激戦へようこそ!2
(いつの間に…)
気付くと、元就は見知らぬ部屋に寝かされていた。
天窓から入る、月と星の光。
その明かりを頼りに周囲を窺うと、玩具やプラモデル、漫画本やゲーム、サッカーボール、バットとグローブなどが見えた。
──長曾我部元親。
彼女が彼の従姉だとは知っていたが、まさかこんな話になるとは。
…しかし、背に腹は変えられない。
どんな恥でも受け入れる──そのつもりで、来たのに。
『あいつ、喜ぶだろな』
…あの一言に、彼への敵対心は、見事に消え去った。
元親がベッドにいないのを見て、廊下に出ると、他の部屋から細くもれる光の筋。…静かに開ける。
「…うぉ、ビビった。起こしちまったか?」
が、元就には、そんな声も耳に入らなかった。
「これは…」
「あーあ、バレちまった」
元親は、諦めたように笑う。
「…お前が作ったのか」
机一杯に広がるジオラマ。──自分たちの住む街の。
家や、建物、電車、木々、川…全てにおいて、精巧に作られている。
子供の手によるものとは、到底思えないほど。
しかも、可愛くデフォルメされた人形──彼の友人たちを模した──も、いくつか置かれていた。
「本当は、もっと早くに仕上がる予定だったんだけどよ、つい遊び過ぎちまってなー。あいつらが、いつも誘ってくるもんだから…」
すごい。──素直に、そう思えた。
「…これは、我か」
白いままの人形を指すと、
「おー。急いで作ったから、ちょっとアレだけどよ。あとは、色付けたら完成だ」
気合いを入れ直すように、元親は片手の平を拳で叩く。
時計は、午前三時を指していた。
「………」
部屋に戻る気になれず、元就は机の前に座り込む。
「さっき思い出してたとこだけどよ。委員会で一緒だったな、お前とあいつ。んで、仲良くなったってわけか」
「…あれを渡せば、すぐに帰るつもりだ」
元親は笑って、
「つまんねーこと言うなよ!つーか、んなことじゃあ勝てねーぜぇ?あいつらに」
「な…っ」
元就は、反論しそうになるが、
「あれ、絶対喜ぶぜー?せっかくなんだから、それ見て帰れよ。…また、来年も見たくなるだろうけどな」
そう笑う顔に、遮られた。
「…何故、我の人形まで?」
「あいつが喜ぶから」
そう言ったきり、元親は色付けに集中し始める。
(………)
それ以上は何かを言えるような雰囲気ではなくなり、静かに部屋を出るしか術がなかった。
「誕生日、おめでとう!」
「ありがとうございまする!!」
──満面の笑顔で応える幸村。
真田家にて開かれた、彼の誕生パーティー。
元就の登場に、初めは皆驚いていたが、元親と幸村の介添えもあり、すぐに溶け込め──
(…誤解していたやも知れぬ)
元就の彼らを見る目も、柔らかいものに変わっていた。
「はい、これ俺から!」
「かたじけない、慶次殿!」
渡された包みを開けると、出て来たのは、お洒落なデザインのリストバンドが二つ。
「うぉぉぉ、格好良い!さすがは慶次殿!大切に使いまする!」
へへ〜、と慶次は笑い、『自分がデザインして、メーカーに作ってもらったのだ』と、話した。
幸村の顔は、感動にますます輝く。
「次、俺の」
「じゃ〜、俺様のも」
政宗と佐助が、それぞれ持って来たのは…
「二人とも、それは──!」
「もう、やんなるよ〜…カブっちゃって」
「けど味は違うからな」
二人が持って来たのは、長方形のケーキ。
「へー、すげぇなぁ!」
慶次が目を丸くする。
…ケーキ一杯に、写真のようなデコレーションが施されていた。
政宗の分は、彼と幸村。
佐助の分は、彼と幸村──と、信玄。(三人は、親戚なのだ)
どちらも、素晴らしい完成度である。
「さすがに絵はプロに頼んだけど、ケーキは俺様の手作りなんだよ?」
「幸村、ケーキカットすんぞ。予行練習だ(披露宴の)」
「え?」
自分にも包丁の柄を持たせる政宗に、キョトンとする幸村だったが、
──サクッ
「Ahーーー!!」
…佐助が、(ケーキの)政宗と幸村の顔の、真ん中をスッパリ綺麗に切った。
「んまいよ、政宗」
「Hey!幸村んとこ食うな、慶次!そこは俺が」
「ホラ、大将のヒゲの部分あげるから」
「佐助、俺も!」
「旦那にゃ、こっち。ハイ俺様の──って、ちょっと!」
「マズッ!…おぇ。絵的に無理」
「じゃー食うなっての!ヤメてよっ!ここは、旦那と俺様だけが食えるの!」
「どっちも美味しいよー?ねぇ、幸」
「はい!元親殿と毛利殿も、どうぞ!」
幸村は、二人に手渡そうとするが…
──元就の表情は固く、しかも青ざめている。
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