金吾さんの奮闘3
猿飛さんは、行く前に自分たちのクラスに僕を連れ、同じ日直の女の子に説明をしてくれた。
『一年の僕に怪我をさせてしまい、心配だから今日は一日付き添う』とか、無茶なこと言ってたけど、彼女は疑いもしていない様子。
…というより、全く興味がない感じ。
『さ』…『さいか』…って読むのかぁ、難しい苗字。
綺麗だけど、ちょっと怖そうな先輩だ。
「分かった」
「悪いねぇ。黒板消しくらいなら、旦那がしてくれるから」
と、僕の肩を軽く叩き、励ますようにウィンクする猿飛さん。
律儀に頭を下げる真田さんと一緒に、階段の先へ姿を消した。
一人になると、やっぱりすぐ不安になっちゃったけど、教えられた『旦那マニュアル』を思い出しながら、力を入れ直す。
真田さんの名誉のためにも、絶対上手く演らなきゃ!
僕のせいで、こうなったんだから…
ふと雑賀さんを見てみると、渡された日誌に、『猿飛、欠席』と、バッチリ記入しているところだった。
(…うわぁ。ごめんなさい、猿飛さん…)
「──同じようなものだろう。説明するのも面倒だ」
文句あるか?とでも言うように、チロッと見てくる雑賀さん。
「い、いえ…!」
(ひぇぇ、怖いぃッ!──あ…)
顔を直視できず、日誌ばかり見ていたら、さっきは気付かなかったことに、目がいった。
「…何だ」
「っあ、えーっと…」
うう、目ざとい…。僕は、もう正直に、
「き、綺麗な字だなぁ──と、思っ…いまして」
ああ、もうから武士口調忘れかけてた。僕ってば…っ。
不審がられてないかな、と雑賀さんを窺うと、
(…あれぇ?)
どうしてか、彼女は固まっていた。
(もしかして、また怒らせ…)
「──黒板は、任せるからな」
ぷいっと、雑賀さんは自分の席へ戻って行く。
口調は怒っていたけど、顔は嬉しそうに少しだけ笑ってた。
何でだろう?と、不思議に思ったけど、とりあえずは次の授業が始まるまでに、黒板を綺麗にしておく。
一心の祈りが通じたのか、昼休みまでの授業では、先生に当てられることもなく、平和に過ごすことができた。
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──昼休み。
真田さんと猿飛さんは、いつも屋上とかでお弁当を食べてるらしい。
今日は一人だから、教室で…でも、何だか落ち着かないし、空き教室とかに行こうかな?
けど、天海様は休みだし、この辺の教室は、先客がいるみたいだし…やっぱりここが一番かなぁ。
とか、色々考えてると、
「真田くん、今日は猿飛くん休みなんだってね!」
と、女の子──多分、このクラスじゃない子たちが何人か、僕の周りに集まっていた。
「良かったら、一緒に食べても良い?」
「調理実習で作った、お菓子とかもあるんだけど…」
(お菓子ー!?)
「うん、全然良いっ…でござる!」
(あわわ…!しまった、また変な言葉──)
「えっ」と、目を丸くする彼女たちの反応に、僕はヒヤッとしたんだけど、
「さ…真田くんが、『うん』って……」
「「「可愛い〜!!!」」」
きゃあああー!と、聞いたこともない轟音に、今度は僕がびっくりする番だった。
あれよあれよという間に、僕を中心に机を囲まれ、
「喜びに、思わず『うん』って!?」
「真田くん、やっぱ相当甘党なんだね〜」
何か、色々もてはやされることに。
疑われてないことにホッとしながら、猿飛さんから預かったお弁当を開ける。
(…真田さん、少食だなぁ)
怪しまれないようにって、お弁当も交換したんだけど…。僕の物の、三分の一くらいしかないや。
真田さんの外見でも、中身は僕。すぐに食べきってしまい、僕のお腹は不満そうに鳴いた。
お菓子が出されるのを、物欲しそうな顔で見てたのか、
「──良かったら、食べる?箸付けちゃったけど…」
と、隣の女の子が聞いて来た。
「…!ありがとうございまする!」
ぱくっ
「「「!!!」」」
「──っ、美味いでござるぅ!」
(猿飛さんのお弁当も美味しかったけど、これもなかなか…)
幸せな気分で、ニマニマしてると、
「ズルいー!私も!」
「私もあげる!はい、あーん!」
「?ありがとうございまするっ!」
よく分かんないけど、女の子たちが一斉にお弁当の中身を、差し出してくれるので、僕はひょいひょい口にしていった。
自分で食べられるのにって思ったけど、向こうも、好きなおかずは取られたくないよね。だから、大人しく渡されるのを待っておいた。
真田さんなら、きっとそうするよね、うん。
──と、そのとき、
(…!?)
ゾクッと背中に悪寒が走り、振り返ってみると、
(あ、あの人って…)
真田さんたちと同じクラスの、伊達さんだ。
猿飛さんが、すっごく嫌ってる…
(さ、真田さんのこと嫌いなのかなぁ?)
すごい目で睨んでるけど、何でだろう…?
さっきまでいなかったのは、多分どこかで、サボってたんだろうけど。
怖くなって、隣の子にコソッと訊いてみると、
「あ、もしかして…元カノがいるからかな?あの子…。結構前に、別れたって言ってたけど」
それで嫉妬してるんじゃないか、って。
(えぇぇ〜…、誤解ですぅぅ…!)
三成くんほどじゃないけど、あの目……こわぁぁあ…!
内心ビクビクしながらも、空腹には打ち勝てない。
彼の視線によるストレスを受け、僕の食欲は増すばかりだった。
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