僕らの夏休み(前)-6
「大分集まりましたな」
「ああ、そろそろ充分だ」
三成は集めた貝殻を砂浜に置き、腰を着けた。
その周りを、幸村はまだ探りながら、
「ありがとうございまする」
「……いや、」
それを言うのは逆では、と浮かぶ三成だが、慣れない行為のためすぐには出てこない。
「水練目的以外では決して赴かぬと聞き及んでいたのですが……お誘いしてしまって」
幸村が言ったのは、三成が好きでもない海に付き合ってくれたことへの感謝だったらしい。
「謝辞など必要ない。来たくなければ断っていた」
「………」
簡潔、かつぶっきらぼうな言い方だったが、幸村は頬を緩ませる。
彼の言葉に隠されたものを勝手に感じ取り、それを噛み締める──幸村の、密かな自己満足の一つであった。
その表情を見て、三成は考えを改めると、
「礼を言うのは、こちらだ」
「…え、」
固まる幸村の気持ちは、三成でもよく分かる。だが、死んでも聞かれたくない人物たちは、都合良く誰一人とて近くにいないのだ。
三成の表情は、自然に柔らかくなり、
「私ならば、考えもつかなかった。きっと喜んで下さる。お前が言ったと知れば、尚のことな」
「そんな…」
幸村は恐縮し、「三成殿が集められたからこそ…」
が、三成の目は変わらず、そんな彼を棘なく捉える。
「お前とともに、と聞いた方が皆喜ぶ」
「……で、ござるか…?」
「ああ」
三成は頷き、「皆、私がお前と親しくするのを、望んでいるらしい」
「さ、さようで……」
光栄に思いつつ照れを散らすため、幸村は自分が集めた貝殻を、三成が置いた場所へと運ぶ。
手の中の貝が全て落ちると、
「だが、だからと言ってこうしているのではない。…私が、ここに来た理由も……」
「──はい…」
集めた貝殻の上で、幸村の片手は捕らわれていた。親指以外の指先を三成の手のひらに乗せられ、軽く包まれた状態。
彼の親指と他の指の腹で表裏から撫でられ、くすぐったさに顔がほころぶ。
はた目から見ると、相当に良い雰囲気だった。
それらを、幸村が友人としての意味にしか捉えていない──のを除けば、の話だが。
『ザシャァッ!!』
「…!?」
突然二人の間に砂が舞い、『パチャン、ポチャン』という、海に細かいものが落ちるような音が、立て続けに鳴った。
砂を避け周りを見ると、弾んで転がっていくビーチ用のバレーボール……
「あ…」
「ごっっめ〜〜ん!!ちょっと力み過ぎちゃって〜!」
「全く…熱くなり過ぎぞ、佐助」
駆け付けたるは、試合で冷たく白熱していた佐助と元就。
だが、彼らの笑顔の裏の標的は、既に互いへのものではなくなっていた。
三成だけに見えるよう、完璧なドヤ顔を向ける二人。
「貝が…っ!」
バラバラになっているのを見て、幸村が悲鳴に近い声を上げた。
先ほど聞こえたのは、それらが海に落ちる音だったのだ。
しかし、
「案ずるな、無事だ」
三成が手の中でいくつかを見せ、残りはポケットにあると示す。
その俊敏さに、幸村は目を見張り、
「三成殿、さすがでござるな…!良かった、割れなくて!」
「……ほんと……こっちも、ホッとしたわぁ…」
「ああ……」
二人も戦きながら、『こいつ、反射神経どうなってんの』と、悔しさに歯噛みする。
「本当にごめんね、二人とも」
「いや良いのだ。三成殿の貝が無事だったのであれば」
が、幸村は少し残念そうに笑うと、「俺も回収できれば良かったがな」
「すまぬな、せっかくのお前の功労を」
「でも、あれだけあれば充分だよね?お土産には」
↑インストラクターから情報入手済み。
「ああ。竹中殿たちの方は、三成殿に渡しておいたからな。皆の分は、まだ少なかったゆえ。諦めろということなのだろう」
「…『みんな』?」
「──とは?」
幸村の言葉に、佐助と元就の表情が止まる。
まさか
「ちょうど、良い貝が減ってきたところでなぁ…恐らく潮時だったのだ。まだ、佐助の分しか集められていなかったから、もう…」
「……佐助?」
おーい?と、顔の前で手をヒラつかせても横腹を指でつついても、全く反応しない。
「放っておけ。その内回収される」
「はぁ…」
フンと鼻で笑うと、三成は幸村を連れ、貝殻をインストラクターへ渡しにパラソルへ戻った。
「………」
佐助は、『人を呪わば穴二つ』を身を持って証明してくれたらしい。
次は、穴を作らぬよう上手くやろうと、良い教訓を得られた元就である。
幸村たちが貝を預けた後、他の彼らが戻り、早速政宗と三成の競泳大会が始まる。
慶次はというと、いつまでも落ち込むタイプではないせいか、すっかり最初のテンションの好カメラマンに戻っていた。
他のメンバーは、二人の対決を砂浜で眺めたり、海でビーチボールで遊んだりとそれぞれ。
佐助がパラソルから出てこないのが気になったが、どうもインストラクターと喋っているようだ。ならば構わないだろうと、幸村も皆とともにいた。
「うっし!じゃ、皆で何かやろーぜ?」
二人の戦いが終わり(結局引き分けだったが、政宗は気を済ませたらしい)、元親が呼び掛ける。
『海中』鬼ごっこ+かくれんぼのミックスゲームに決まり、鬼は赤いバンダナを腕や頭に着け、タッチで交代という極めて単純なルール。
最初の鬼は、元親に決まった。
「シビアに十秒で行くぞ!」
「Ha!ヨユ〜ヨユ〜」
「絶対に捕まりませぬ!」
「ちょっ、待って待って!さすがにカメラ置いてく!」
「元親が鬼じゃ、最初から全力出さないとな」
「ふっ…、一度も交代できぬようにしてやるわ」
「触れられなければ、敗北ではない…易過ぎて話にならん」
言い分は彼ららしいもののオンパレードだったが、全員やる気は満々。
元親が数え始めたと同時に、四方八方海の中へと消えた。
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