晴朗2



「しかし、鈍かったよな…あいつらに限らず、俺らもよ」

政宗の言葉に、佐助も苦笑気味に、


「まーねぇ…旦那、嫌われないために、必死でそういうの隠そうとしてたみたいだからさ。本人も知らない内に。とどのつまり、俺様が一番よく見てて、分かってたってことに繋がるわけだけど」

「Ahー、もう聞き飽きたぜ」

そ?と、佐助はヘラヘラしながら、


「慶ちゃんは、俺様といるときの旦那の笑顔が一番なんだ、って。ま、それも正解なんだけどさ…
なーんで、気付けないんだろね?

──それを見られるのは、自分も一緒にいるときだ…って、当たり前のことにさ」


隣の芝生はより青く見える、あれなのか。

佐助は鼻でも笑うが、


「俺様に言わせりゃ、俺様だけじゃなく、アンタらに向けるのだって全部同じ。あの笑顔は、旦那の『大好き!』って気持ちの表れだからね。…だけど、」



ほんの、わずかな違い──…が。



(それを、俺様が見付けられたんだ。…俺様だけ、が…)


佐助は穏やかに目を細めるが、



「………」


隣の元就が、窺うように彼を見ており、
『ああ、やっぱり案外気が合うんだよなぁ』と、少しおかしくも思いながら、


「全然悔しくない、気にならない…とは、誰も言ってないでしょ?…だけど、思うんだよね──…」



あの『昔』があってこそ、今の自分たちがいる。

しかし、全くの同じではなくて、それは一部であり、
…そのまた逆でもあるんじゃないか、と。

『今』の自分たちも、『昔』の彼らの、一欠片なのであって、


「こことはまた全然違う、別の俺様たちの世界も、沢山あるんじゃないかなぁ…って。あの『昔』から、何百…何千…きっと、数えきれないくらいの、物語がさ」


パラレルワールドというやつか、と元就はすぐに思ったが、そういった夢ある考えと彼との似合わなさに、口を閉ざされる。



「でね、その中のほっとんどが、俺様と旦那の、ラブラブハッピーエンドなわけ。どれもこれも、旦那は必ず笑ってくれてんの。
昔の俺様が、死んでからも守るって誓った、あの…

目が覚めたらここだったけど、絶対あれは夢じゃなかったよ。だって、見たことも想像したこともない話ばっかだったし、『昔』のあいつが、中でも俺様を贔屓してくれててさ…で、特別に見せてくれたんじゃないかな、って」


思う分なら迷惑じゃねーでしょ、と笑い、



「それにさぁ、この『俺様』も、なかなか捨てたもんじゃないだろ?…あれを引き出せて、」





──誰よりも、幸せにできてさ。









「そうだな、…と言っておいてやろう」

「から、ケーキおごれ。じゃなく、もう普通のもんで許してやんよ。回らねぇ寿司とか」

「…お前にも、違う酒やるつもりだったんだからな…」


それぞれの優しさ(先二名については微妙だが)を受け取り、佐助は笑う。

それは、あの二人にもひけをとらない──だが、彼らしいどこか飄々としたものも、抱きながら。





「んじゃ、邪魔者は退散…」

「Wait、wait。言ったろ?こりゃ、俺らからの『present』だって」
「一部始終見ていたと教えてやれば、ケーキや寿司以上のものが返って来ようぞ」

「ひっでぇ」

元親の一言に、「今に始まったことじゃないけど」とツッコみながら、佐助は、


「マジで足踏み外されちゃ、困るからね。最後まで、見守ってやりますかぁ」

そして、

「ホントの苦難は、これからだし?手を繋ぐのでさえ、次はいつになるか」


(だって、旦那の方から『離れたくない』って思われてる小舅が、こんっなにいるんだからさ…)


よく見られる心から楽しげな、佐助のやや黒い忍び笑いに、政宗と元就は全く似たもので返す。


…誰より幸福だが、その分不憫でもあるかも知れない彼。それを憐れむ元親だったが、

きっと、それすらも幸せだと思えるのだろうと、あの顔を確かめ、密かに笑い頷いていた。

















「慶次殿…」

「ん……?」


幸村は、その声にも『ゔっ』と思いながらも、それを隠しつつ、



「あの……
………見過ぎ、……でござ、る……」


と、一層顔を染め、睫毛を伏せる。

大分我慢してきたのだが、いつまで経っても長く離れない視線に、とうとう根を上げてしまった。


「うん…分かってんだけどさ。困らせたくなんかないんだけど…」

慶次は小さく笑い、幸村の手を今一度握り、


「幸……こんな顔してたっけ、って。目が離せなくてさ」

「っ、慶次殿のせいでござろうっ?ですから、もう見ないで下され…っ」

真っ赤な顔を恥じ、幸村は腕で覆おうとする。

が、慶次が素早くそれを止め、


「隠さないでよ…まだ見てたい。誰も見てないんだから、良いだろ…?」

「…っ……」

元々、彼の哀願する声や顔には、どうにも弱い幸村である。

…観念したように、ゆっくり肩と腕の力を抜いた。



「もとからイケメンだけど、何かすげぇ増した気がしてさ。…こんなに綺麗だったかなぁって。恥ずかしがる顔も、沢山見て来たけど…えれぇ可愛く見えるしで。何でだろな…?」

へへへ…とはにかむのだが、どうもいつもの配慮は、すっぽり抜け落ちてしまっているようで。

幸村の怒りを誘うキーワードがいくつもあることに、全く気付けていない。


「…ぃ、じ、どの…」

声を震わせるが、彼は『あ、見せてくれるんだ』と、胸中で喜び踊ったのが、幸村でも分かるほど。

彼の全身の周りに、白くて綿毛のような小さな花が弾み舞っているのが見える。…現実にはない花が。


幸村は、身の内で息をつくと、

「某も、このような慶次殿の顔は初めて見申した…」

えっ!と慶次は、またも花を飛ばし、


「俺も、格好良くなった!?」

と、嬉々爛々と尋ね返した。


「そうですなぁ…」と、幸村は微笑み、



「こんなにも崩れた顔、某初めてでござる」



「…………え゙ッ」

瞬時にして、花が散る慶次。



「せっかくの秀麗さが、台無しでござる。そのようにふやけたような顔…」


幸村にしては、少し意地悪のつもりで言ってみた。
反応を、笑いをこらえながら待つのだが。





「〜〜ッ、幸ぃぃぃっ!!」

「!!?」


(な、ななな何故…!?)



先ほどに勝る花を大放出させガバッと抱き付いてくる慶次に、赤面以上の拷問に遭ってしまう。


何をどう間違えたのだっ?と混乱しながらも、これなら顔を見られなくて済むので、



(ではなくて…ッ!)


と抵抗するが、一つも効かないのが分かると、…もう、大人しく諦めることにした。

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