手袋の使い方2
「ゆ、幸村くん…」
「ああ、小早川どの!」
昨日と変わらぬ彼の笑顔に、金吾はぎこちなく笑い、
「み、見て、この手袋…」
「むっ、色がちがう?」
「えっと……今日も手ぶくろ忘れちゃって、今度は三成くんと毛利さまが、貸してくれたんだー…」
「なんと!」
幸村は驚くが、「やはり、皆が思うより二人はやさしいのですな…!」
(……って、何回もボクに言わせてるからね…)
幸村は、すっかりそう信じきっている。
あの二人は幸村が好きらしいのだが、金吾より友達の作り方を知らないようで、いつもこんなことばかりをしているのだ。
幸村に対しても威張っているから、素直になれないのだろう。分かっていたが、それも怖いので言えずにいる金吾だった。
「……あれ、幸村くん手ぶくろは?」
「それが、それがしも今日は忘れてしまって」
「そうなんだ…」
(うわぁ、寒そう……)
寒さに強そうな幸村だが、手は真っ赤になっている。
「っあ、そうだ!」
「…?小早川どの?」
「ボクの家、もうすぐだから」
金吾は「はい」と、片方の手袋を幸村の手に着けた。両方は、さすがに自分も寒いので。
普通なら絶対しないが、幸村には親切にしてもらっているので、家康を少し真似てみたのである。
「…小早川どのも、やさしいな」
「あはは……半分だけだけど…」
「では、もう半分はこれで」
「──はい?」
ぎゅっと片手を握られ、金吾の口がポカンと開いた。
幸村は、隣からニコッと笑みを見せ、
「これなら、両方ぬくうござる」
「──…」
繋がれたのは、双方手袋をしていない方の手。…確かに、これなら両手とも温かくはあるが、
(は、はずかしいよぉ……)
目を伏せ、人目を気にする金吾。しかし、幸村は平気らしく、
「昨日もな、途中で会った家康どのと、こうして帰ったのでござるよ!」
「…っあ、家康さんとも?」
そっか、家康さんもしたんだ。じゃあ、結構恥ずかしくないことなのかもと、金吾は安堵した。
したが──
(……あ、……れ…)
…それって、もしかして……
繋いだ方の手のひらに、汗が滲んでいく。……ボクもしかして今、すごく…
「「金吾ォォォォ!!」」
『べしっ!』
「あいた!──やっぱりぃぃ…!?」
後ろから駆けてきた三成・元就に何かを投げ付けられ、金吾は幸村の手を離した。
投げられたのは、今金吾がはめている元就の手袋の、片割れだった。
「片方もくれてやる、貴様は即刻帰るが良いわ」
「誰が、家康を真似ろと言った…!?」
「ひっ…、し、知らなかったんだよぉぉッ…!!」
幸村には見えないように、脅しつけてくる二人。これで小学五年生だなんて、絶対嘘だと切に思う金吾である。
「…?二人も、今帰りで?」
「ああ。…ではな、金吾」
「貴様らに貸したせいで冷えた、責任を負ってもらう」
「は…──あ、小早川どの、ではまたっ!」
「……うん、またね…」
両手を二人に取られ、真ん中で引っ張られていく幸村。
金吾と繋いでいた方は三成に掴まれ、反対側の手袋は元就に外され、彼の片手と繋がれていた。(外した手袋は、元就の片手にはめられた)
「あ、歩きにくくござらぬかっ…?」
「「別に」」
「…なら、良いですが…」
幸村の戸惑う声が、遠ざかっていく。
途中で幸村が金吾を振り返り、三成と繋いだ方の手を上げ、振った。…が、それにムッと顔をしかめた三成に引かれ、道の向こう側へと三人は消えた。
……………………………
「──えい!やぁ!このぉ!毛利さまのオニ!三成くんのアクマ!!今度、ぜーんぶバラしてやる!!」
明日からは、全力で家康さんの味方につこう──金吾は固く決心し、家の中で手袋を踏みつけ、気を済ませた。
…が、その晩二人から足蹴にされる悪夢にうなされ、翌朝手袋様へ必死に謝り続けるのだった。
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アニキネタは、ずっと前につけてたやつ。親幸オチが好きなのは、未だに変わらない^^
(手袋話)元ネタの三+慶→幸を、関幸・就幸にしたくなったのに、金・三・就になった; 慶次だと三人ほのぼの手繋ぎまで簡単なのが、家康にしたら難しくて。ヘルプで金吾出したのに、家康出せんまま、金幸金みたいな…;
次は、相互様宅ネタからの小話(ギャグ・最後に佐幸)です。良かったら、ご覧下さい。
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