みんな家族2-3
【そんな出会いでした‐蒼紅編‐】
政幸のつもり、高校生〜幼児期(回想)。モブと、最後に佐助少し。
出会い話は、元ネタ通りすれば可愛くできたはずが…こんな風に使ってしまい、本当にすみません。
後書きで陳謝を(><)
武田家に新しい家族が増え、伊達夫妻が海外へ発った年の十年後。
高校生になった政宗は、放課後の教室で友人らとダベっていた。
「──年中組になったばっかの、春だったな……その日はダチと都合合わなくて、俺は一人でブラついてたんだ」
【回想】
「ワンワンワンワン!!」
「…ふっ…、えっ、…」
(あ…!)
道すがら目にした、身体が大きく獰猛な犬に威嚇され、怯え固まる小さな姿。──政宗と同じくらいの、子供だった。
政宗は駆け出し、
「Hey、にげろ!こいつはおれがやっつける!」
「えっ……!?」
(う…!?)
振り返られ、その子を目の当たりにした瞬間、政宗の身体に衝撃が走った。
大きな瞳をうるうる潤ませ、驚き見る顔…
『な、なんだよ、このいたいのは?』と当惑したが、すぐに原因が分かる。──犬に倒され、背中を足で踏みつけられていたのだ。
「うぁっ、ぁああ…っ」
「っ…はやくにげろって!おれはつよいから!」
犬の脚を掴み、体勢を逆転する政宗。胴に抱き付き、暴れる犬を確保しながら、泣きわめくその子供に叫んだ。
「っ…〜〜っ…〜〜!!」
嗚咽で聞き取れない言葉を言い残し、その子は走っていった。
それから数分、彼らは死闘を繰り広げたが、
「うー…ワンワン!ぐるるる…!」
「…ッ、ここまでか…っ」
でも、あいつが助かったんだから、それで良いよな……政宗はふふっと笑い、犬から手を離す。
『やっと離しやがったか、このガキ!』とでも言うような形相で、犬は唸りを上げ、政宗を見下ろした。万事休す──…
「わんわどのおぉぉー!!」
『!?』
突然の雄叫びに、政宗も犬も動きを止めた。
なんと、逃げたはずのあの子が、走り戻ってくるではないか。『せっかくにがしたのに、なんでだよ!』と政宗は思うが、
「こっ…、これをみてくだされぇ!」
「ウー〜〜……クゥン?」
「たいやきでござる!う、うまいですぞぉっ…?」
勢いよく犬の前に着いたものの、やはり怖いらしく、少しビクつきながら、手に持ったそれを見せつける。犬は興味が湧いたのか、フンフンと鼻を利かせ始めた。
その子は、目に光を宿すと、
「とうっ!!」
「!?……ッ!!」
力一杯腕を振り上げ、たい焼きを道の向こう側にぶん投げた。
釣られた犬は、弾かれたようにそっちへ駆け出す。
「いまでござる!」
「Ah、あぁ…!」
二人は必死に走り、何とか危機を逃れたのだった。
「Ha──もうだいじょうぶだろ」
「…っは、い…っ」
家の近くまで来たところで、二人は足を止めた。犬が追ってくる気配は、もうない。
ぺたん、とアスファルトに腰を下ろすと、その子もそれに倣った。
(………)
相手の顔は涙の跡や汗で汚れていたが、政宗はまた胸がどきどきするのを自覚する。
さっきの、犬に向かったときや、たい焼きを投げたとき──可愛い顔なのに格好良く見えて、加勢もせずつい見送ってしまったのだ。
政宗は、落ち着かぬ心地をなくすように、
「おれ、だてまさむね。おまえのなまえは?」
「あっ、さなだゆきむら…」
「ゆきむら?はじめてきい──テッ」
「えっ?」
政宗が顔をしかめ袖をまくると、肘の上に血が滲んでいた。必死で忘れていたが、犬を確保したときに地面で擦りむいたのだった。
(Ah…?)
「………」
感じた視線に目を動かせば、ゆきむらが患部をじっと見ている。その瞳はまたじわじわ滲んできて、血が怖いのかと慌てて隠すが、
「……ゆきのせいで…」
袖の上からそこへ、手を添えられる。
…たどたどしく謝る姿を見て、政宗は三度目のどきどきを体験したのである。
政宗の話が終わると、友人らは、「へぇー」などと返し、
「そんな出会いだったわけか」
「けど、家隣同士じゃなかった?」
「幸村が武田に来たのが、ちょうどその日だったんだよ」
政宗は答え、「まぁ、お前は覚えてねーだろうが」と、正面に座る幸村を笑った。
「……」
「真田?」
あの幸村が、小声でブツブツと…どうしたんだろうと、友人らは彼を窺う。
すると、幸村は立ち上がり、
「覚えておりまするよ。……犬に吠えられ泣いておったのは、そちらではござらぬか…!」
──えっ、
「……ぇえ〜…?」
友人らは、物申したげな視線を政宗に送る。
だが、当の彼は目を丸くし、
「お前、覚えてねぇっつったじゃねーか?」
「政宗殿が恥をかくと思い、振りをしておったのだ!なのに…っ」
「Ah〜…けど、大筋は合ってるだろ?お前も泣いたしよ、俺の怪我見て」
「あれは、(元々持っていた)たい焼きの犠牲に涙したのでござる」
「…はァァ!?」
相当ショックだったようで、「おまっ、俺の純情返せ!」
「だいたい何で覚えてんだよ、お前のくせに!」
「忘れるはず…っ」
「そんなにたい焼きが悔しかったのか?食い意地張りすぎだろ」
「…ではなく」
幸村は口を尖らせ、
「政宗殿の怪我を見て泣いたのは、その日とは違いまする。木登りで某が落ちたのを、下で受けてくれたときでござるよ」
「…Ha……」
「へぇ〜、やるじゃん伊達」
「恩は返したんだな」
友人らはパチパチと拍手し、彼を称えた。その薄い反応から、政宗は恐らく記憶にないのだろうが。
「良い話だった、うん」
「あとはゆっくり聞かせてやれよ、真田」と二人を残し、彼らは教室から出ていった。
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