ファーストは誰のもの?2
*元就のケース
小学校中学年。…学校の、鼓笛隊なるものにデビューする学年でもある。
幸村と元就は、ランドセルの隙間にリコーダーを差し、仲良く帰り道を歩いていた。
元就はクラスの中でも群を抜いて演奏が達者で、幸村は学校を出たときから飽きもせず、彼を褒め続けるのだった。
「どうやれば、元就殿のように吹けるのであろう…」
「…お前は、力を入れ過ぎなのだ。今日も教えてやるから、そう落ち込むでない」
小さく微笑むと、幸村も笑顔になる。
そのとき――
「――ぶないっ」
「えっ?」
珍しく慌てた声で、元就が幸村の肩を掴み、引き寄せた。
そのすぐ傍を、相当なスピードで走り抜けていく自転車。
――見向きもしない。
元就は息をつき、
「何と荒い…。良かった、ぶつからずに済んで」
(…そのまま、どこぞで事故に遭ってしまえ)
そんな思いは顔には出さないのだが…
「す、すみませぬ!」
「!!」
幸村が急に振り返り、運の悪いことに、差していたリコーダーが、元就の顔に当たった。
「うわっ!元就殿!す、すすすみませぬっ!誠に申し訳ござらぬぅぅー!!」
泣きそうな顔に豹変した幸村が、あわあわと元就の顔を窺う。
「――大事ない。…少し切れただけだ」
「あっ、ああ…!血がぁ…っ」
「…ああ、こんなもの。口の怪我はすぐに…。舐めておけば――」
元就は、目の前がその栗色の髪で一杯になったことにより、すぐにそこから飛び退いた。
「な――!?」
口元を押さえ、幸村を凝視する。
しかし、幸村は未だに不安そうな顔で、
「…止まっておりませぬ……」
と、元就に再び近寄ろうとする。
「ま、まま待て!我が言ったのは、そういう意味ではなく――」
「え?」
「だから、普通自分ですれば済むことであろう!?」
「……あ」
幸村が、はた、と止まる。
「そう…ですな。――すみませぬ、某すっかり慌てて…」
「い、いや……気にするな」
―――………
「…元就殿、舐められないので…?」
「な、舐める!」
決心したように、元就は目をつむり、――先ほどの、その場所を…
―――………
「firstのお味は、血の味ってか?」
「結局、どこだったわけ?端の方?真ん中?てか、本当は触れてもないでしょ。就ちゃんなら、絶対避けてるよ。ね、そうでしょ?そうだよね?」
「さあな…」
「――間接キ…」
「慶ちゃん、何言おーとしてんの?これ、ただの事故じゃん。旦那はただ就ちゃんを心配して」
「キーキーうるせーよ、サルが。…ほら、次お前」
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*慶次のケース
個性豊かな子供たちの通う、少し変わった幼稚園。
その一画で――
「――はあ」
慶次は、子供らしからぬ盛大な溜め息をついていた。
(…おれは、ただ皆と仲良くしたいだけなのにな…)
どうして、あの二人はあんなに自分を嫌うのだろう。
自分は、二人のことが大好きだというのに…
その目の先には、秀吉先生にベッタリの半兵衛と、謙信先生にモジモジしながらついていく、かすがの姿。
(…皆で仲良くすりゃいーじゃん…。何で、おれを仲間外れにすんだよ…)
同じように好きな秀吉と謙信と全く話せないことに、幼い慶次は随分と心を痛めていた。
「…けいじどの?」
「あ、ゆき…」
大好きな友達の一人が顔を覗かせ、隣に座る。
彼が単独行動とは、珍しい。
「さすけとまさむねどのが、また何かすごいものを作っておりまするよ!けいじどのにも見て頂こうかと……けいじどの?」
「――……」
どうしてか、その顔を見ていると溜め込んでいたものが一気に溢れ、…同じように、目からも…。
「けいじどの…っ?どうされたのです?どこか痛いのですか?お腹?」
「…っん、ちが…」
「では……では、どうして……」
「ごめん……何か…。急に、出た…」
「けいじどの…」
「――あ、やっぱり痛いかも…。お腹じゃないんだけど、ここ…」
と、慶次は胸を押さえる。
「……」
幸村は、しばらく黙っていたが、
「…母上から、教えて頂きました魔法があるのですが…」
「まほう?何それ!?」
慶次の涙は、魅惑的なその言葉に速乾した。
「どっ、どんな魔法!?何の魔法!?」
すっかりワクワクした顔に変わり、幸村に向き合う慶次。
「では、少し目をつむって頂けまするか?」
「目?分かった!――これで良い?」
「はい」
「…ゆき〜…?」
なかなか聞こえない呪文に待ちきれず、慶次は目を開けようとした。
すると同時に、唇に「ふにゃ」という感触と、頬をくすぐる柔らかい髪の……
「……」
「元気になる魔法でござるっ。母上は、父上に毎日…」
固まっている慶次に、幸村は「あれ?」という風に、
「…効かなかったのであろうか…。けいじどの…」
シュン、となった幸村が、慶次の目に――今までとは違う、キラキラとした背景が加えられた状態で映る。
「き、きき効いたっ!す、すっげぇよ、ゆき!この魔法すげー!おれ、超元気!!」
幸村は顔を輝かせ、
「本当に!?…良かったでござる!けいじどのが元気になられた!」
「ん、ああ…!ありがとな〜、ゆき!」
二人でわあわあ笑いながら、慶次は…
(…あ、半兵衛とかすがちゃんの気持ち……分かったかも)
それまで抱えていた悩みまでもが解決され、本当にすごい魔法だと頬を熱くするのだった。
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