僕らの夏休み(中)-2



「けど、珍しいねぇ…何かの景品?」

佐助が救急セットを指すと、幸村はそれを片付けながら、


「いつも佐助の世話になっておろう?俺も、こういうときくらいは、所持しておこうかと思ってな」

と、この上なくキリッと答えるのだが…



「佐助?」
「…だって」

佐助は救急セットを奪い、

「やっぱ、似合わねーし…旦那がこんなの持つとか。怪我なんか気にせず──てか、したことも気付かなかったりするしさ」
「であろう?だから、」

「だから、俺様がいんのに」

え、と声を上げる前に、救急セットは佐助のポケットの中へ消える。


「気付けないんなら、持ってても意味ないよ。だったら、俺様が持つ方が良いっしょ」
「…いや、だからな?佐助、」


『もーまたぁ?…あーあー、こんな子供みたいな怪我ぁ…』


(──と言っておったのは、どこの誰だ?)

鬱陶しがられたくないために考え、したことだったというのに。何故、その相手を不機嫌にさせてしまったのか…幸村は戸惑うばかりである。


「今日の電車でもそうだったけど、いつも俺様の隣に座るよな?当たり前のよーに」

「うん…?」
「当然のごとく、背中のチャックとかも上げさせるし?」
「…ああ」
「日焼け止めだって、俺がいりゃ絶対…」


(これは……)


…もしや、怒っているのではなくて、



「沢山友達できたけどさ、やっぱりそれだけは『当たり前』なんでしょ?…ってくらい、俺様ほとんどいつも側にいるんだから。…だから、旦那がこれを持つ必要はねぇの」

分かった?とポケットを叩くと、佐助は視線をよそにやる。

そろそろ立ち上がるつもりだった幸村だが、完全に気が削がれてしまった。…何故なら、その顔を覗くには、そこが一番良い位置に違いないので。


(よもや、すねて…?)


「──なに?」
「あ、いやっ…」

これ以上ヘソを曲げられては、対処に困ってしまう。せっかく貴重な顔が見られたのだからと、幸村はあえて何も口にしなかった。


(佐助が、子供のように見える…)


本当なら、写真を撮ってからかってやりたいところ。が、そうすると二度と見られなくなりそうなので、やめておく。(カメラもケータイも今はないが)

宝物でも発見したときのように、幸村の胸は高鳴った。


「…佐助の言う通りだな。お前の怪我を見るまで、完全に忘れておったし。使い方も…正に宝の持ち腐れだった」
「だろー?…あ、でもこれは助かったよ?」

そこは慌てて訂正し、「もしまた怪我したら、旦那にやってもらおっかな」

その言葉に、幸村はパッと顔を輝かせ、


「お安いご用だ!」
「うわ、ちょっ…!」

驚き声を上げる佐助だが、すぐに「もー」という苦笑に変わる。
お互いの家で遊ぶ際によくされる戯れを、何とか倒れず受け止めた。

前に座ったままの幸村が、腹に軽いタックルをしてきたのを…(佐助は岩の上に座っているので、倒されれば膝より痛い思いをしかねない)
幸村は万歳のように両手を伸ばした状態で、佐助は衝撃を抑えるため、彼の背に腕を回して、



(って……旦那、はだかじゃん!!)


正しくは水着なのだが、佐助は、パーカーの前を開けていたことを即座に後悔した。
肌が直に触れ合い、体温が一気に上昇する。

見る分には、『綺麗だなぁ』と密かに思うくらいで済んでいたのが、こうもべったりくっつくとなると──



「……あついから、…ね?」
「すまんすまん、つい!」

肩を掴み幸村を再び地に座らせると、彼は少しも反省していない顔で、楽しげに笑う。

佐助の両の脚の間で、それは微笑へと変わっていき、



(…あれ、何か……)

何か、これって、



今一度、幸村に視線をやる。

両手は地面に着け、正座を崩した体勢で自分を見上げる彼。
その身体の両端には、佐助の膝から下の脚が。…まるで、彼を囲うように。

そして幸村の顔は下ろした腰のすぐ前、ちょうど内股の間に挟まれる位置に………



『美味しい?旦那』
『んむ、あふい、んまい』

↑熱々(ジャンボ)フランクフルトを、懸命に食す幸村。

(※佐助脳内の“ときめき旦那メモリアル”の一枚)


『熱くて美味しいんだー、そっかそっかぁ…』







「佐助っ?気持ち悪いのか!?」

「──まさか!!そんな夢みたいなこと、めちゃくちゃいいに決まってんじゃん!!俺一瞬でいく自信あるし旦那も自信持って、」
「俺?」

「(ハッ…)なんでもない!なんでもないよ!おれさまなんかいってた!?ごめん、ここすずしいから、ねむくなってたかも!」

あー、何か身体冷えちゃったなー!と笑い、佐助は立ち上がると、


「寒くなったから、ちょっと海入ってあったまってくんね!」
「えぇっ?」

幸村は唖然とするも、「待て、俺も行く!」

──今度は、佐助が『げぇっ』と思う番だった。



「寒いなら、着ておった方が…」
「腰からあったまるって言うでしょ?だから」

パーカーを腰に巻き、ばさばさと前ではためかせる佐助。
明らかに挙動不審だが、幸村の頭と目ならば簡単にごまかせる。


「てか、散々泳いだんだから、ゆっくりしてて良いのに」

「…お前とは、全然だ」



「(ぅあー……)」



──嬉しいやら、辛いやら

佐助の体温は、海に浸かってもなかなか冷めることがなかった。













夕方になると、『やりきったな』という充足感が行き渡り、全員海から上がった。

乾かしていたウェットスーツを店の車に乗せ、インストラクター二人とメンバーの内五人は、一旦ここを離れることになる。
車で店に戻りスーツや備品を下ろした後、予約していたバーベキューセットや食材、持参してきた花火などを運ぶのだ。

ついでに店のシャワーを浴びて戻る予定で、浜辺に残った三人(+インストラクター一人)は、セットを設置する場所や荷物の整理。

先ほど佐助が足を洗っていた水道にはホースとシャワーノズルが付いているので、彼らはそこで砂や塩を落とした。


「お前らちゃんと洗えよ。ほら」
「はぁ、…しかし」

じゃんけんの結果残った三人は、元親・幸村・元就。
シャンプーやボディーソープを渡す元親に、用意の良さというか意外な几帳面さに驚くが、

「でーじょーぶだって。それ、流しても良いやつだから」
「…?」
「『自然に還る』やつ。エコとか、オーガニック?何かそんなの」

「ほぉ」

そんなものがあるのか、と幸村はボトルをまじまじ見つめる。

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