僕らの夏休み(後)-2
バーベキューセットを片付けると、インストラクターたちは『車で待ってるから、ゆっくり楽しんで』と、彼らだけを浜辺に残した。
ところで、持参した花火は明らかに数が多過ぎたようだ。一際派手な仕掛け花火は最後にやることにし、手持ちと、吹き上げや小さい打ち上げタイプのものとを、同時進行で消化していく。
幸村や政宗、慶次など(子供組)は、複数持ちが基本。
慶次はカメラで絵になる構図を探すのにも夢中で、とにかく一番忙しそうに動いていた。もちろん、全員の楽しげにやる写真も、抜かりなく。
政宗は左右の手に三本ずつ持ち、しかも胸の前で交差させるという危険技を遂げ、「Yaーhaa!!」とご機嫌だ。ばっちりカメラの前で決めた後、幸村に『COOLだろ!』アピール。
これに対し慶次と佐助は、『帰ったら、片倉さんに見せよーぜ』と画策する。
政宗の兄的な存在である彼は、親バカ振りもしつけの厳しさも人並み以上。落ちる雷は、一昔前の親父を遥かに越えるパワーなのだ。
仕掛け花火に着火する役は、元親や家康、佐助らが担っていた。そういうことに気が利くのは、多忙な慶次を除けば彼らしかいない。
元就と三成はその隙を狙い、ちゃっかり幸村の隣で手持ち花火をやったりと。
太さが規格外のヘビ花火に爆笑、あるいは嘲笑し、ネズミ花火には割と肝を冷やしたり、パラシュートを追いかけてみたりなど…
皆童心に返り、自然と笑みがこぼれるようだった。
「旦那、どこ行くの?」
「財布が落ちておった。恐らく、インストラクター殿のどなたかの…車に行ってくる」
「あー、もう終わってからでいんじゃない?」
「いや、探しておられるかも知れぬ。すぐ戻るゆえ」
「じゃ、俺様…」
も一緒に、と続けようとしたが、彼の言う通りすぐの場所。明らかに不自然だ。
「…が、パッと行って、」
「俺が拾ったのだから。佐助は花火を頼む。…お前、また仕事ばかりして、ほとんどやっておらんだろう?」
「まぁ…」
苦笑で釘を刺されれば、佐助も引き下がるしかない。
(旦那が見てないんなら、別にやんなくていっか…)
幸村が去った後着火役は他の二人に任せ、『せっかくだしな』と、佐助も手持ち花火を楽しむことにした。
やはり財布はインストラクターの物で、幸村は大いに感謝された。彼も良かったとホッとし、行きよりはのんびり道を下る。
途中、水道を使う音が聞こえたので寄ってみると、
「元親殿でしたか!」
「うお!?」
飛び上がる元親に、「すみませぬ」と幸村は笑い、
「片付けでござるか?」
「おぅ、バケツ一杯になったんでな。新しいのは家康が持ってった」
「あっ、手伝いまする」
ゴミ袋に使用後の花火を入れると、車まで運ぶのにも付き合い、再び来た道を二人で戻る。
この高い位置からの砂浜と海の景色も体験済みだったが、夜はまた違う表情に見えた。
「花火、ここからでもよく見えますなぁ」
「だなー」
海の水面にも火花が映り、なかなかに趣深い。
「しばし座りませぬか?元親殿も、ゆっくり見ておらぬでしょう」
「や、けど…」
ためらう元親だが、「少しだけですから」と幸村に促され、道の座りよい場所に二人で腰を下ろした。
「運が良うございました。元親殿と、二人になれて」
「……はい?」
聞き間違いだろうかと横を向くが、幸村は前方の砂浜を見つめたまま。
少し遠い花火の光がうっすら瞳に映り、頬も白く照らし出されていた。
それに気をとられ、元親は一瞬疑問を忘れそうになる。
「な、何で、」
「明日帰ってから言うつもりだったのですが、今日を過ごすにつれ、早くお伝えしたいと…」
「………」
照れた風な顔を向けられ、元親の喉がごくりと鳴る。
『某、実は元親殿のことが……』
…やべぇ心の準備がまだ、と全身に緊張が走り、胸が早鐘を打つ。そうなりつつも、期待に胸を膨らませ待ち構えると、
「本当にありがとうございました」
「──へ?」
頭の中の予告と違う台詞に、元親の目は点になった。が、幸村は表情に笑みを加え、
「元親殿のお陰でござる、こんなにも楽しい一日を…何よりの思い出になりました」
(……ああ…)
『何だよ』と、自分の勘違いと合わせ、元親は苦笑をもらす。
「大したこっちゃねーって。俺こーいう計画立てんの好きだし…って、お前もよく知ってんだろ?」
「それはもちろん」
ですが、と続け、「『人が少ない場所を』と、某が我儘を申して…」
「いや、俺もそういうとこのが良いと思ったしよ。元就も石田も機嫌良くて、やっぱ正解だったな」
「…はい!なので、やはり元親殿のお陰でござる」
譲りそうにない幸村の言い方に、元親も「つーことにしとくか」と、諦め笑った。
なのだが、幸村はやや申し訳なさそうに、
「しかし、本当は元親殿がお誘い下さったのに、場所を変えさせてしまい…申し訳のうござった。赴きたかったところでなく、ここへ…」
「い、いや…!」
口止めしていた事実(幸村だけを誘うつもりで、一番最初に声をかけた)を言われ、元親は内心の焦りを急いで抑えながら、
「こっちのがぜってー良かったぜ。俺どこの海でも…つか、別に海じゃなくても良かったんだしよ」
「え?」
元親は軽く笑い、
「お前…らと行くなら、どこだって退屈しねーだろ」
「……!」
途端、幸村は目を輝かせ、
「某もそうでござる!皆と一緒ならば、どこでも楽しゅうございまする!」
「だろ?だから、どこでも良かったんだよ俺は」
(お前がそうなら、俺も…)
楽しそうに笑う姿が見られるのであれば、どんな場所でも、周りに何人いようとも。
彼がいるだけで、自分は──…
(……とか言いながら)
今日一日のどの時間よりも、今このときが最も嬉しくて楽しくて、心が弾む。
ただ、胸だけは逆に苦しいのであるが……きっと、幸せな苦渋であるに違いない。
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