みんな家族2


夕食後は、もてなしの意味も兼ねて謙信に一番風呂を、次にかすがへ渡した。

武田の家は元々広いので、二人にもそれぞれ部屋を宛がうことができ、荷物も既に片付いている。(謙信の部屋は、襖を開ければ信玄の部屋と一繋ぎに)

その後に入浴した信玄と幸村が、そろそろ上がったらしく、


「ふー、暑いのう!」
「さすけー!きょうは『ふぁいぶすぴあ』のぱんつにするー!」

「え〜?さっきは、そっちが良いっつったじゃん」
「きがかわったのだ!」

「もー…」

下着一丁の信玄の足元を、すっぽんぽんの幸村がパタパタ走り回る。タオルを前に抱えている(佐助に拭かせるため)ので、出ているのはお尻だけだが、



「いやぁぁぁぁぁあ!!!」


「──あ」
「む?」
「ふぉ?」

佐助も、つい失念していた。
そういえば、今日は…というか、これからは三人だけの生活ではないのだ。

運悪くかすがが部屋から戻り、絶叫とともにとんぼ返りした。


「や、やば…」
「…ぬぅ、しもうた」
「かすがどのっ?」

「あ、旦那──」

顔色を変える佐助と信玄に気付かないまま、幸村は急いで彼女の後を追った。




……………………………




「かすがどの…」
「うわッ!おっ、お前どこから…!」

かすがの部屋の小窓に顔を出す幸村に、彼女は血相を変え駆け寄る。
その窓の下は階段で、普通にそうできる場所ではない。手すりからよじ登るしかなく、幸村のような小さい子が下に落ちれば、


「馬鹿ッ、あ、ぶない…!何故こんなところから!」
「ドアがあかなくて、へんじがなかったゆえ…」

抱き上げ部屋に入れると、しゅん…と落ち込む幸村。『ゔ…』と、その姿に罪悪感が湧くかすがだが、


「と、とにかく服を着ろ!…ほらっ」
「はぃ…」

渡されたTシャツを、のそのそと頭から被る幸村に、とりあえず息をつく。


「どこかいたいのですか?おくすりなら、したに…」
「…違う。痛いわけがないだろう?あんなことで」
「でも…」

「覚悟はしていたが、いきなりあんなもの…。…お前、まだ小さいからというのは、私の前では通用しないからな。私は、下品なものが一番嫌いなんだ」

「げ、げひん…」
「さっきみたいに、は、裸でうろついたり──あぁ、これだから男は…ッ」

かすがは頭を抱えると、


「どうせなら、女ばかりのところだったら良かったのに!よりにもよって、三人も男だなんて…!」

わぁっと、悔しさ?に涙した。



「かすがどのぉ…」

もらい泣きしやすいたちなのか、幸村の瞳もじわじわと潤み出す。かすがはギョッとし、

「な、なんでお前が泣くんだっ」
「だ…、…っぇ…」

幸村は、ぐずぐずと嗚咽を上げながら、


「かすが、どの……かぁい、そうれす…っ、…それがし、も、ここ、くる、まえ……やなとこ、で…ッ、だが、ら…」

「そ、…(そうだったのか…)」

「…ぇも、うれ、しくて……、ははうえと、あねうぇ…れき、て…、てれび、より、きれ…で、つよ、くて……それ、がし」


(うぅぅ……っ!)


その涙と、素直な言葉(『綺麗』等)は、矢となりかすがの胸へ突き刺さる。
昼間相手をしてやったときは、うるさい子供だという認識しかなかったのだが、何やらどんどん可愛く見えてきた。…まぁ、鼻水は不要だが。



「それ、がし…、おとな、しく、しま、ゅ……らから、」
「──あぁもう、…分かった」

かすがはため息をつくと、


「分かったから、もう泣くな。初めから覚悟の上だと言っただろう?謙信様さえ幸せなら、私は満足なんだ。…ちょっと、愚痴をこぼしただけで」

「……?」
「下品なのが嫌だっただけだ。別に、ここが死んでも嫌なわけじゃない。…多分、他のとこよりは一番マシだ」

「では…!」

ぱぁぁぁっと輝き、一瞬で涙が引っ込む幸村。かすがは、危うく吹き出しそうになるのを、必死に堪えた。



(しかし……)

かすがは、幸村を改めて眺めると、


「お前、なかなかの逸材だな」
「?いつざい?」
「…謙信様とは、タイプが違うが…」
「??」

幸村は首を傾げるが、かすがは段々楽しげな表情になり…


──しばらくの後、様子を窺いに来た佐助が目にしたのは、

何も分からないまま『着せ替え』をさせられている幸村と、嬉々とした表情で、写真を撮りまくるかすがの姿。

↑服は、かすがの幼い頃の特別な日(入学式、発表会など)に、謙信がプレゼントしてくれた物で、捨てられるわけがない。



「なっ、何してんのーッ?」
「あぁぁん、可愛い…!」

「ふぉぉっ?」

かすがになでくり&抱き付かれ、あたふた幸村。でも、好かれた?ようで嬉しい。


「女の子がいなくてちょっと寂しいが、幸村がたまにこうして遊んでくれたら、お姉ちゃん、やって行けそうな気がする…」

「(なまえで…!)」

呼んでもらえたことに感激、幸村はますますかすがに懐く。


「ちょっとちょっと、なんで!?何がどーなって、もうこんな仲良くなってんの…!?」


(てか、だんな可愛過ぎなんだけど!!)


かすがに妬くべきか感謝するべきなのか、複雑な思いに駆られる佐助。



「おやおや、もううちとけたようですね」

「うむ、さすがはワシらの子らよ。ファッハッハ!」


それぞれの思いはどうあれ、新しい家族のスタートには似合いの、賑やかな夜になったようだった。

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