ?」


「え」

佐助が、俺の視線を辿ると、



「………」←(大分前からいた)



「あ、伝説さん…」

ようやく、二人とも気付いてくれたが、


「ッ、アンタいつから!?…嘘だろ、この俺様が覚れなかったなんて、まさかそんな──

…ぉ、俺様の、貴重…な、アイ、デンティ、ティー、がッ…は…」


「さ、佐助っ、違う、つい先ほどだ!今!たった今だった!一秒くらい前!」

またも例の発作が出たので、落ち着かせるため、何度も言い聞かせる。

すっかり治まってからは、佐助はいつものように、スマートな雰囲気で、


「世話んなったね。また、何かあったら頼むわ。知り合い価格でよろしく〜。あ、今回の謝礼は金吾くんが振り込んでくれるから」

赤毛の青年にそう言い、次に小早川殿が、


「…そんなに高くなくて良かったぁ。伝説さん、(結局、よく分からないままだけど)ありがとうございました」

安心した顔でお辞儀をすると、『シュバッ!』と、黒い煙や羽根を落とし、彼は消えた。


(そうでもないのか…)

興味半分で金額を覗くと、


(──小早川殿は、本当にお坊ちゃま、…であるのだなぁ)


思わず、黒目が『¥』になってしまった…。



「さぁて、後はもう帰るだけだけど…心残りはない?」
「えっ?」

佐助から笑みとともに窺われ、小早川殿は目を瞬かせる。


「せっかく部活サボれたんだから、何かやりたかったことがあったら、と思ってさ。ま、俺様の許せる範囲でだけど」

「……!!」

たちまち、小早川殿の顔は明るく甦り、


「じゃあ…」


──そうして、足を運んだのは……









「…何をやっても、絵になるお人だねぇ」
「あれも、鍛練の一つとしておるのだろうか?」

俺と佐助は、並んでその様子を見ていた。…のだが。


「はぁぁぁん……憧れのあの人が、目の前にぃぃ…」

「「──…」」

陶酔しきった声と、漂ってくるピンク色のきらきらオーラを、二人してザックザック斬り刻む。


「ちょっと。旦那の顔でその表情向けんの、やめてくんない?」
「…別人のようでござる」

今度は良い意味ではないが、と苦笑いすると、

「はッ…ごっ、ごめんなさぃい!つい、感動のあまり!!」

ああわわわと、元に戻る小早川殿。


「……」
「……」

そんなになのだとは…という気持ちで、佐助と目を合わせた。


彼が、『一度で良いから、してみたかった』と言ったのは、菜園部の見学。
本来ならば入部するつもりだったのが、石田殿に無理やり新聞部に入らされ、今や完全に手の届かない存在になってしまったのだと…。

部の顧問である片倉先生は、美食家で野菜好きの小早川殿にとって、神のような存在であるらしい。

そういう気持ちは、よく理解できる。
部では報えなかった分、彼のためにできることなら、何でもしたいと思った。
あの、沈んだ顔を浮上させてくれた片倉先生にも、深く感謝をしながら。


「か、片倉先生…」
「!どうした?」

彼は二年の担任なので、俺と佐助は見慣れているだろうが…
この組み合わせにも、自分たちが菜園部に来たことにも、驚いているようだ。

小早川殿は緊張しながらも、必死に俺らしく、「見学させて頂いても…?」と頼み込む。

口の上手い佐助も加わり、俺(小早川殿)が、以前からこちらに興味を持っていた旨を、説明する。

片倉先生は、特に怪訝そうにするでもなく、許可して下さった。


…小早川殿は、近くで先生と、畑仕事に精を出す姿を見られるだけで、天にも昇る心地であるようで。

だが、その分怪しまれる言動が出る心配もなく、かえって都合が良い。


「オメーは確か、新聞部の…」
「!こっ、小早川殿…を、ご存知なので?」

まさか…!と、驚きと喜びの混ざった顔で、小早川殿が先生を見る。


「よく、まつ先生に会いに来ているだろう?料理に熱心な生徒だと、感心されていた」

「あ…」

「そっ、そうなのです!小早川殿は、大層な美食家で──それで、食材にも目がなくて」

どう答えるか迷う前に、彼が興奮気味に出てくれた。

先生は、その様子にかすかに笑み、俺や佐助を驚かせる。


「そんなに好きなら、今からでも入部するか?」

「!!!」

先生は俺に向かって言ったので、気付かれずに済んだが…小早川殿の顔はさらなる輝きを増し、両目の中に星が瞬いた。


「えっ…と、その」

再び返事に詰まっていると、先生はフッと軽く笑って、

「冗談だ」


(──うあぁぁ…)


その一言が出た途端、ズゥゥンと落ち込む彼が見え、切なくなる。


「縁の下を引き抜くつもりはねぇさ。石田たちから、恨まれたくもねぇしな」

「……え、……ん……?」

小早川殿が、目をしぱしぱさせた。


「何だ、オメーら先輩のくせして、知らねぇのか?」

先生は呆れたように、


「学園新聞の記事のほとんどが、こいつの取材によるものだってな。記者じゃねぇから名は載らねぇが…お前がいなきゃ、発行もねぇわけだ。そんな要の重鎮、取れるわきゃねぇ」

「…ぼ、…」

僕が…?と言おうとして、やめたのだろう。

に加え、小早川殿は呆然としている。


「…そ、うですか?う、嬉しいです!まつ先生に、後でお礼を…」

代わりに、自分が片倉先生へそう言うと、


「俺は、毛利から聞いた」


──と、衝撃の言葉で返された。



「も、毛利さ……殿、が…?」

飛び出そうなくらい目を丸くし、耳を疑う小早川殿。

俺と佐助も、何とも言えぬ表情で互いを見る。

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