僕らの夏休み(後)-7



「すみませぬ、慶次殿…。某、恩着せがましいような真似を…」
「えッ?な、何言ってんだよ!」

しょぼくれる幸村に、慶次は我に返り目を丸くする。

まさか、そんな言葉と反応をもらえるとは思ってもいなかったので、しばし呆然としていた。
(慶次の予想=『そ、そんなことは…っ(図星)』と焦る幸村。←を、からかうつもりだった)


「てか、全然逆じゃん!あ、ありがとなっ?俺もさ、『カメラは完璧にやる!』って気張ってたんだけど、ちょっと寂し──あ、いや俺もっつーか、」
「某も、慶次殿がいつもより遠くて、寂しゅうございました」

「──…」


危うく大事なカメラを落としそうになるのにハッとし、慶次はまたまたこちらの世へ舞い戻ってきた。


(あー…何で二人きりじゃねんだろ…いやそうなんだけど、実際はそうじゃねーから、その抜け駆けはできねーっつーか、何つーか…)


苦悩しながら、今日一日の彼の笑顔を思い出す。
あの顔を少しでも長く、多く目にしたい。きっと、他の皆も全く同じ思いでいる。

…だから、誰しもが告げられずにいるのだ。



しばらく時間をもらい、『…今日のとこは、結構な前進だったしさ』と彼らしく前向きに考え直すと、幸村を安心させるためにも明るい笑顔で、


「よし、じゃ今度こそ撮ろーぜ!…幸、目ぇつぶってくれる?」
「目を?」
「うん、ちょっと面白いポーズで撮ろうと思って」

おぉ、と返すと幸村は素直に目を閉じる。


シャッター音は二回。

一枚はフラッシュを忘れ、しかしもう一枚も上手くいかなかったようで、二人の頬から下しか写っていなかった。


「ダメだなー、俺」
「しかし、花火では沢山撮れましたし」
「そうだよな!」

やけに立ち直りが早く、というか初めから落ち込んでもいないように見えたが…
幸村は、それについては不思議に思わず、


(…?何か、触れたような……)


「どうかした?」
「っあ、いえ。何でもござらぬ」

自身の額から指を離し、幸村も慶次に続いて砂浜から旅館へ向かった。



「まーた砂だらけになっちゃったなぁ」
「大浴場が、五時からですので」

さっと浴びて、床に就くことにする。

「さっきの写真さ、別んとこに隠しとくな?」
「え?」
「だって、バレたらやべーだろ」
「!…そうでござった」

幸村の『しまった』という顔を笑いながら、慶次は上手く秘密にできたことに、拳を握った。


隠したものは、もう一つ。

──フラッシュは、当然きちんと焚かれていたのである。





「また皆で行こうな?海じゃなくてもさ」

「はい!是非にも!」


二度目の目覚めまでは短い時間だったが、二人ともしっかり眠れたらしい。

夢見がまた良くなったようで、よく似た穏やかな寝顔になっていた…。














「おいおい、やり過ぎじゃないか?」
「…つか、すげぇ恥ずかしいんだが」

家康は同情的な声を上げ、元親は、周りのクスクス笑いに居たたまれない。


「だって、ここまでしても起きねんだもん。期待に応えてやんなきゃ」
「Ahー…夢に出そうだぜ。腹いてぇ」

散々笑い尽くし、佐助と政宗は大層満足げな顔である。


「石田は思った以上の『画伯』よな。小学生レベルに、ここまで合わせられるとは」
「貴様のそれを見習ったまでだ(…っ…)」

「──うわ、貴重〜。ミッチーが吹いたー」
「…何を馬鹿な(…正視は危険か)」

「慶次、お前今回ホント頑張った。面構えも格段に上がって、最っ高にCOOLだぜ?」
「さあ、幸村との写真を撮ってやろうぞ」

幸村は、天使と見まがうばかりの寝顔で、慶次の身体にもたれていた。その彼も、幸村に少し寄りかかる体勢で…

実は、乗車数分後から二人はずっとこの状態。…よって、彼らの熱もこもるというわけで。


幸村の隣で眠るのは彼のはずだが、その顔は全くの別人になっている。現実ではあり得ない顔に。
眉毛は極太しかも繋がり、瞼の上には、カッと見開いた第三・第四の瞳。睫毛は上下ともバサバサだ。さらに、涙が勢いよく頬を流れていた。

左右の鼻の穴下からは、容赦なく三本線が。頬にはぐるぐる、口の周りには太くて濃い繋がったヒゲ。顎の辺りは、青ヒゲの如く散らばる点々。顔中汗まみれで、青筋も浮かんでいる。

しかし、彼らにも良心はあった。
それらを、はっきり写りやすいものではあるが、『水性』ペンで施した…というところだけは、かろうじて。


「…これじゃ、二人で写ってもなぁ」
「まー、こいつなら喜ぶだろうぜ」

カメラを構える家康が眉を下げ、元親がそれを慰めるようフォローを入れる。


「そうそう、慶ちゃんだし」
「幸村が写ってりゃ、それで良いんだろ」

「いつもは『描く側』ゆえ、新鮮さにも狂喜するであろうな」
「(直視するな、…っく…)」

楽しむ四人に呆れる家康だったが、落書きの下の素顔を思い馳せ、


「…そうだな、本当に幸せそうに眠っていたし。何だか、そんな顔でも喜んでいる表情に見えてきたよ」


「「「………」」」

笑っていた四人は、その言葉にふと止まった。
そして、皆で一斉に彼へ目をやり、じっくりと眺めてみると…



(((……何か、……何となく……)))





「──やっぱ、徳ちゃんの言う通りだね」
「Ahー…こんなのでツーショットなんざ、かえって欲しくねぇよな」

「では、こうすれば良い。…入るであろう?」
「あ、ああ。しかし…」

「こっちでも慶次は喜ぶだろ。それに、幸村の方は絶対だ。──ほら、家康もここ来いよ」

元親が乗客にカメラを渡し、撮影を頼む。


「…そうか…、…そうだな、これも絆だな!さぁ三成、笑顔だぞ笑顔!」

「気安く触るなァッ!!貴様らで勝手にやっていろ!!」


だが、真田には借りがある、だとかブツブツ言いながら、三成も枠の中へと参加した。




「じゃ、撮りますねー」

「「「お願いしま〜す!」」」



『パシャリ』





ひどい落書き顔の慶次と、天使の寝顔の幸村。…と、

二人の頭上・左右・足元に、無理やり他の六人が入り込んだので、ほとんど顔だらけ。見ているだけで、息苦しくなりそうな一枚に。

──だが、不思議とどの集合写真よりも楽しそうに見え、また、それぞれの部屋に長く飾られる名誉まで与えられるのだった。












君と水中ワルツ‐(afternoon sea)

毎日が眩しくて‐(shell souvenir)

夏色ソーダ‐(secret place)

体温上昇の理由‐(parasol of tree)

水平線に沈む夕日の行方‐(sunset horizon)

横顔の君も綺麗で‐(evening beach)

線香花火にお願い‐(moonlight carpet)







‐2012.8.23up‐

こんなカオス長文にお付き合い下さり、本当にありがとうございました(TT)
最後のお題(タイトル+8題)は【biondino】様から拝借・感謝。

お礼&あとがき(※も長文;↓)

ゴマ様、いつも素敵な小説を下さり本当にありがとうございます。お礼のつもりでリクして頂いたのに、色々付けてこんな長文にしてしまい誠に申し訳ございません;

ゴマ様からの素敵ネタ「幸村総受け・皆で海。佐・政はいがみ合い、三成は家康の邪魔を、美味しいところを持っていこうとする就様をアニキが止め、慶次は皆の必死ぶりに自分が行くのを戸惑う的な。最後は皆で花火とか、楽しそうな感じ」…から、多々違う話にしてしまいました。

拝借したお題は夏テーマのもので、偶然にも合いそうなお題がいくつもあったので…横暴な借り方でこれまた申し訳ないんですが。

慣れない英語とか使ってお恥ずかしい。何か、日本語の方がクサかったので; あれは、誰々×幸の話のタイトルって分かりにくいかも、と思い付けたものでしたー。タイトルは、お題『海がキラキラ』とも迷ったんですが、最後にお借りできて満足^^

冒頭の海に行くまでのところから予感はしてたものの…ずっと同じようなやり取り続きで、本当に心苦しいです; 最後まで読んで下さったなんて、感謝が尽きません。

後半になるほど個人×幸のやり取りが長くなったのは、私の頭が上手くまとめられないゆえにです(;_;) 一人目から、全力でキャラへの勝手な愛はぶつけたつもりで。ただ、長いくせに佐助の話だけ一番色気なくて呆然とする思いです。佐幸中心サイトだというのに;

(これも分かりにくくて申し訳ない、)慶次は、おでこにギリギリ触れないよう前髪にちゅうして、それで大満足でした。(写真はその図) とんでもヘタレ。クサい行動という自覚もなし。
下ネタ等、すみませんです。海、水着っつったら、つい(^m^) グアムもハワイも未経験です行きたい!

ゴマ様、こんなものですが暇潰しにでもなれましたら…
本当に、いつもお付き合いありがとうございます。お身体は大事にされて下さいね。


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