学んだ悪魔3







「こら、待てと言うのに…っ」

黒猫少年幸村が、慌てて本物の黒猫を追う。


「あの方がご主人であろう?ここは広い、迷ってしまえば大変なことに…」


ゴーストの格好をした人物と、家康や政宗、同級生の元就やかすがたちのいる方に、目を向ける。

もう一匹の黒猫が、未だに家康たちに爪を立てているようだ。


しかし、それももう遠目になるほど、幸村は祭りから外れた場所へ来てしまっていた。

グラウンドから続く、木々が立ち並ぶ路。
その枝にも、カボチャのオーナメントや、ランタンなどがぶら下がっており、淡いオレンジ色の光が漂う。

猫が、幹の後ろに消えたかと思うと、


「こんばんは……人間さん」


…聞いたこともない妙な挨拶に、恭しくお辞儀をする姿。

初めて見る顔。──高校生の方か。
黒いマントを羽織り、悪魔か何かの仮装だと窺える。
髪色が、ランタンの光と同化してしまうほど鮮やかだ。


「こんばんは…。悪魔──でござるか?」

「ハイ、いかにも」

彼は嬉しそうに微笑むと、スッとしゃがんだ──

…と、思ったのだが。



「…え?」


──そこにいたのは、先ほどの黒猫。



「びっくりした?」


(喋っ…!?)


幸村が目を丸くすると、彼は再び人の形に戻った。


「悪魔だけど、アンタに害をなす気はないよ。てか、逆でさ」

「逆…?」

何事でもないように、彼は幸村に微笑んでくる。


「実は、今日二人も仲間が、ここに残るって言い出して。何でよ、って謎で謎でさぁ…」

「は、はあ」


「でも、アンタがそれを解決してくれた。

──お願い、俺様の主になって!」



「…えぇ!?」

素っ頓狂な声を上げる幸村。


ここで、相手が変人だと思わない純粋さが、彼の長所であり短所でもある。


「アンタ、よく分かんないけど、危険な身にさらされてるみたいだし。俺様に任せときゃ、万事安全よ?」

「いや、しかし…」

「猫の姿にもなれるし、邪魔にはなんないから。お守りか何かだと思ってさ。そうだ、願いなんて、いくらでも叶えてあげられるよ?」

「そんなものは、別に良いが…」

どう対処したものか、幸村はひたすら目をしばたかせ、戸惑う。


「何て言ったら良いんだろう…。俺様、言葉よく知らないから、分かんないんだ。仲間は、魂を持ち帰るつもりだった人間たちの、傍にいたいんだって…すごく満足そうな顔で、行っちゃったよ。俺様も、同じだと思うんだけど。とりあえず、今仕えてる主より、断然アンタのとこにいたい」

もどかしげに言うのだが、その目は真剣そのもの。

幸村は、思わず見入ってしまう。


「その服、とても似合うね。それを、『可愛い』って言うの?初めて聞いた言葉」

「え──いや…あの…」

悪魔らしいとのことだが、ただの、学習意欲に目を輝かす子供にしか見えない。


「アンタを見たとき、ここがギューってなって、心臓がうるさくてさぁ。普段は、止まってるも同然なんだけど。あの人間たちも、アンタ見た後、同じような感じだった。それが、『可愛い』ってことなのかなぁ…」


「ああああの!悪魔殿!か、可愛いというのは、普通は女子に使う言葉で」

「そうなの?でも、あいつらは使ってたよね?」

「あ──れは…、何と言いますか…」


「それに、嬉しそうに見えるけど…俺様の思い違い?」

「…っ!!?」

実は図星だったのだろうか、幸村は、一気に顔が熱くなるのを感じた。


「…何かさ、その顔を見ると俺様すごく嬉しいんだよね。どうしてだろ、ホント…」

と、遠慮なく覗き込んでくる。



(それは、こちらが聞きたい…)


会ったばかりの、しかも男、さらには悪魔だという彼に何故自分は、





「──…!?」



それ以上の、驚愕が待ち構えていた。


…軽く触れた後、離れる二つの唇。





「…んなっ…、ななな……っ…」


「──あ。急に、こうしたくなっちゃって。あれ…?何でだろ…分かる?」



佐助は、言葉以前の問題の知識を得た後々、この出逢いの日を何度も思い返しては、己を恥じることになるのだった…。









結局、誰一人として、かの国へ帰ることはなかった。

三成と吉継は半兵衛のもとへ、彼と同じく、元ターゲットに心酔し、尽力する。

お市も、テンションが違い過ぎる相手であるが、なかなか幸せに上手くいったのだとか。


─────………


「信長公…。皆様、試験ボイコットしやがりました。これから、いかが致しましょう。人間界を、火の海にでも?」

「うろたえるな、光秀。その前に、始末せねばならん者がおるわ」

「ほう、それは是非とも、お聞かせ頂きたい…」


光秀は、信長の首に宛てられた鎌の先を、ニタニタ笑いながら見つめる。


…彼らは彼らで、退屈のしない日々を送れたということだ。


─────………


そして、佐助は幸村の傍で、彼の身を守り続けた。(色々な意味で)



「ハロウィンの夜は、イタズラをしても罰せられないんだってね」

「ああ…菓子がもらえなかったらな」


「でもさ、あれはイタズラなんかじゃないからね?これ…」


笑顔で幸村の顔に近付こうとし、ぶっ飛ばされる佐助。


──真っ赤な顔をニコニコしながら堪能する姿は、どこからどう見ても人間そのものだったという話である。







‐2011.10.26 up‐

あとがき


読んで下さり、ありがとうございました!

ハロウィン…何かしたかった…。

無理やりも良いところ。家康は、政宗と仲良くなって、彼の性格が移ったようです。
お金持ち二人組。

ナリ様には、魔女も着てもらいたかったけれども…無念。
格好つけたいお年頃なんで、男子諸君は、だいたいヴァンパイアということで。
もっと他のも着させたかったんですが、表現力のなさに断念。

秀吉は、何かのモンスターに扮してたんじゃないかと。お市様は、すごい似合ってたはず。

キッズ用の、ハロウィンネコ衣装で、すっっごい可愛いのがあったんです!
幸村ぁぁぁ(≧ω≦)


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