真実の愛2






彼らは、中学生になった。

僕が思うに、この時期が一番危ういような気がする。


…思春期。


彼らの、周りとは少し違う愛は、果たして揺らがずにいられるんだろうか…


機会が来るのを、待ちきれなくなっていた僕は、もう自らの姿を人間に変え、彼らの元へ降り立った。

…天使もびっくりな、素晴らしく美人な女の人の格好で。


家庭教師として、佐助くんに接近する。



───………



「…佐助くん…」

「先生…」


──佐助くんが、下から見上げている。


さあ、どうするのだろう…彼は。



「…ごめんね、先生」

佐助くんは、ニッコリと笑い、


「俺様……好きな子がいんの」


「……」



──すごい…!さすがは、佐助くんだ!



「先生超美人だし、俺様以外なら、絶対こんなことになんないから、ヘコまないでね?」

「佐助くん…」


佐助くんは、爽やかな笑顔で、


「俺様、あの子じゃないとダメなんだ…全然興奮しないの。気持ち悪いでしょ。…それに、この部屋じゃね…」


「…部屋?」


「うん。俺様が一番悦ぶのはね、あの部屋なんだよ…。そこで、一人のとき…どんなことしてるんだろう…って。想像するだけでね…」


そう唇を吊り上げ、目を細める表情は、変身した僕の今の美貌など、太刀打ちもできないくらいだ。


気持ち悪い…?

彼の言っていることが、理解できない。


…僕には、ひたすら真っ直ぐで一途な愛に思えた。



───………



同じ手で行ったって、面白味がない。

どうしたものかな…と、僕は政宗くんを追いながら、電車に乗り込んだ。


とりあえず、座ってみる。

すると、周りにいた男の人たちの視線を、一気に集めた。


──ああ、本当にすごいな、佐助くんは…と、今さらのように実感する。


スカートから伸びる足や、少し開いた服の胸元をチラチラ見る多くの目。

人間って、本当に変わった生き物だ……そんな、末端の部分ばかりに気をとられて。


ふと見ると、政宗くんもこちらを見ていた。


少し残念に思いつつ、見返すと…
どうも、少々目線が外れている気がし、その先を追ってみる…



──うわ…っ!



僕としたことが、何てウカツな…!

驚いたことに、すぐ隣に座っていたのは、幸村くん!


…政宗くんは、彼を見つめていたんだ…


幸村くんは、静かに寝息を立てていた。





…何て、可愛い寝顔だろう──





政宗くんを見ると、唯一の瞳で、彼をしっかりと見据えている。

そこに、焼き付けるように。

…むしろ、幸村くんが焼かれるんじゃないかと、心配になるくらいに。



──熱い。



佐助くんの、あの顔を思い出した。


…政宗くんは、今何を考えているのだろう。

どんなことを、思い浮かべているのだろう。


幸村くんは、一体どんな風に、





…愛されているのだろう。





──彼ら、に。





脳内にも眼中にも、幸村くん以外が入る隙間は存在しない…


…それを再確認でき、僕は何年か振りの昂りを味わった。













皆、大きくなったなぁ…


僕は、しみじみ思った。

中学生の時点で、スラリと背丈が伸びていた三人だったけど、佐助くんと政宗くんは、さらに精悍な身体つきに。
──もう、大人と変わらない容貌になっていた。

幸村くんは、背は充分だったけど…少年らしいスマートさと、顔には、まだあどけなさが残る。

この子は、大人になってもこういう類いの人間なのかも知れない。


…もう、大きなものはなくても、二人の幸村くんへの愛は本物だということは分かりきっていた。


だけど、僕は…段々と、


どちらの愛が、より強いのだろうか──

…などと、確かめたい気分になっていた。


でも、どんな方法なら、それが分かるのか…





──沖に流された小舟。…荒れ狂う海。

救命胴衣は、一着。



また、割とドラマチックな状況を作ってみたものの、…これじゃ、展開は目に見えてる。

二人は、幸村くんにそれを着せるに違いない。

…ここで、試験レポートはおしまい。

ちょっと不完全燃焼になりそうで嫌だけど、まぁ、二人の愛は、同じくらい大きくて本物だった──って感じで、まとめれば…




「──はい」
「What…!?」



──え……!?



僕は、驚愕した。

…佐助くんは、胴衣を政宗くんに渡そうとしている。


「幸村だろ?着るのは」


幸村くんは、佐助くんからの拳を腹に受け、意識をなくしていた。…自分がそれを着ることを、断固拒否していたからだ。


「助かるのは、アンタだよ」
「Ha…?」

佐助くんは、いつものようにニッコリ笑い、


「旦那は助けたいけどさ、そしたら俺様は、旦那と離れ離れになっちゃう。そんなの絶対ムリ。耐えられない。俺様、旦那が傍にいないと全部終わる」

「何言ってんだ。死にゃ、どーせ終わりじゃねぇか。幸村ともお別れ。結局、同じことだろ?それなら」

「全然違うよ。最後の最後まで一緒にいたいんだ。ずっと見ときたいんだ。死んだ後でも、旦那を探して、絶対離したくない。ずっと一緒。だから、その瞬間一緒じゃなかったら、見失うかも…ううん、俺様はいつまでも旦那を待つよ。でも、旦那は俺様のとこに来てくれないかもでしょ?」

「お前…」

「いやだ……。アンタ平気なわけ?旦那が、俺らのこと忘れて、他の奴と…。考えるだけでも、俺」

「──ったく、我が儘な奴」


政宗くんは、渋い顔で胴衣を身に着け始めた。


「ありがと、政宗…」

「バーカ、…俺が、聞くわけねーだろ」

「え?」


政宗くんは、驚いた顔になった佐助くんと、まだ目覚めない幸村くんを抱え、転覆寸前の舟から、うねり狂う海へと身を踊らせた。

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