十回目の約束




社会人佐幸。


七夕に無理やりこじつけた話。


(全1ページ)












「…いらっしゃい」


目を細めて、幸村を招き入れる佐助。

数週間振りに見るその顔は、似合わず少し照れているように思える。
…幸村にもそれが移ってしまい、

「お…おう」

と短く、何の飾り気もない返答しかできなかった。


お互いに忙しい仕事で、最近はなかなか会うことができず――思っていたことはどうやら同じであったらしい。

食卓は、佐助の腕による見事な料理で一杯だった。
酒もやりながら、美食に舌鼓を打つ。



食事が済むと、「ちょっと待ってて?」と、佐助が寝室へ消えた。

少しの後――



「じゃ〜ん!!どーお!?」


「……」


何かと思えば、佐助は服を着替えていた。

緑色の、着物。丈の短い上に、下は裾が少しだけ膨らんで絞られている、白いスウェット?のような。
髪はお団子を作っている…。


「祭りにでも出るのか?」
「違うよ〜。旦那、今日は何の日でしょーか?」
「……七夕」
「当たり〜」


「――彦星?」


幸村は、呆れたように佐助を見返した。
二十七にもなって、成りきり遊びにここまで真剣に…。


「旦那の分もあるんだよ?着付けたげるから、こっち来てよ!」

ぐいぐい引っ張られ、拒否する隙さえない。


「――俺のは、赤か」


相手を幼稚だと思った癖に……好きな色だと分かると、少し気分が上がるのが自分でもおかしくなってくる。


「うん、…腕、上げて」


幸村の着物は、佐助と違い下が袴のタイプ。
佐助が腰に抱き付くように腕を回したので、幸村は不覚にもドキリとしてしまう。

普段は自分より少し高い位置にあるその顔を、いつもと逆に見下ろす形で――やはり、鼻筋が通っていて綺麗であるな、と見惚れていた。


「――で、これ着けて…と」
「?何だ?」
「まま、良いから良いから」

と、佐助はふわっとしたショールを幸村の肩から掛け、腕の下へ流した。
とてつもなく長く、ピンクがかった乳白色の、触り心地の良い。


「鏡見て!」


その言葉に目を向けると、立っていたのは…。
――髪まで、いつの間にかプロ並みのアレンジが施されている。




「…イイ!――すんごい良いよ、旦那ぁ!!」


「……」


「あ!ちょっと、何っ。せっかく綺麗に着付けたのに、やめて」


慌てる佐助を睨み、


「…何故、俺が織姫…」

「彦星が二人いても仕方ねーじゃん。旦那、鈍過ぎ。分かって着てくれたと思ったのに…途中で気付かなかったの?」



(…言えぬ)

お前の顔ばかり見ていたなど――



「さっ、こっちで飲み直そ!」

佐助は、寝室の掃き出し窓を開け、ベランダに足を出して誘う。


「天の川は…見えないけどさ」


晴れていても、下の明るい光に負けて空は無表情だ。

幸村も、隣に座る。


「…俺様だったらさぁ…、仕事なんて他の奴らにぶん投げて、で、織姫の機織りもやってあげて――で、バレないようにとことん二人で遊ぶなぁ」


自分が彦星だったら、という話らしい。

幸村は吹き出して、


「そうだな。…お前なら、そう…できるだろうな、器用だから」

「でしょ?…で、旦那は真面目だから絶対怒るんだろーなぁ。俺の仕事を取るなっ、遊んでばかりおらず、帰って自分で働け――ってな」



幸村は笑って、


「そんなことはない。…お前と多くいられる時間の方が……大切だ。どんなものよりも…」



「……」



「――佐助?」



佐助はシュタッと立ち上がると、


「な…何でもない!…旦那、ちょっと待ってて?」

「あ、ああ…」



(やけに今日はそれが多いな…)

次は何のサプライズか。



「――これ」


と、佐助は手の平に余るくらいのラッピングされた箱を渡した。


「いやー、ちょっとコレ過剰包装だけどさぁ。…見てみて?」

「……」



開けてみると――腕時計。

…それも、有名なブランド。



「お前…こんな高い物」

「まーまーまー…」


佐助は、微笑み、


「――十周年じゃん。…指輪より、旦那はそっちのが使うだろ…?」



「――……」



お互いの気持ちが通じた高校生の夏。――色々なことがあり過ぎて、結局正式にくっ付けたのはいつなのか分からず、覚えやすいこの日を記念日に決めたのだった。



「俺――渡しにくいじゃないか…」


と、幸村も佐助にお祝いを渡した。

佐助はにこやかに受け取り、中を見ると――


「旦那ぁ。…俺様たちって、とことん気が合うよね」


しかし幸村はバツが悪そうに、

「俺のは、これに比べると安物だ…」


佐助は笑い、

「どこが!…俺様の好きなとこのヤツじゃん」

と、早速腕に着ける。


「うーわ……超似合う。超カッコいい。これ、俺様のためにあるデザインだわ。ますますモテちまうよ、旦那」


「――馬鹿が…」


笑った目で睨む幸村。



佐助はその手を握り、



「…空の二人に比べたら、毎日でなくても会えるのは一年に一回じゃないし…、普通とは違うかもだけど、俺らに敵う奴らなんていない。
――俺、本当に…、毎年…いや毎日、いつだって思ってる。……旦那と会えて……こうして一緒にいられて、何て――幸せなんだろ、って」




「佐助…」




幸村の頭から、一瞬で湯気が沸く。


その様子に、やっといつもの、自分がリードする状況を取り戻せたと、佐助は内心安堵しながら――



「これからも、ずっと……」




その後の声は、幸村の耳元で小さく囁かれた。











「……佐助?」


(何か、息が荒い…)


「旦那…」



(この流れなら自然に――…だって、何週間振り!?コスプレ姿見たときからもう我慢の限界だったんです…!!!)





溢れる愛は、十年前から増えることはあっても、依然変わらないまま。


純情な相手を口説き倒す苦労も、また然り…。







‐2011.7.7 up‐

あとがき


読んで下さり、ありがとうございます♪


七夕なのに情緒なし…!

コスプレさせたかった!!

イチャイチャさせたかった…!!!


完璧願望文でした。お粗末さまです(^^;

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