みんな家族2-2
──と懸命に奔走した、弟思いの二人を出迎えたのは、
「おかえりー!二人とも、これからよろしくな〜?」
「………」
「………」
朗らかに笑う、見たこともない男だった。高くまとめても腰辺りまでの長い髪、信玄には敵わずともかなりの長身に、逞しい体躯。
…何だこれ?
佐助は唖然とするが、
「かすがちゃん、久し振りだねぇ!まーた美人になったなぁ」
「は?」
「ッ、寄るな!何でお前がいるんだ!」
「あっ、さすけ、かすがどの!」
そこへ、幸村と父母もやってきて、
「わたくしのゆうじんで、まえだけいじというものです」
「へ、…あ、そうなん…」
「のらどのは、うちにすむんだそうだっ」
「うむ。そういうことじゃ、二人とも」
「(またこの展開?)……まぁ…良いけどさ。で、犬は?」
「?いぬ?」
──へ?
佐助もかすがも、幸村の反応に瞬く。…呆然と見渡すも、犬の気配なんてない。……では、あれは一体、
………まさか、
『どんな奴なの?』
『えっと……ちゃいろくておおきくて、やさしくて…』
再び来訪者の彼を見てみると、──茶色の上着を着ていた。
「…まさかとは思うけど、こいつがノラ…?」
「いやぁ、適当に言ったらそれで定着しちゃって」
彼は明るく、「慶次だって。これからはそう呼んでよ」と、幸村にニコニコ笑う。
父母の説明によると、彼は今月高校を卒業したがその後が決まらず、保護者と意見を違え、家出同然でこの街へやって来たらしい。
で、金が尽き空腹で嘆いているところを、幸村に救われたのだと。魚肉ソーセージがステーキに、幸村は天使に見えたとかどうとか…(小十郎が見たのは、飼い主がいる散歩中の犬だった)
「……幸村」
「はい?」
「元あった場所へ捨てて来い」
初めて兄姉の意見が一致した記念すべき日だったが、二人のあの奔走は空しく終わり、一匹でなく一人が増えることになった。
彼とは、二人が以前滞在していた地で、親しくなった仲らしい。
保護者の家業を継ぐのを拒み、『違う土地で見聞したい』と出てきたが、せっかく貯めたバイト代を忘れてしまい、路頭に迷っていた。謙信らの引っ越し先がこの街だというのも、すっかり忘れていたと。
だが幸村に世話になり、このままではいけないと、気になっていた会社へ売り込みに行った──のが、偶然にも信玄の勤め先。もちろん正式採用はあるはずもないが、まずはバイトとして雇ってもらえたということだ。
「よかったですね、けいじ」
「うん、本当感謝してるよ信玄さん」
「ワシは何もしとらん、人事が決めたことよ。部屋は余っとる、食う分払えばそれで良し!」
「よかったですな、けいじどのっ!」
「うんうん、ほんとありがとな、幸ちゃん」
「だから、それがしはだんじでござると!」
わいわいキャッキャと、楽しげに食卓を囲む面々。と、
(……謙信様は、いつも慶次に甘い)
(大将は旦那に甘い上に、妻に弱すぎる!)
──ぎりぎりと歯噛みし、新顔を睨み付ける二人である。
「…光熱費入れなくて良いから、さっさと金貯めてアパート借りなよ」
コソッと言う佐助だが、
「おー、ありがとな?でも良いよ、ちゃんと入れるし」
嫌味にも気付かず、慶次は嬉しそうに笑い、
「俺、ずっとここに住むって決めたから。なっ、幸ちゃん?」
「はいっ!」
「はぁ!?」
「ふざけるなッ!(今でさえほぼ男所帯で、むさ苦しいのに!)」
「だって二人は、いつか出てっちゃうだろ?その間寂しくないように、俺が…」
「出ーまーせーん!俺様は一生旦那とこの家から離れませんよ、高校も大学も会社も、全部こっから通うつもりだし!?」
「…とにかく、謙信様には近付くな。幸村なら、好きなだけ許す」
「!?ちょっ、かすが裏切り者!大将たち、何とか言っ…」
──が、夫婦は常のように、二人の世界に入っていた。
といっても、『謙信、実は良い車を見付けてな』『それはそれは。けれど、だんなさまのくるまにはかないますまい』『うっ…む、まぁそうだが、試しに見て』『はい?』『…い、いや…』
などと、佐助の言うがごとく頭の上がらない夫と、きっと分かった上での、整った笑顔を浮かべる妻の図だったが。
「うーん、仲良いしお似合い夫婦だねぇ」
「…そうだろ、何せ新婚だからね。邪魔しちゃ駄目でしょ…ってことで、アンタは隣の家に飼われて下さい!」
……………………………
が、叶うはずもない。
しかも、この後日に伊達家が可愛い仔犬を飼い始め、幸村はますます政宗とくっ付くようになった。
しばらく、心の中でさめざめ泣いた佐助だが、
「さすけ…」
「ん、どしたの?」
うむ…と、幸村は遠慮がちに、
「……ほんとうに、ずっといてくれるのか……?」
(───…!!!)
その、不安そうながら期待も見える目に、またも易く復活を遂げるのである。
‥おまけ‥
「けいじどの、あそんでくだされー!」
「おーいいぜ、何する?」
「おうまさんごっこ!!」
「よーし、振り落とされるなよ〜?発進ー!」
「…やあぁははははきゃははは!おっ、おしりが…!!」
↑振動で、くすぐったいらしい。
さらに激しいときは、落ちないように必死で抱き付き。
「──すころすころすころすころすころすあいついつかぜったい……」
「………いつか禿げるぞ、お前」
「…ろすろすロスlosslosssss……」
……駄目だな。
かすがは早々に見捨て、隣家の仔犬を見にいった。
他にも長身や腕力を生かした肩車やぶら下がりを見た後、しばらく佐助の部屋には、マッスル系雑誌やプロテインが転がったりした…
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