哀は愛に負けた1



三幸(大学生)のつもり。家康(社会人)も登場。


※暴力的な描写・背景あり。

家康が、黒くなりきれず灰色です。


当サイト比で、薄暗・切ない系。

場面切り替わり放題、かつ長文です、すみません。



(全4ページ)













その橋の欄干に身体をもたれ、彼は佇んでいた。

夕日にきらめく川を背景に、片手に取った一枚の紙を、もう小一時間は眺めている。
それを知る自分も、少し離れた隣でその様子を、ずっと見ていたわけだが。

橙色に染められる横顔。…どこかで見た覚えのある表情に、縛られたが如く身動きがとれなくなっていた。

一体、どこで見たというのか。
初めて会った人物なのは、確かであるのに。


「あ…っ」


突風が吹き、紙が彼の手から離れた。舞い上がり、下の川へとゆっくり落ちていく。


「そ…んな…っ」

絶望的な声を上げる彼。





──胸が、締め付けられた。














「家康殿!」
「幸村…」

幸村が笑顔で手を上げると、家康もにこやかに応える。


「びっくりだなぁ。まさかお前が、ここに入ってたなんて」
「家康殿に、少しでも近付けるかと思いまして。お役に立てることはないだろうか、と…」
「そうか…。ありがとう」

家康は目を細め、幸村の肩を軽く叩いた。


「しかも、三成も入ってたんだとはなぁ」
「…一年の終わり頃にな」
「色々、教えて頂き申した!」

三成が家康に答えると、幸村が嬉しそうに笑う。


幸村と三成は、同じ大学の一年生と二年生。

家康は、この大学の卒業生で、今は企業で働く社会人。その若さだが、既に重鎮クラス。

親戚の会社だとはいえ、コネや七光りなどが霞んでしまうほどの優秀さ。めったに取れない休日には、こうしてOBを務める母校のサークル活動に顔を出したりする。

幸村、三成も所属するこのサークルは、ボランティアを主とするもの。
家康の会社が持っている施設や病院などにもよく赴くので、彼もなるべく参加したいという気でいるらしい。

家康と三成は、幼なじみの関係。

幸村は郊外から受験し、今は一人暮らし。
家康が学生の頃、ボランティアで幸村の実家の方へ毎年行っていたことから、親交が始まった──と、三成は聞いていた。


「もしかして、写真を拾ってくれた先輩っていうのは…」
「はい!三成殿のことでござる」

と、幸村は財布の中から、一枚の写真を取り出した。


「川には落ちずに済んだのですが、茂みの中を探して下さって…補強まで」

写真は、ラミネート加工されており、綺麗な状態を保たれていた。


「…そうか。ありがとう、三成。ワシからも礼を言う」
「いや…」

「幸村、…大丈夫か?」
「はい!もう落としたりは致しませぬ」

幸村が笑うと、家康は「…そうか」とだけ頷く。


家康は、写真の人物たちを知っているのだな、と思った三成だったが、

…あの日と同様、やはり尋ねられずに終わってしまった。














「ありがとうございました」


そう頭を下げると、相手は満足げな顔になり、「いつでも聞いて」と、名刺を渡して去って行った。


「三成殿」

ヒョコッと幸村が角の壁から顔を覗かせ、「先ほどの方…」

「──家康の会社の。ちょうど、こちらに出向いていたらしい」


今日は、ある施設でのボランティア。
活動終了後、三成とその男性が話していたのを、幸村は陰で待っていた。


「熱心にお話しされておりましたなぁ」
「…あの会社に就職するつもりだからな」
「!そうなのでございまするか…!」

幸村は驚きながらも、

「某もそうしたいと思っておるのです!良ければ、次回ご一緒しても?」

「ああ…」


その後、二人は電車に乗り、いつものように隣合って座った。


「…真田は、やはり家康の影響か?あの会社に入りたいというのは」
「そうですなぁ。特に、今日行った施設などに携わりとうございまする」

彼なら向いているだろう、すぐにそんな思いが三成の頭に浮かぶ。


「某も孤児で…同じような場所で、育ちましたので」
「──……」

突然の告白に、三成は何の返しもできなかった。


「その施設に、大学生だった家康殿が来て下さっていて…社会人になられてからも、何度か。すごくお世話になり申した。勉強を教えて下さったり、旅行に連れて行ってもらったりなど…」

だから、『家康の力に…』と言っていたのかと、ようやく理解ができた三成。


「…彼らは、某の家族なのです」

と、あの写真を取り出し、三成に見せる。


「これが…佐助。施設で、物心ついたときからの付き合いでして」

「こちらの二人は、政宗殿と慶次殿。この四人で、よくケンカしておりましてなぁ…。大概、某と政宗殿の勝負に始まり、佐助と政宗殿の言い争いに、慶次殿が巻き込まれるという流れで」

当時を思い出すのか、幸村は、微笑みながら写真を見ていた。


「そして、こちらが元親殿と元就殿。二人とも性格は真逆ですのに、どこかウマが合うようで。知らぬ間に色々なことを計画しており、皆を驚かせて…」

それからも、楽しそうに彼らとの思い出を語る幸村。

他人の話、しかもさらに見知らぬ者たちの──であるのに、何故か三成は、聞くのに億劫さを感じていなかった。

その中心で笑っている幸村の顔が、まざまざと浮かんでくるような。

会ってみたい、彼らに。…そんな考えまでも。


「折がありましたら、三成殿を紹介しとうございまする」

読まれたのか、と一瞬固まりそうになったが…ただ、本心から言っただけのようである。


「まぁ…会ってやらんこともない」

いつもの調子で答えると、幸村は、それは嬉しそうに破顔した。


──またもや、苦しくなる胸。

だが、あの日感じたものとはどこか違うように思え、三成はただ戸惑うばかりであった。

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