みんな家族3






さてさて、そんな武田家のお隣さんは伊達家といって、一目で分かるほどの裕福なご家庭。割と大きい武田邸の、さらに上を行くお屋敷である。

そこには幸村と同い年の息子がいて、名は政宗という。仕事で忙しい両親に代わり、小十郎という使用人が保護者役を務めていた。


『あの子には、さっき伝えたよ。ちゃんと分かってくれたが…』
『…きっと、我慢なさっておられるかと』

そうだな、と政宗の父親は顔を曇らせると、


『少しでも心残りを作らないよう、できるだけ好きなことをさせてやってくれ。費用は気にせずにな』
『…心得ました』



…………………………



(海外出張か…)


小十郎の眉間に、深い皺が刻まれる。

政宗の、両親の話だ。しかも、厳密に言えば短期出張ではなく、「異動」の方が正しいかも知れない、長期に渡るもの。小十郎も同行するのだが…

当然政宗も連れていかれるわけで、小十郎にはそれが不憫でならない。彼が、ここを離れたくないだろう理由を、充分過ぎるほど分かっているので。
しかも急な話の上に、出発もこの夏中という二重苦。

小十郎は、急ぎ最善策の模索を始めた。













「おはようございまする、まさむねどの!」
「…ゆきむらっ?」

夏休みに入ってすぐの、ある朝。
起きた政宗がリビングに入ると、幸村がニコニコとテーブルに着いていた。

小十郎も、にこやかに政宗を促すと、


「今日、隣は全員留守にするらしいのです。それで、真田を預かることになりましてな」
「ほっ、ほんとか!?」
「おせわになりまする、まさむねどの」

「──…っ」

政宗の顔が、みるみる輝いていく。

保育園でも、いつも仲良く遊ぶ二人だが、人気者の彼らなので、常に大勢の友達と一緒だった。
どちらかの家で遊ぶときは、必ず佐助が(あんなに年上のくせに)いるので、夢のような出来事である。


「まずは朝食ですぞ」
「それがし、もうおなかぺこぺこでござる!はやくたべましょう、まさむねどのっ」
「Ah、おー…」

政宗の、子供らしくはにかむ表情に、小十郎の目も細くなる。

食後は外の広い庭や植物園、プールなどで思いきり遊ばせ、夕方前は、一緒の布団でお昼寝。
先に風呂を済ませ、夕飯も三人で食卓を囲んだ。

その後、小十郎が子供向けの映画DVDをセットし、「面白いから」と二人に勧める。

内容は、仲の良い子供二人の内、片方が親の仕事で外国へ、もう一方とは涙の別れ…で、青年になってから再会。外国に渡った方はすっかりバイリンガルで、見た目もスマート、向こうで得た豊富な知識により相手の友人を手助けし、とにかく大活躍だった。

彼が渡った外国は、正に伊達一家が赴く国と同じで、相手の子役は幸村に少し似ている。



「………」

映画を見終わった後、じーっと考え込むようにDVDのパッケージを見つめる政宗。しかし、顔は暗いものではなく、その逆だ。

小十郎は、少々ドキドキしながら、


「どうだ、真田?面白かったか?」
「はいっ!」

幸村は、彼の期待にバッチリ応える返答と笑みを見せてくれ、


「◇◇どのが、なんでもできてすごくかっこいいでござる!それがしも、□□(外国名)にいきとうございまする〜!」
「(…よしよし。)そうだな、本当に。そういえば、こっちの子はお前に少し似てるぜ」
「……」

ぴくり、と政宗が反応するのを、横目で確認する小十郎。内心は、まだ窺う気持ちばかりではあるが、


「そうでござるか?…では、◇◇どのは、まさむねどのでござるなっ!」
「…Ah?」
「まさむねどの、えいごしゃべれまするし!ふたりはおとなりさんどうしで、それがしとまさむねどのとおなじでござる」

良いぞ、と心の中で幸村を称えつつ小十郎は、


「実はな、政宗様も同じように□□へ行くことになったんだ。旦那様と奥様、俺も一緒に」
「!!そうなのですかっ?」

「…おう」

頷く政宗に、幸村は目を丸くさせていくと、


「ほんとうに、このおはなしとおなじでござる!じゃあ、まさむねどのも、◇◇どのみたいになるのでっ?…すごいでござらぁぁ!!」
「ま…まぁな。ま、おれはもっとかっこよくなってんだろーけど」

「そうですなっ!まさむねどののほうが、□□じんにみえまする!」
「そ、そうか?どのへんが?」

「かおでござる。**(別の映画)の、Aどのににておりまする」


──A役を演じた外国の少年俳優は、とびっきりの美少年である。
政宗であっても、誇らしげに頬を少し染めたほどだ。


「…じゃあ、楽しみだな?政宗様と、大きくなってまた会うのが」
「はい!まさむねどの、それがしたちも、たいむかぷせるつくりませぬかっ?」

「Ahー、そうだな。うちのにわにうめようぜ。またここにかえるし」
「おまちしておりますぞ。おとなになったら、たくさんえいごをはなしてくだされっ」
「…Ohー」

にこにこと笑う顔は、小十郎から見てもその気持ちが分かるくらいで、政宗は頬をさらに色付かせていた。

その表情には、もはや憂いの欠片一つ見当たらない。小十郎は、成功を確信すると、


「…よし、じゃあ二人並んで」
「っ!まさむねどのっ」

「バカ、そんなくっつくなって」

カメラを向けられ、幸村が政宗の手を握り、ピースを作る。政宗は、当然逆の台詞で照れを隠しているわけだが、そんな二人は映画の子役以上に可愛くてお似合いだった。

やはり、政宗様にはこの愛らしい天使が一番で、きっと運命の二人に違いない。今回の離別も、彼らの仲をより深める試練なのだろう。誰が何と言おうと、自分だけは二人を(見)守ってみせると、硬く誓う小十郎。



「…こじゅのやつ、またこえぇかおしてやがる…」
「ぽーず、きまってなかったでござろうか?へんなかおだっただろうか…」
「どんなんだ?やってみろよ」

「えっと、」


にこっ(*^∇^*)



「No!!それがよかったのに!!」
「ご安心下され、抜かりなく撮りましたぞ」

「Good job こじゅ!!さすがはおまえだぜ!!」


(まさむねどの、げんきになってようござった!)



晩も二人一緒の布団で眠り、お互い良い夢を見られたようである。

穏やかな二つの寝顔に笑み、静かに寝室のドアを閉めた小十郎だった。

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