真田さんと共闘3
「………」×4
石田殿の雄叫びに、彼以外の全員が沈黙していた。
大谷殿は相も変わらず忍び笑い、毛利殿は冷ややかな、黒田殿は憐れみの視線と表情を彼に向ける。
「あの…、『手先』って…?」
「惚けても無駄だ!先日は秀吉様タイプにて、動揺してしまったが…もう、その手には乗らん。だいたい、ここまで精巧であれど、金吾の姿とは笑止千万。何をほざかれようと、痛くも痒くもない」
「ああ──あれは傑作であったな。あの顔で徳川への称賛を説かれた際の、貴様の顔が」
「…黙れ。誰が貴様の言葉など欲した?」
「おい、落ち着け…毛利も」
黒田殿がなだめようとするが、二人は見向きもしない。
よく思うことだが、何故、彼らは同じ部でやっていけるのだろう…心底不思議だ。
徳川殿のお父上の会社は、ロボットなどを手掛けていると聞くが、
まさか、石田殿たちが本物と見間違うほどの技術だとは、思いもよらなかった。
「どこかにシステム装置があるはずだ──今回の目的は何だッ?…いや、そんなもの関係ない。逆手を取り、こちらの手先になるよう書き換えてやる」
「そのような知識、いつの間に得たのだ?三成よ」
大谷殿が少々目を開いたが、
「お前や毛利の分野だろう、私が知ってたまるか」
「…誰が、貴様の頼みなど聞くと思う?」
「頼みではない。これは新聞部員としての義務だ、間違えるな」
「話にならぬ」
ふぃっとパソコンの画面に目を戻す毛利殿に、「まぁまぁ、毛利よ…」と、大谷殿が近寄る。
「ちょ…、三成くんっ?」
「その動き、やはりな…。──大人しく、装置を見せろ!」
「だから、僕はロボットなんかじゃないって…っ」
制服の上着を掴まれ、ついいつものように構えたのだが、彼の疑いを尚深めてしまったようだ。
石田殿は、ギリギリと俺の着ているシャツを引っ張る。
「わわ分かったよ、脱ぐから!」
彼の執念に負かされ、仕方なく上半身をさらした。
(全く、こうまでせねば信じてもらえぬとは…)
「そこまでせんでも」
黒田殿が、すっかり呆れた顔で石田殿を見たが、彼の耳には掠りもしていない。
「…ふん、新型だけのことはある。場所を変えたか…」
「だから…──ほら」
あくまでロボット説から離れない彼の手を、左胸に置いた。
「動いてるでしょ?僕、本物…」
「ここまでこだわるとはな。敵ながら恐ろしい腕だ。以前のものも、体温を再現していたが」
「…あのー…」
──駄目だ。石田殿の頭は、一度進めば他の道を窺うということを知らないらしい。
「熱が異常に高い。貴様が常人ならば、焼け焦げている」
「…三成くんの体温が、異常に低いんでしょ」
さすがに付き合いきれぬと、アンダーシャツを着ようとすると、
「んな…!?」
「上でないのなら、こちらだろうが」
し、信じられぬことに、石田殿が俺のベルトに手を掛け…いやいや、それはないであろう──!?
「いっ、みっつなりくん!?何!?やめてっ、冗談、だよ、ねぇ…!?」
バシバシとその手を叩き抵抗するが、何たる馬鹿力…っ
「見苦しい。やるなら、別の場所でやれ」
「おいおいおいっ、三成、やり過ぎだろう!」
「金吾、もそっと頑張らねば。次回の新聞に、ヌシの『芸術的写真』が載ることになるぞ…」
「おお大谷さんっ、笑ってないで!」
『ドタッ──』
心の中で悲鳴を上げ、彼から逃れようとしたが、揉み合った末に床に倒れ込んでしまう。
急いで起き上がろうとしたところを、石田殿が両足を挟む形でしゃがみ、再びベルトに手を、ぅわぁぁぁ!
「ないって!装置なんてないよぉ!」
「ええい、暴れるな!ならば、証明してみせろ!見られて困るはずがないだろうが」
(小早川殿が困るぁぁぁ!!)
まずい、本当にまずい!
これでは、彼に償うどころか、真逆の──
『ガチャッ』
「すみませぬ、遅くなり申して!元親殿もお誘いし、」
揉みくちゃになっていたところに、本物の小早川殿と元親殿が現れた。
…二人とも、あまりの惨事を前に硬直している。
「…なっ、な…っ…、っ…!?」
無理もないことだが、小早川殿はそれ以上言葉にできないようだ。
元親殿の顔色も、紫と言っても良いほど悪くなっている。
『どざざざ──』
何かが落ちる音が、静まり返ったその場の刻を動かした。
「…あっ」
助かった、とようやく見えた希望に一息をつく。
佐助が、資料室からこちらに戻っている。
音は、整理した資料の束を落としたのが原因だったようだ。
(佐助…?)
すぐに駆け付け加勢してくれると思いきや、佐助はゆっくり歩み寄り、
「──何の真似だ」
「こっちの台詞なんだけど。…死にたいの?」
佐助から首根っこを掴まれる寸前、石田殿はサッと俺から離れた。
…恐らく、軽く掴むだけでは済まなかっただろうが。
(佐助の殺気は、限界を超えている)
黒田殿に見せた鬼の形相には匹敵しないほどの、冷静な顔。あれは、彼の怒りが頂点以上に達した際に見られる…
「貴様が口を挟む余地などない」
「ハァ?」
「邪魔だ。理由は刑部にでも聞いていろ」
「んなもんあるわけねーでしょ。…え、マジ死にたいわけ?」
冷えた火花を散らす二人の隙に、俺は手早くシャツを着る。
「これは、ただの確認作業だ。刺客から身を守って何が悪い?奴が卑怯な手を使ってくるのだ、こちらも、それ相応の策で向かうべきだろうが」
「はー…?」
「家康のことだ、金吾ならば己と通じ易いとでも思ったのだろう。私の弱味でも探らせるためか……ぅおのれ、家康ゥゥゥッ!!」
激昂再び、石田殿が俺の腰を掴もうとしたのを、佐助が素早く庇ってくれた。
「触んじゃねぇよッ!興味ない振りして、とんでもねーなアンタ!」
「っ、貴様さっきから何だ!そいつには、本物の代わりにさせねばならん、大量の仕事も溜まっているのだぞ!」
「だから、僕が本物だよ、三成くん!信じてよっ」
「黙れ!貴様に拒否する権利は、万に一つもない!金吾のコピーなら奴らしく啼き、常に怯えた状態でいろォォ!!」
と、またあの怖ろしげな顔を見せ、石田殿は蔑んだ表情で俺に視線を送る。
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