僕らの夏休み(前)-3



「「「………」」」


あまりに下らなさ過ぎて、政宗に対し皆何も言う気になれない。

そして、幸村を不憫には思ったものの、『反応が可愛いから、しばらく見守ろう』という結論に達する。


「Hey、ふくらはぎに何か付いてんぜ?左の」
「え…?」

背後から言われ、少し膝を折り身を屈め、左足を窺う幸村。──しかし、見える範囲には何も付いていない。
後ろ側か、とそのまま身をよじると、満足げに笑む政宗と目が合った。

幸村のポーズはつまり、左足の後ろを見るため内股気味、半身が斜めに折れてお尻を見せ付けるような……で、向いた顔はまだ頬に少し色が残っている。


『パシャリ』

慶次が無言でシャッターを切ると、


「どれどれ?」
「お〜、こりゃなかなか」
「…フン、考えたものよ」

「貴様ら何を考えている…斬り落とされたいのか?」
「多分、三成の頭ん中と同じことだと思うけど」

家・親・就・三・慶…五名はカメラに群がり、キャッキャと評価・堪能に没頭。
幸村は「?」と眉をひそめるのだが、


「!?政宗殿っ?」
「慶次、早く撮れ!」

その状態のまま政宗に後ろから羽交い締めにされ、何事!?と慌てふためく。


「お前の背後取ろうとしてた奴がいたんで、守ってやったんだよ」
「何とっ…ほぁあッ?」
「ったく、こんなとこ狙うなんざ卑怯以下だよな〜」
「(し、尻をっ?)──うわっ!」

触れた政宗の手とその台詞にも驚く幸村だが、今度は身体ごと強く引かれ、目を白黒させる。

ヒュオッと静かな音を立て、二人がいた場所に長い片足が跳んできた。


「さっ、佐助がっ?」
「危ねー危ねー。あんな蹴り食らってりゃ、一発でheaven行きだったぜ」

「だぁーれが天国に行けるってぇ?良い機会だから、逝き先教えてあげよっか〜?」

ごきりばきりと手を鳴らし、MAX笑顔に黒くて(極)冷えたのものをトッピングする佐助。(しかし、「ハイ旦那」と、持ってきたペットボトルを渡すのは忘れない)


「幸村よォ、なんにもしてねー善良な人間にいきなり殴りかかってくる奴、どー思うよ?」

「旦那を蹴ろうとしたんじゃないからね?分かってくれてると思うけどさ。…で、どこにいんのかな〜?旦那の背後を取ろうとした奴ってのは」

Hahaha・ハハハと、いつものように手と足で話し合いを始める二人。
不可能だとよく知っているので、幸村も止めはしない。



「随分過激なウォーミングアップだなぁ」

インストラクターたちは唖然としていたが、二人のファイトを楽しんでもいた。

やはりいつもの如く勝敗はつかなかったが、キリの良いところでダイビングも開始された。













潜った海の中は、本当に写真で見るような、透明な青の世界が広がっていた。
色鮮やかな珊瑚やイソギンチャクの間を、魚影がチラチラと動く。


(ハイ皆、こっち向いて〜!)

((お〜〜!!))

インストラクターの一人が店のカメラで撮ってくれるというので、慶次も心置きなく楽しむことができる。

声は聞こえないためジェスチャーで示され、近くにいた元親が幸村の手を取り上げた。
いかついゴーグルを着けた顔はお互い不細工で、二人はおかしさに目を細め合う。


(元就殿も!)
(…ああ)

隣にいた彼の手も取ると、幸村を真ん中に、(見た目は)仲良しダイバー三人組の一枚が完成。

海好きの元親であるが、意外にもダイビングは初めてだったらしい。年齢や経験に関係なくできるスポーツとあって皆すぐに慣れたが、やはり彼が一番楽しそうに見えた。

政宗と佐助は珍しい魚を発見しようと、それぞれ躍起になって泳ぎ回っている。無論、幸村にそれを見せたい一心なのと、こいつには負けてたまるかとの思いからの行動だ。

前者の後を家康、後者の後を慶次が追い、二次災害を防止中。インストラクターも巻き込まれ、幸村たちとは別世界の戦乱状態だった。


(──真田)
(三成殿?)

くい、と腕を引かれ下へ行くと、


(おぉ…っ!)

いかにもな、黄色や黒の縞模様の魚が。珊瑚の周りを漂い、正にシャッターチャンス。
インストラクターがすかさず撮ってくれ、幸村は感謝の意を示すよう、三成の手を取り振る。

その後、二人だけで先ほどと同じポーズで撮ってもらった。


(ここにも沢山おりまするよ!)
(ほう)

イソギンチャクの間にわらわらと群がる、小さな青色の魚たち。そっと指で触れるとパッと離れ、


(お、おぉぉ〜…!)
(…ふっ)

幸村の嬉しそうな顔(ゴーグルのせいで全く可愛くはないが)に、三成でも口元が緩む。
漂う栗色の髪を魚たちにつつかれ、『これはエサに使えるか…っ?』と心踊らせながら、逃がさないように動くのを止めた幸村。

見ていた元親と元就も、必死で自然と一体化しようと努める幸村の姿に笑みを誘われ、その子供染みた思考に、ほのかなときめきさえ湧く。

気付けば、動かぬようにするためか、幸村は両手でしっかり三成の腕に掴まっていた。三成の表情は、ゴーグルのせいでよく分からないが、


(あっ…)
(うぉ、わり…!)

つい幸村の髪に手をやってしまった元親が、片手を前にし謝罪を示す。…小さな魚たちは、一斉に去ってしまった。
続いて、幸村も三成から離れると、


(貴様ァ……)
(己が魚に好かれぬからと嫉妬か?)

しかし、三成から離れさせたことに対しては、『よくやった』と元親を称える元就である。


(…では、わざとっ?元親殿、ひどうござる!)
(違ぇって!…だっ、やめろぉッ)

(仕置きでござらぁ!)

素早く元親の背後に回ると両脚で彼の身体を拘束し、その脇下をくすぐる幸村だが、


(──あ。スーツだから全然だわ)
(…ぬっ)

何だ、とすぐに解放し、再び魚を探し始める。



(………)
(………)

両側から、元親の肩をがっしりと掴む二つの手。


(わ、わざとじゃっ…)


直後、海の藻屑が新たに増えたのは言うまでもない。

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