学んだ悪魔2
「石田様〜、どんな調子ですかぁ?」
「…猿飛、貴様もそれか」
「ヌシも苦労が耐えぬな…ヒヒッ」
白い布を被り、ゴーストを装っている吉継の、左肩に乗った佐助。
右肩には、同じく黒猫の姿になった三成がいた。
「これが一番っしょ。わざわざ人間と喋ったりしたくないし…ターゲットに会うまではさ」
「三成と同じことを。しかし、ターゲットに会っても人の姿にならぬのよ、こやつ…」
「あの人?」
佐助は、すぐ近くで、眩しいほどの明るさと爽やかさを振りまく、黒髪の少年に目をやる。
「…光の性質そのものって感じだね。確かに、俺様たちには目に痛いけど」
しかし、さっきの二人は、そんな相手に自ら行った。…色々、大丈夫なんだろうか。
(って、別に関係ねーのに…)
佐助が首を振っていると、
「こいつを見ていると、自分が抑えられなくなりそうだ」
三成の言葉に、アンタもですか、と思ったのだが、
「苛立ちと憤りが、際限なく湧いてくる…何故だ…」
──あ、何か全然違うみたい…と、胸を撫で下ろす佐助。
「仕方ないっすよ、相反する性質なんだから」
なだめていると、吉継の身体がピクリと動いた。
「猿飛よ、あの二人…そうではないか?我らのターゲット」
「あ…ホントだ」
二人一緒とは、何と都合の良い。
あの細面の少年と、金髪の少女がこちらにやってくる。
少年は、吸血鬼か…しかし、下は膝丈のパンツで、どこぞの坊っちゃんかのような、気品ある格好。
少女の方は、可愛らしい魔女姿。黒を基調としたワンピースに、三角帽子、箒もきちんと装備。
二人とも、中学も一番下の学年くらいだろう、身長もまだ低い。
「おお、会えたな!──あ、政宗、こっちだ」
「Ahー、家康。狼男か?Ha、似合わねぇ」
「ひどいなぁ、これでも頑張った方だぞ?──お前は、やっぱりそれだと思ったよ…」
後から加わった、外国の貴族のような雰囲気を見せる、吸血鬼姿の少年。
彼ら二人は、高校生だと思われる。
「…どーするよ、大谷さん?どっちにする?てか、石田様、捕まえなくて良いわけ?」
「あんな奴とは、話もしたくない。貴様らのどちらかを渡せ」
「やっぱな…そう来ると思ったよ」
やれやれ、と佐助は溜め息をつく。
「──で、二人とも。隠しているものを、早く見せて欲しいんだが?」
「Hey、幸村。何照れてんだよ」
何かを催促してくる少年二人を、睨み上げるターゲットたち。
(…?)
何だろう、と悪魔三人が思っていると、
「トリック・アンド・トリート…でござる」
少年少女の後ろから、二人と同じ年頃だと見える、髪が栗色をした少…年、が現れた。
(男の子…だよね?)
佐助は疑り半分で、その子を凝視する。
今の自分と、同じ動物を模した格好らしい。
頭には黒い猫耳、服は、女の子が着るような、膨らんだスカート。…に見えて、ショートパンツのようだ。
後ろに、長い尻尾まで付属。
下にタイツだか何かを穿き、黒いブーツを合わせている。
(な、何…だろ。何か…)
佐助の胸の辺りが、ざわついた。
いや、心臓がドクドクと早鐘を打っている。
普段、脈なんてものは感じにくい自分たちであるのだが。
「ば、馬鹿ッ。『アンド』じゃ、イタズラもお菓子もになるだろ!」
少女の方が、慌てて少年を庇うが、
「おお、可愛いなぁ、幸村!驚いて声も出なかった!もちろん、お菓子あげるぞ?車に、一杯積ませてあるからな」
「Haha、俺んとこにも一年分くれぇは用意してんぜ?てか、もうこのままウチに来いよ。ここよか、ごちそうたらふく食わせてやる」
高校生二人組が、笑顔だが、強引そうな雰囲気で、少年に詰め寄る。
「寄るな、変態ども。菓子のみを渡し、即刻立ち去れ」
細面の少年も、少女と同じような表情で彼らを冷たくあしらう。
「ねー…。この二人(中学生組)、ホントに光の性質者?何か、すごい悪意にまみれてるけど」
「…これでは、大したモンスターにはならぬな」
佐助と吉継が、冷めきった調子で囁き合う。
「やっぱ、石田様のターゲットが、一番なんじゃ」
「いや、待て…。あの男、様子がおかしい」
「え?」
悪魔たちは、彼らの心の声に耳を澄ませてみた。
…………………
『そうかそうか、イタズラもして欲しいだなんて、幸村…本当に可愛い奴だなぁ。期待に応える男、それがワシだ。早く家に帰って、まずは──して、それから──で、その後─────で、絆を深めような?きっと、お前も満足…』
『Honeyの奴、今夜はえらく積極的じゃねーか…その、大胆な衣装といい。肌は見えねぇが、タイツの張り具合が、逆にsexyだぜ…!あー…やべぇ、我慢できそうにねーな。もう、そこいらに連れ込んで──』
…………………
「──何だろう…。あいつらが言ってること全然分かんないけど、すっっごく気分が悪いのは、何でかなぁ…!?」
「同じくだ。奴は、もはや光ではない。下等モンスターにすら、なれんだろう」
「コレ、二人とも」
落ち着け、と吉継が言う前に、二匹の黒猫は、爪を立て跳んだ。
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