宴夜6


「………」


そんな幸村の様子を、三成は静かに眺めていた。…家康と仲良さげな姿にも、以前のように顔をしかめたりせず。

吉継が陰でニヤリとしていると、それを察するように、似た笑みを向ける孫市。


「真田、中等部の入学式の後…我らも同行しても構わぬか?例の、菓子の店…」

吉継の珍しい言葉に幸村は目を見開いたが、それはすぐに輝くものに変わり、


「もちろんにござる!蘭丸殿といつき殿も喜びましょう」
「フ、フ…だと良いがな。ほれ三成、ヌシも行くのよ?」

「…ああ」

その返答に、周りは「えっ」と驚くが、


「先日行ってみるとな、なかなかどうして…三成も、大層気に入ったようでなァ」
「それは嬉しい!ますます楽しみでござるっ」

幸村の喜び顔に免じ、チャチャを入れるのを飲み込む佐助たちだった。


「………」
「石田殿?」

何か言いたそうな彼を、幸村が小首を傾げ窺うと、


「『進路はもう決まっているのか?どこを志望している?家康と親しくするのは、甘んじて許す。だが、私の目の届く範囲から去るのは許さない…離れるのは、もうしばらくしてからにしろ』──と、言いたいようだ」


「…孫市。何度言えば分かる…」

『だいたい、それは貴様の方がだろうが』とでも言いたげな目で、三成は彼女を睨む。

しかし、その場にいる者全員の予想通り、幸村は一層笑みを重ね、『今度、じっくりお聞かせ下され!』と、進路相談の約束を予定に追加していた。


「ヌシも悲運であるが、諦め──ほれ、徳を積みよると思えば…な?面倒な輩どもですまぬが、どうか末永く付き合い願いたい…」

演技がかった仕草で、恭しく頭を下げる吉継。
彼のそういったものも、よく理解している幸村なので、


「某こそ、このように暑苦しゅうてやかましい性格は、一生治らぬと思いますが」

と彼の真似をし、苦笑顔で受け答える。


「ふ…」
「…はは…」

再び二人の目が合うと、こらえられないよう、互いに吹き出した。



………………



「あいつが言うよう、身体は大事にな。文句をつけたくなるほどうるさくて色々目に余る方が、一番お前らしいから。…新学期を、楽しみにしているよ」

「…っ、ありがたく…──孫市殿も、またうちに遊びに…姫殿も。かすがと、これからも親しくして下さると…」

孫市の端整な笑みとその台詞に胸が詰まるが、どうにか正直な気持ちで返せた。


「当然ですよぉ!かすがちゃんがお嫁に行っちゃっても、しつこく離れないつもりですからねっ」
「だっ…、から、それは、まだ先の…っ!」

あのドレスも彷彿したのか、かすがは再び焦り出す。が、鶴姫は変わらず笑顔。


「じゃあな、皆。帰り気を付けて」
「ちゃんと二人は送るから。心配するなよ、真田」
「…またな」

家康と官兵衛、三成が言い、吉継、鶴姫、孫市も手を上げ振った。


その背中が小さくなるまで見送り、振り返ると、他の彼らは『やっと帰った』という風な表情。
というのも本気ではなく、それぞれ同じように、別れの挨拶はしていたのだが。

元親と元就も帰り道は一緒だが、今晩は政宗の家に邪魔するらしい。



「んじゃ、帰ろっか」

楽しげに、また優しい笑みでもって、幸村とかすが(主に前者)を促す佐助。


…しかし、当たり前のように幸村の家への道から外れようとしない他三名。

に、頬を膨らませるまで、あと数分…














「先上がってるから。…ゆっくりして来なよ」

そう言い、かすがはエレベーターの中へ消えた。

幸村と佐助ら四人は、マンション前で、少しだけダベることにする。


「そういえば佐助…かすがの呼び名、変わらぬな?」
「あー…ね。もうさ、染み着いちゃって。てか、怖くて呼び捨てできない」

「(ぷっ…)なるほど」

幸村は笑い頷くと、


「皆も、名で呼んで下されば良いのに」

…と言いつつ、つい政宗を見上げてしまう。


「何だよ?」と怪訝になる彼に、「いいえ」と忍び笑う幸村。
一見じゃれあいのようにも見えるそのやり取りに、佐助と元就の視線は鋭かった。



「旦那、また明日ね?夜、豪華ご飯にするからさ、楽しみに、」

「Ohー、そりゃ待ち遠しいぜ」
「やれやれ、忙しいことだ。連日で外泊とは」

「…誘ってませんけど」

だが、佐助は諦めの表情で溜め息をつく。


「心広いの、今だけだからね。…あとは旦那が許したって、絶対に邪魔させませ〜ん」

「つーか、お前が邪魔なんだよ」
「本当にな。最後の最後まで」

ジトリと睨む二人だが、


「おあいにくさま。最後じゃなくて、これからだし。俺様が、何もかも一番だったの。ね、旦那?旦那が証人なんだから、揺るぎない事実」

幸村を見れば、


「おぅ…」


と、神妙な表情で──両の瞳には、真っ直ぐ輝く明るい光がいた。

小十郎にも見せた、あの…



「「「………」」」

彼らは眩しそうに、はたまたどこか嬉しそうに、それを見つめる。

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