僕らの夏休み(後)-6


幸村は武道をたしなんでおり、しかも身軽で、己より大きい者を大人しくさせる技を多く持っている。

政宗も佐助も同じような武芸を習い、慶次も真似をして幼い頃は通っていた。その経験と元々の才能があるので、幸村にも負けずの活躍を見せる。

数が多かったのと、海で体力を消耗していたせいで息は上がったが、そう時間をかけずして追い払うことができた。



「…っ、かれたぁ…!!」
「すみ、ませ、ぬ…っ、…っ…」

慶次は砂浜に仰向けに倒れ、幸村は膝を着き、ぜいぜいと喘ぐ。

大分治まってきたところで、


「でも幸、危ねーよ…。もし刃物でも持ってたら、どーすんだ?まだマシな奴らだったから良かったけど、ここが地元だったらまた狙われるかも知んないし。怖ぇ人らがバックにいたら、シャレになんねぇって」

「すみませぬ…」

シュンとなる幸村に、慶次は慌てて、

「いや怒ってんじゃねぇよっ?心配でさ!多分、さっけだったらもっと鬼のよーに……あ、それで俺だったのか」

佐助なら敵にブチ切れるだろうから、むしろ向こうの方が心配だ。そして、幸村にするお説教もそれは恐ろしく、かつ長い内容になるに決まっている。

政宗に関しては、幸村と一緒になって暴れ続けかねない。
家康には、宿を借りていることもあり言いにくく、元就と三成には、面倒だと思われたくなかったのだろう。


「いえ、それがですな…」

(普通、元親に頼むとこだろーに。ラッキーだったな、俺)


「…慶次殿、聞いておられまするか?」
「え、何が?」

ですからな、と幸村はポケットに入れていた手を彼の前に出すと、


「本当は、寝る前にと思っておったのですが…皆、なかなか寝てくれぬので。というより、某がいつの間にか寝ておったのですが」


(…へ……)


差し出されたものとは、細い『こより』の束。──線香花火である。

消化しきれなかった花火の残りに、それがあったのは知っていたが…



「はい、慶次殿。どうぞ」
「って……」

なんで?

(何で二人で?…え、なにこれ夢??)


じゃあ、初めから幸村は自分を外に誘うつもりだったのか、と理解がいくと、慶次の口はポカンと開く。
先に場所の見回りに行くつもりが、さっきの奴らに会って…

慶次のその顔を前に、幸村はまたポケットを探ると、


「慶次殿、全然写っておらぬではないですか。…すみませぬ、気が付けなくて」
「ああ、んなの…」

「それで、慶次殿は線香花火がお好きでしょう?あと、」


『いつか、幸と二人だけでこれやりてぇなぁ…』


「──と、仰られておりましたので」


(うそぉ…)


冗談だと思われているだろうと考えていたので、慶次はそれにも驚く。周りのライバルたちからも、似た類いのことをよく言われているが、彼の反応はずっと『?』というものだったのだ。(だから、皆口にすることができる)

何がどうなって、実行してくれる気になったのか…それも気になるが、今はとにかく、この夢だった状況を噛み締めなければ。



「…きれーだなぁ……」
「本当ですなぁ。もう少し長ければ良いのに」
「そこが醍醐味なんだよ」

ジジジ、ジジジと火花がこすれ合うような音を立て、膝を曲げ腰を下ろした二人の間で、それは明るく光り、儚げに消えていく。


「慶次殿、楽しゅうございまするか?」
「うん。…ってより、嬉しい」

「──(…殿と同じことを…)」

思わず出そうになるのを、ぐっとこらえる幸村。
そして、目的のもう一つを思い出し、


「カメラを撮りまするので、教えて下され」
「え〜、俺一人で?それ、逆に寂しーって」
「あ…」

そうか、と幸村は表情を落とすが、

「一緒に写ろ!タイマーあるから」
「あっ…、そうですな!」

ホッと胸を撫で下ろし、喜びに口元が緩む。慶次が自分と一緒に写っているものはほとんどなかったので、一枚はどうにかして撮りたいと思っていたのだ。

花火が消える前に、とやるのだが、片方のが落ちてしまい下を向いていたり(もう一方は笑顔)、火花を指しているのに、シャッターが切れたときにはそちらも落ちていたりと、ほとんどが失敗作に終わったが…

それはそれで、見ていて笑いを誘われる。こっちの方が二人らしいと頷き、愉快に思い合った。

海を撫でる波は静かで、明るい月が水面を照らしている。…水平線に向かって、長い光の絨毯が敷かれているような。

それを慶次が幸村に言うと、彼は笑わずに聞いてくれて、


「あれですな、『レッドカーペット』!…赤くはありませぬが」
「でも、あれも長いもんな〜」
「慶次殿は、何を思われたので?」

『あれも』という言い方に、そう捉えたのだろう。だが、慶次は改めて海を見つめ、


「教会の、『バージンロード』かなぁ。すっげぇ綺麗だからさー…」
「ああ…。そちらの方が合っておりまするな」

「(で、あれも行き着くまで長いしな…)」

「え?」
「や、何でもない」

笑ってごまかし、慶次は海の光が綺麗に入るアングルを探す。


「俺がシャッター押すから、最後に良い?」
「あ、はい!」

彼に従い、幸村は言われた通りの場所に立つ。二人をアップにするため、間の距離は最も詰められた。

が、慶次がカメラを構えないので、「慶次殿?」と下から覗くように見上げると、


「…幸はさ、俺がカメラに写ってなかったから、花火に誘ってくれたの?…俺だけ可哀想だった…?」


(ぇ……)


そう尋ねる慶次の目は、笑っている。
笑ってはいるが…

幸村は、咄嗟に彼の腕を掴んでいた。



「違いまする!そうではなく、…某が写りたかったのです、慶次殿と!花火も…っ!」


今日は、ほとんど彼と近くで過ごさなかった。…それも、カメラを見てから分かったのではあるが。

振り向けば、当然のようにそこにいる彼。
何かがいつもと違うと思っていたのは、それだったのだ。


(…ということに、一日が終わるまで気が付けなかった…)


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