ようやく始まる4



「しかし、楽しゅうござった。多く喜ばされ、三成殿の達者なビリヤードも見られて」

熱が上がったのは、そのせいもある気が致しますが。気持ちに余裕が生まれたのか、幸村は冗談っぽく言い、静かに笑った。


「まことに…もし目の前で粗相しておればと思うと、生きた心地がしませぬ」

早く部屋に行きたいのを引き留められ、恋人といえど三成を恨んだことだろう。それも同じように、また少々責める風に言うが、


「構うか。家族であれば嫌悪に思わん。それと同じだ」


(……ふぇ…)


幸村は一瞬ポカンとし、意味を解すると、またも温かいものが胸に落ちた。
愚かな行為でもって迷惑をかけたというのに、『風邪を引いて良かったかも』などという、さらに愚かしい思いが湧いてしまう。

気付けば体調は大分良く、吐き気もなくなっていた。


「味は分からんが」
「…えっ、三成殿が!?」
「具は卵のみだがな。包丁など、もう何年も触ってない」

粥を入れた器を差し出し、けれども三成は苦笑した。それにも胸を踊らせ、幸村はおずと受け取る。
一口食べれば頬の内側が痛むほどに美味で、みるみる粥は減っていく。綺麗に平らげると、身体が芯から温まるようだった。

苺や黄桃まで出され驚くが、それも皮剥きなどが不要なところが、選んだ理由らしい。缶詰やレトルト食品、清涼飲料水が大量に完備されており、一週間以上は快適に過ごせそうな状況に。──幸村は、感動で言葉もない。


「粗相をしようと…嫌うはずがない。それより、お前も私の前で無理をするな。……案じるだろうが」


(…身体のことだけではないが)


昨日抱いたあらゆる懸念を振り返り、三成は自身を嘲笑する。他に心動かされるような者なら、最初から自分などに惹かれやしないだろうに。

しかし、その懸念や元親の言葉はもっともだった。昨日一日で、彼はそれを嫌というほど認識した。



「三成どの…」

ようやく一言発する幸村だが、

「──あ、会社…」

三成は昨日の格好のままだ。急いで帰り、支度をせねば。幸村は、慌てて壁の時計に目をやる。が、

「じゅっ、十時!?」
「会社は休んだ」
「…ぇえ!?」

昨日のデートに誘われたときの、何倍もの驚きが幸村を襲う。しかも自分のせいでと、血相を変え、

「すみませぬ…!某もう大丈夫なので、すぐ出勤っ」
「良い。職場はチーム制だ、私一人何日休もうと支障ない」

元親が冷やかすに違いない言葉をサラッと使い、三成は幸村を再び寝かせる。
柄にもなく指で髪をすいてやると、幸村は目を泳がせ固まった。

それに、三成は細く笑み、

「私があまりにやれば、周りが失業するらしい。これからは、まともに休むべく決めた」

「え…」
「そうすれば、この時間を長く持てる。…辟易させそうだがな」


「──まさか…」

幸村は、呆然としながら、

「先ほども申したように、某はそれが最も嬉しく…」

「……私もな」
「ッ!」

途端、頭から煙を上げる幸村。
せっかく治りかけているというのに、一層発熱してしまいそうだ。

そんな彼を味わい、三成は今までの己の欲のなさに、ほとほと感心した。だが、果たして気付いて良かったのかどうか。…いや、良かったには違いないが、欲心に負け、昨日のような余裕の無さは二度と漏らさぬように、

……したいが、何となく実現しない予感がした。



「風邪が…、」
「あの生活でも引かない私だ、安心しろ」

「…っ…」

動じながらも、そらさず見つめてくる瞳。
三成の口元には、優しげな笑みが自然と浮かび、──ようやく二人の唇が重なる。

心地よさだけでなく込み上げる想いに、『やはり引いて良かった…』と思ってしまう幸村だった。






が、案の定三成はそれだけでは済まず、その先を必死でこらえ、『さっさと治れェェ…』と苦汁を舐める。
それがよほどこたえたのか、翌月には幸村を自身のマンションに移らせ、会社に泊まることはなくなった。

であるのに、会社での成績は不思議と上がり続け、休暇もしっかり取れるように。
いまいち不器用な彼らの仲も、合わせて進展できたそうである。







‐2013.4.28up‐

雪乃様、お誕生日おめでとうございます 大遅刻で本当にすみません。その節は、大変失礼を…(><)

しかもリクに全然沿ってなくて、まことに申し訳ないです。もっとやりようがあっただろうに…元気な三幸で、明るいギャグ風とか。可愛がる三成がどうにも難しく、彼が頑張って幸村を可愛がる話〜にしてしまいました。もっとクサい甘々彼氏にしたかったのに、全然なってくれない。三成ぃ…
いや、私のせいです;

幸村が乙女ちっく(飲み物とかも)だったのは熱や体調のせいですが、彼やこじゅや、就様だとどうしてもそうしてしまう。最初はケンカから入る三幸なら、また違う風でしょうが。そしてそっちも好き^^
どちらも短話にして、家幸も贈りたかったんですがね(;∀;)

雪乃様、こんな結果で本当にすみませぬ´` しかし、私に明るめ三幸を書く機会を下さり、本当にありがとうございます^^
これからも、どうぞよろしくお願いしますね。


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