失恋日和3



『でっ…では、慶次殿!また明日…っ』
『あ、幸――』



逃げるようにして、家に帰った。

慶次殿の戸惑い声が耳に残ったが。…おかしいと思わせたに違いないだろうが。




あの、家の前にはいたくなく。


…あの、門のところはもっと見ていたくなくて。






(…一時…)


帰っていつものように風呂に入ったものの、食欲がわかず、そのままベッドに倒れ込んだ。

知らぬ間に寝ていたようで、目の下に指を置くと…カピカピになったものに触れた。





失恋…





冷たいジュースが飲みたくなり、静かに外に出た。少し行ったところにある自販機にしかない気に入りのもの。
佐助は、よくそんな甘い物が飲めるよ、といつも呆れて――

(…何故、すぐに思い出す…)





…しばらくして、足音が自分一つのものだけではないことに気が付いた。

自分が止まれば、向こうも止まる。



(…もし、や)



『最近、通り魔や引ったくり――』



斜め上の、カーブミラーを見てみる。しかし、暗くて良く見えない…。


ミラーに、キラリと光るものが映った気がした。

(まさか、刃物…)



…何故、自分は飯を食べなかったのだ。

起きたばかりもあってか、その疑いに恐怖心と目眩のようなものが襲いかかる。

ゴクリと唾を飲んだ。



「おい――」

肩を掴まれる。



うわ、佐す――





「――次殿ぉッッ!」










「…はい?」


え……


慌てて振り返る。

そこには、


「あ、ごめん驚かせて。てか、よく分かったな、俺って。あれ?気付いてた?」
「……」
「つか、幸、何でこんな夜中にフラついてんだよ。危ねーって。言ったろ?最近この辺で」
「…しかし…慶次殿は、何故…」


「おっ…俺は……さっきまで政宗ん家にいたんだ。で、そろそろ帰ろうかなって」
「こんな時間に…?」

いくら政宗殿でも…。そこは泊まらせるのが自然じゃないだろうか?

「…本当に、政宗殿の家に行かれたのですか?」
「えっ、どうして?…当たり前じゃん」
「……」

慶次殿の嘘はすぐ分かる。――何年越しの付き合いだと思っているのか。
だが、今の今までそれに気付かなかった自分が一番愚かだったのだが。

部活が終わったときにタイミング良く、
『お、奇遇!』――あれも嘘。

最近、やたらと一緒に…いて、くれたのも。


全部全部、…慶次殿の優しさ。




「…慶次殿は、いつか馬鹿を見ると思いまする」
「な、ひでぇ!いきなり何…」


「――ありがとうございまする」

形容し難い何かが込み上げてくる。駆られるままに、その大きな手を握った。



「幸…」
「…慶次殿の言っていた通り…でござった。某は…。…今頃、気付き申した」


…慶次殿も、あのときこのような悲しみに。

俺は、もっともっと違うことをしてやるべきだった…


「――そんなことないよ。…お前は、充分なことを沢山してくれた。…それに」

「それに?」





「……一番の薬は、お前がくれたから」





初め、何のことを言っているのか分からず首を傾げたが。

分かった瞬間缶ジュースが手から滑り、落下したのは慶次殿の足の上で、短い悲鳴を上げる彼。
――その顔は、自分に負けないほど真っ赤になっていて。



何故か、この間の調理実習で元親殿のことを可愛いと騒いでいた女子たちの気持ちが、少し分かった気がした。







‐2011.6.19 up‐

あとがき


読んで下さり、ありがとうございました♪

長くなった;
失恋させるのは心苦しかったけど、それでやっと気付く初々しさは旦那にピッタリな気が…

慶次は、ちゃんと毎日政宗ん家に行ってました。そこできっと延々幸村や佐助の話をしていたのでしょう。ただ、この日だけは彼が心配で、あれからずっとストーキングしてたわけです。帰るに帰れず

中学生かなぁとも思ったんですが…高校生でも調理実習するよね?男子も。
卒業して幾数年経ちますから自信が…;

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