僕らの夏休み(後)-5






翌日、朝食だけは旅館のごちそうになり、近場の観光地を少し回ってから、帰りの電車に乗り込んだ。


「……え?」
「窓側にされまするか?」
「や、どっちでも…」

では、と幸村は窓側に座り、外のプラットホームを眺める。

その前に向き合う形になった席には、何と佐助と政宗が並んで座る姿。いつもなら佐助の場所は慶次か、このように幸村が近くにいれば元就が主であるのだが。

正面の彼ら二人に目で示され、慶次は戸惑いながらも、幸村の隣に腰を置いた。


「(ど、どーゆー風の吹き回し…?)」

「嫌なら代わるけど?」
「俺がな」

「あ、いやいや!何でもないです!」

慶次は慌てて座り直すと、徐々にその現状に感激していく。

それを、今にも舌打ちしそうな顔で見る二人だが…









それは、今朝のこと。

昨日早めに寝たからか、佐助はいつもより早くに起床した。
普段からそうなのだろう家康や元就も既に起きており、


「また見てんの?」
「ああ…実は、昨日よく見ていなかったんだ」

カメラを手に、家康は苦笑を向けた。


「なぁ、猿飛。今日の電車なんだが、真田の隣を譲ってくれないか?」
「…はい?」

や、別に俺様にわざわざ言わなくても、と佐助は取り繕うが、

「ああワシにじゃなくて、慶次にだ」
「はぁ?どゆこと?」
「いやな、これなんだが…」

家康にカメラを見せられ、…ても佐助の怪訝な顔は直らない。元就も、隣で同じように眉を寄せていた。


「ワシらと真田の二人だけの写真も、必ず一枚はあるんだ。入ろうとしない三成や毛利も、かなり写っているだろう?お前たちが一番多いぞ、真田と一緒なのは」

「へー…」
「(言われてみれば…)」

そこで、近くの布団である政宗と三成が、話し声に気付いたらしく目を覚ました。

彼らも参加しカメラをもう一度覗けば、慶次はインストラクターに撮ってもらった集合写真や、たまに家康や元親が交代してやった数枚にしか写っていない。

…幸村との写真は、ゼロだった。


「あいつ、名誉挽回すんだって張り切ってたからなー」
「あの頭のことだ、自分の分がないことにも気付けておらぬのであろう」
「…考えられん愚鈍さだな」

「そんで、旦那の隣をって?アンタって、ほんっと優しーねぇ」

佐助は呆れ笑うと、「ま、別に俺様がさせてるわけじゃないし?旦那『が』俺様の隣に座るってだけで」

全員が先にペアを決めて席を埋めてしまえば、幸村は何の疑問もなく慶次と一緒に座るだろう。
そう彼が提案すると、家康は「すまんな!」と、嬉しそうに佐助の肩を叩いた。

他の三人にもさすがに同情心が芽生えたようで、文句一つ言わなかった…。









再び戻り、電車の中。

幸村たち四人と通路を挟んだ隣の座席には、同じ向き合う形で残りの四人が座っていた。
家康と元就、元親と三成のペア(…が、一番平和だった)。

家康はカメラを持ち、隣側の方へ立つ。


「Ah?」
「(いや、せっかくだから二人の写真を…)」

「え〜、もういんじゃない?充分イチャついたっしょ」
「どこがだよ。…こいつ、やっぱ厄日だったんだろな…」

元親が、涙ぐましそうに慶次を見やる。


──彼は、乗車数分で眠りの世界へと旅立ってしまっていた。



「疲れていたんだろうなぁ」
「寝顔でも良いから、撮っといてやろーぜ」

「No,No…普通に撮るのも失礼な話だろ」
「…だね。慶ちゃんが喜ぶようなシチュで撮ったげよーよ」

「何を…?」
「あ、ミッチーにも教えてあげるね、慶ちゃんお気に入りのやつ。機会があったらやったげて〜」
「まずは我が──」


…友人思いの彼らの、それが伝わったのだろうか?
慶次は実に幸せそうな顔で、ぐっすりと眠りこけていた。














「(慶次殿…)」


(ん…?)

肩を揺すられ、ゆっくり瞼を開けると、


「ゆき…?」
「(しっ…)」

幸村は周りに目をやり、『起こさぬように』と訴える。

皆疲れているようで、全く起きる気配はないが。


「どしたの?──誰?」
「実は、お願いが…。某は、一人で構わぬと申したのですが」
「お願い?」

そんなの何でも聞くけど、と思う慶次だが、…自分たち以外にいるこの人物は誰なのだろう?とりあえず、旅館の従業員では絶対になさそうだ。
慶次よりは背はないが、結構なガタイの良さ。と、あまりよろしくない人相。
二人を見張るように、後ろからついてくる。

幸村に案内されたのは、旅館の前の砂浜だった。(ちなみに、真夜中)
が、先客が何人もいて……


「あの、幸……、あちらは一体、どちら様……?」

向こうからは、『やっと来たかよ、待たせやがって!』『ガキが、ナメんじゃねーぞゴラァ!』『ズタボロにしてやんぜぇ!』『ボクちゃん泣いちゃうかもね〜』などなど、怒号と嘲笑の嵐。

見た目は、後ろの男と同じような顔付きに、ファッションは黒かったり光っていたり+傍らには大きなバイクがずらり。
元親の舎弟で見慣れている二人ではあるが、ガッツリと殺気を向けられているところは、全く違う。


「某は一人でと申したのですが、袋叩きは彼らの義に反すると…『一人だけ許してやる』と言われ。…申し訳ござらぬ」

「えぇぇえぇ!?何で何でっ?何でこんなことになっちゃった!?」

「いえ、早朝ランニングをと思い…すると、浜辺を荒らしておったので注意を」

「早朝って、まだ四時前!!」

未曾有の混乱に襲われたが、目だけは完璧に覚めた慶次。

荒くれ者たちは、何を言っても闘気を納めそうにない。より前に、幸村の方がやる気で一杯の顔になっている。

…諦め、慶次も参戦することに決めた。

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