芽生え2

成績の心配はなくなったから、仕事へも精が出る。

…と、思ってたんだけど。

何か、最近前みたいな表情を作るのが難しくなってきた。
というか、どうやってしていたのか分からなくて。

いつも何とかやり過ごしてはいたんだけど、その出来映えを他のモデルと比べると…


…何だか。



(…どうしよう。このままできなくて、…辞めさせられちゃったり)



今まで何かに夢中になったことのない俺様が、初めて見つけられたものだというのに。

自分なら何でもできると勘違いしてた、あの阿呆さを気付かせてくれた貴重な…。





(…旦那)

無性に会いたい。
会って、もう全部言ってしまいたい。

今まで隠せてきたことなのに。初めてだ、誰かに聞いてもらいたいって思ったのは。
こんな俺でも、熱くなれるものを持っているのだということを。

まだ高校生だけど、ちゃんとこれから先のことも考えてるって…そんなに、旦那との距離は遠いわけじゃないってことを。

くれる言葉は、どんなものでもいい。
その声に、身を任せるだけで俺は。




パシャ


「え」


カメラマンが、チェック用のポラロイドを撮っていたらしい。

(やべ、いつの間に――)

「す、みませ…!俺っ」
「いや、不意打ち撮り!気にすんな」

明るく笑うと、写真を差し出した。


(……げ)

何、この顔…


「なぁ、お前さぁ…。ちょっと話があんだけど」
「え…」

血の気が引く。…いよいよ、言われるのか。

「まぁ、ここじゃあな。…今晩、電話するわ」
「は…い」

俺様は消え入りそうな声で答えた。











「旦那…」
「ああ、すまぬな。どうしても今日渡しておきたいものが…」
「…上がって」

今日はカテキョの日じゃなかったけど。…タイミング良かったのか悪かったのか。
とりあえず、一人でいるのは怖く。
でも、旦那以外の奴なら一人の方がマシだしって。
(親ちゃんは別だけど、でも)

…というか、旦那にいてもらいたかった…んだな。

――電話は、まだない。


「すまぬ、俺としたことが、お前のを間違えて…」

と、旦那は俺様のファイルケースを取り出した。

「同じヤツだったのでな…」
「あ…そか」

使いやすそうだと思い、同じの買ったんだ。

「すまぬ…中を見てしまった」
「ああ、いーよそんな……あ」

その中に入ってた、雑誌。
表紙…俺様。

一般の書店で売られてないから、バレはしないんだけど――


「あ、あの…旦那、これ…」
「む?…ああ、それ…」
「あの」
「…少し、佐助に似ておるよなぁ」



「――へ?」

俺様は、間抜けな声で旦那を見た。


――本気、らしい。


「あ、の〜。嘘だろ、旦那ぁ…」


俺様だろ、その男前は!

よく見て、よく!

なぁ!



「……」

前は、そんな風にバッチリできてたのに。

何もかもが順風満帆だったのに。

…何で。


「旦那…、こいつ男前だと思う?」
「む…?どうした突然」
「まー良いからさ。で、どう?」
「…?」

旦那は不思議そうに見ていたが、

「…そうだな。そう、なのではないだろうか」

その答えに、俺様は心が沈む。


…どうしてさ。
旦那は俺様を褒めてくれたのに。


ただ、…もう。

旦那にその顔を見せることができないのが…何か。

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