僕らの夏休み(前)-2






こうして、海に行くことになった八人。
しかし、補習や課題の片付けなどで、前日まで結局ほぼ毎日のように集まっていた。


「今回、持参するカメラは一台にすることに決定した」

「「「は〜?」」」

元就の言葉に、一斉に穏やかでない視線を投げるメンバーだが、

「それぞれのカメラで我先に(幸村と)撮ろうするため、毎回時間を食うておろう?まとめて撮れば良いものを。…ゆえに、だ」
「(いつもそれで、真田を疲れさせているからな)」


(((う……)))


家康の囁きに、その代表格である佐助、政宗、慶次は肩身が狭くなる。


「そこで、これだ。安い(※家康的に)んだが、なかなか性能良くてな」
「俺もこれオススメ。家康ん家が、貸してくれるってよ」

家康と元親が示すのは、見た目はほとんどデジカメと変わらない、防水&水中カメラ。(普通にも使える)
輪からは、『お〜』という感嘆の声が上がった。


「で、このカメラマン役であるが。やはり、普段から慣れておる者に任せたいと思うのだ」

元就は、佐助たち三人をゆっくり見渡すと、


「(幸村の素晴らしい)笑顔を真っ直ぐに向けられ、多くのそれを納めることができる──この幸運なる役目、さて誰に…」

「ハイハイ!ハーイ!!!」

バッと手を挙げ、さらに立ち上がったのは、


「あれ!?…良いのっ?」

意外そうに目を開き、他二人を窺う慶次。


「Shit、出遅れた」
「早かったねー…負けたわ」

良い写真頼むぜ?との二人からの激励に、慶次は「おぅ、任せとけ!」と笑い、幸村に熱い抱負を語り始めた。



(…つーか)
(カメラマンなんか、一番貧乏クジでしょ)

皆が楽しんでいるときでも、常に離れたところから、それを撮らなければならない。
自分が(幸村とも)写ることはほとんどないと、そう覚悟もしておかなければ。


(…あやつらのどちらかを潰しておきたかったのに…)

苦虫を噛むような顔を向ける元就に、佐助と政宗は「やー、残念だわぁ」「やりたかったのによ〜」と、真逆の笑みを返す。



「名誉挽回するためにも、俺頑張るからな!」
「慶次殿、ですからあれは冗談だったと…」
「いや、幸はすぐ我慢するから。あー、マジ去年の俺殴りてぇよ」


「──協力してやる」


「ちょっ…、去年のだってば!」
「(消せば)同じことだろう。愚劣な…真田を盾にする気か」
「や、俺、死ぬときは幸の膝の上って決めててさ!」

「みっ、三成殿?落ち着いて下され…っ」
「そーだよ、せめて海終わるまでは待ったげなって」


…カメラマン役を回されるのは困る。

皆胸中同じくすると、慶次の幸村への甘えに対しても、少しは寛大になれたようだった。













さてさて、ようやくやってきた当日。普段の行いが良いのか(?)、完璧なる晴れ模様である。

目的地は、この季節は観光客でごった返すある半島で、彼らの街からは電車で数時間。前日は早めに就寝し、今日は早朝からの出発。
夜は、向こうに近い家康の親戚の家に、泊まらせてもらえることになっていた。

カメラマン慶次は、行きの電車の中から既にもう働いている。撮る本人がそれは楽しそうに促すので、思惑抜きでも、彼が一番適役だったようだと内心で頷く面々。
幸村だけに偏らず、ちゃんとバランス良く他のメンバーも撮り、旅の様々なシーンを上手く集めていた。


午前中から昼頃までは、体験スキューバダイビングの予定である。
店で説明を受けた後、インストラクター数名とともに浜辺へ移動。そこが例の『穴場』で、本当に彼らの他には誰もいない。

白い砂浜に白木と化した流木が転がり、平べったい大きな岩が自然の階段を作っている。脇には、海に浮かぶ洞窟。そして海は文句なしの、澄みきった緑と青のグラデーション。



「うぉぉぉ、想像以上でござる!南の島のようでござるぁぁぁ!!」
「ほんとすげー!こんな綺麗な海初めて見た!」
「近場でも、あるもんなんだなー」

感動を口々にすると、インストラクターたちは誇らしげに、

「しかも静かで良いだろ?初心者なら、ここで充分楽しめるよ。魚の数は向こうほどじゃないけど、可愛いのが沢山いるから」

「「「おー…!!」」」

積極的にキラキラと顔を輝かせるのは、もちろん幸村や慶次、元親や家康たち。だが、元就や三成の目もいつもよりかは開いている。

早速水着の上からウェットスーツの装着を始めるが、身体にフィットする作りのため、なかなか身に着けにくい。幸村は既に汗だくだったので、これまた非常に苦戦を強いられた。

やっとのことで手足を入れ、


「(…ふぅ)佐助、チャック頼む」
「はいは〜い♪♪♪」

「?何だ、やけに嬉しそうだな?」
「えぇ?フツーよフツー、いつも通りでしょ」

しかし、そう言って幸村の背のファスナーを上げる佐助は、明らかにMAX笑顔である。


「まだか?」
「ごっめーん、手が濡れちゃってさ。旦那ってば、汗かき過ぎ〜」

と、触らなくても良い背中に、わざわざ手をやる佐助。

確実にオカンの領域を超えた行動に、何名かが不穏なオーラを立ち昇らせたところで、「できたよ〜^^」と軽やかに離れた。


「暑いなぁ」
「あ、お茶持って来んね」

すまぬな、と応えたときには、佐助はもう手を振り向かっていた。



「お、幸村ァ……結構sexyじゃねーか?」
「え?……ッ!!」

指された箇所に目をやると、幸村はすぐに赤面し、


「なっ…、…は…ッ…!!ままま政宗どのは、いつも…!はっ、はれんちでござ…!!!」
「何だよ、褒めたんだろー?隠すなって」


(最悪でござるぅぅ…!!)


真っ赤な顔のまま政宗に背を向け、コソコソと太もも辺りの生地を下に伸ばすが…

元々そこまで目立つものでもないし、他の皆だって同じようなもの。だが、一度指摘されると気になって仕方なくなる幸村である。

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