逆転サヨナラ1





恋わずらい佐助。佐幸のつもり。

佐幸の他、元就が少し。高校生設定。


(全3ページ)
















旦那に恋をした。


いや、してしまった。
…俺様は、何て救いようがない奴なんだろう。





――旦那には、俺様なんか全然相応しくないのに。








「…もうさぁ、駄目みたい。ここ、痛くて苦しくて…毎日」
「良い病院を紹介してやろう」

真顔で言う目の前の友人は、クラス一の秀才、毛利元就こと就ちゃん。
ボケ返しではない。彼は俺様の気持ちを分かってるので、単なる嫌味。
なのでスルー。

「もう、言ってしまえば良かろう?どうであれ、お前も楽になれるのではないか」
「無理」
「…では、あやつの前で決してそのような顔を見せるでないぞ」
「大丈夫、俺様そういうの大得意なんだから…知ってるだろうけど」

「…本当にそれで良いのか?」

就ちゃんという人は、こう見えて案外優しいところがある。
こういう温度差が、俺様にはかなり心地が好い。――釘を刺されながらも少しだけ甘えたいという、面倒くさい性格にとっては本当に。

「一緒にいたいから。これからもずっと。一分一秒でも長く…最後まで」
「…苦しいと思うぞ」
「うん。…でもさ、一緒にいられないことの方が苦しいから。今はまだ離れたくない…。だから、旦那には絶対に言わないでね」
「それはもちろんだが…」
「ありがと。…聞いてもらえるだけで、少し軽くなるんだ。いつも悪いね」

いや、と短く就ちゃんは言った後、もう何も口にしなかった。

その流れる空気に身を置いているだけで、不思議と胸のゴチャゴチャがリセットされる気がする。

これでまた、旦那の前でいつもの俺様にしっかりと戻れることだろう。











そのせいなのか、最近なかなか眠ることができなくて、病院で薬を処方してもらっていた。
今日も放課後、診察を終えて待合室の長椅子でボーッとしながら、ふと周りを見てみると。

俺様が診てもらってるところの向かいは産婦人科。これから退院するらしい出産後の奥さん、迎えに来た旦那さんが産まれたばかりの小さい赤ん坊を抱いて…。
それはそれは、幸せそうな家族。
優しく笑い合う若い夫婦。



良いなぁ。――良いなぁ。
俺様には、一生無い未来。

別に結婚できないことが寂しいんじゃない。子供を持てないのが悲しいんじゃない。そうじゃなくて。



…旦那には絶対似合う未来。
旦那みたいな人こそが、ああやって幸せにならなきゃいけないんだ。



だけど。



俺は、そのときちゃんと笑えるのかな。
旦那が喜んでくれるようにお祝いしてあげられるのかな。



…その後で、俺はどうなるんだろう。



今まで、旦那が一緒にいてくれて。
あの温かいものを沢山くれて。
俺がこれまでこうやってこれたのは旦那のお陰。
っていうのも、最近改めて理解したことではあるんだけど。

例えば旦那がどこにもいなくなってしまったら、と想像してみる。





俺は、中身のないただの動く人形に。






もう一度、あの家族を見る。



…なら、まだマシじゃないか。我慢しろ。



とは思ってもやっぱり――






「……にたくねぇよ。…旦那」


俺は、俺として生きたいよ。…旦那の傍で。



胸の前で組んでいた腕に、生温い何かが落ちた。

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