宴夜5
撮影ボタンを二度押し、
「良いんじゃねーか?」
と笑い、元親はカメラを返す。
「(変な顔してたら、もう一度…)あの、ちょっとだけ待って下さいっ」
幸村と一緒に制服モデルを務めた際にも、小太郎とのツーショットを入手できた彼女であったが…
恋する乙女の情熱は、それで簡単に治まるものではない。
「…って、元親さぁん!何ですか、これぇっ」
責める口調に、何だ何だと周りが寄ると、
…彼女の怒りも、ごもっとも。
ツーショットには違いないが、
一枚は鶴姫の頭から上、もう一枚は、小太郎の顎から下──しか、写っていない。
元親は、ケラケラ笑うと、
「しゃーねぇだろ、身長差すげーんだから!せめて、あとこんくらいデカくなってから言うんだな、嬢ちゃんよぉ」
「まぁぁ、何て口…っ!元親さんのバッ──あ、何でもないんです!も、もう少しだけ、」
無言で立つ小太郎に、あせあせと取り繕う鶴姫。
それに、「へっ」とせせら笑う元親を見て、
(((…シスコン…)))
と、佐助たちでさえ呆れ返る。
恐らく、自分たちが口を出さずとも、女子二名からの鉄槌が降されることだろうが、
「これで大丈夫ですよねっ?」
プルプルしながら、爪先立ちする鶴姫。
その涙ぐましい努力を前に、やはり自分たちからもお見舞いしておこう、と思い直す彼ら。
(元親は、『揺れてちゃ、不細工に写っちまうぜー?』などと、未だからかい続けている)
「………」
「あ、ご、ごめんなさいっ!すぐ済みますから…」
そんな二人の様子を窺い始めた小太郎に、鶴姫は赤い顔で向かう。
だが、小太郎は首を振り、
「………え、」
「──は」
(((おぉぉ……ッ!?)))
呆然とした調子でもらした鶴姫と元親に続き、全員等しく唖然とさせられた。
『これなら、二人とも写るでしょう?』
と言ったのが聞こえてくるように、元親に向かい、首を傾げる。
──鶴姫は、彼の腕の中、横抱きの状態へと変わっていた。
「(きゃぁぁぁぁぁッ!?ゆ、ゆゆっ、夢ですかぁ、これっ!?)」
「な……ちょ、あんた、そりゃ、」
一挙に顔の赤さが全身に渡り、内心歓喜の叫びを上げる鶴姫と、パクパクと口を開閉する元親。
…もう見ていられない、とその手からカメラを奪い、佐助がベストショットを何枚も激写した。
それから少しの後小太郎は店を去ったが、鶴姫は幸せ一杯胸一杯、目の中も外も、ハート大量乱舞なトランス状態に。
面白くなさそうにする元親に、佐助は含み笑いで近寄り、
「親ちゃん、そろそろ白状しよっか?」
「あ?何を?」
「一体、誰が好きなの?誰を選ぶの?誰がホントの初恋だったの?ん〜?もういい加減、楽になんなって」
「あーん…?いきなり何言い出す」
「姫or孫市?」
「初恋は、Tさんだったのだな。我は応援するぞ?」
「Iさんの想いも、なかなか甘酸っぱくて良いと思うが」
政宗、元就、かすがの不敵な笑いに、「はぁ?」と訝しげになるばかりの元親。
「(は、初恋…)」
さすがにデザートを食べ終わっていた幸村はビクリとするが、…聞こえない振り。
「何だ、いつからそんな話に?」
「…下らん」
家康は楽しげに、三成は吐き捨てるように。
吉継は、喋ったのを少々後悔しながらも、三成の矛先が己に向かうことはまずないだろうと、彼の自分への信頼度をひっそり誇る。
陶酔鶴姫をなだめていた孫市は、『バレるのは時間の問題だな』と冷静に考え、
官兵衛は、『どうか、自分にお鉢が回って来ませんように』と、もうから恐々していた。
「まー、分かってっけどね〜。ねー、就ちゃん?」
「ああ、バレてないと思っているようだがな、こやつは」
「…んだぁ…?」
顔をしかめる元親に、佐助は明るく、
「辛いと思うけど、俺様のことは諦めてよね?親ちゃん」
「………」
『やはりか…』と二人を解した顔で見る孫市に、必死で否定を説く元親。
に対し、佐助は何食わぬ飄々な顔。
最後は、誰もが見慣れている、『旦那、旦那』と幸村の傍を離れず、ヘラヘラ・デレデレした彼の姿ばかりで。
(…ああ、やっぱりこいつはこれで、きっとこの先もずっと…)
──と、(嫌でも)誰もが同じ思いを抱かせられ、宴の夜は深まるのだった。
宴は終わり、大人組は『これからが本番じゃあ!』と、二次会へ消えた。
生徒組は、結構な時間でもあったので、大人しく解散…である。
「姫殿、今日は本当に世話になり申した。生徒会だけでなく、某の分まで…」
「そんな、そんなですよっ。こちらがやりたくて、させて頂いたんですから!」
鶴姫は、照れ笑いしつつ、
「今度、お市ちゃんたちとも、一緒に遊びましょうねっ?浅井さんって、真田さんと気が合いそうなんですっ(…話は、噛み合わないかも知れないけど)」
「こちらこそ!」と幸村が力強く言えば、鶴姫は嬉しそうに顔をほころばせた。
「徳川殿、またご連絡致しまするので…」
「ああ、忠勝も喜ぶ。楽しみに待ってるよ。…でも本当は、そんなの抜きにしてくれると、もっとありがたいな。『命の恩人』よりも『友達』として」
「もちろん──」
だって、と幸村は小さく笑い、
「それよりもずっと前から、友達だったではないですか、既に…」
「………」
家康も微笑み、「そうだった」と、幸村の肩を軽く叩いた。
「退院したばっかなんだ、休み中だからって、無理はするなよ?調子が良いのが続くときに限って、落とし穴が…まぁ小生の場合は、悪いこと続きの上にさらに悪いの…が普通なんだが」
「はい、肝に命じておきまする」
官兵衛の妙な心配のされ方とボヤキには、幸村でも笑いが湧いて仕方がない。
しかし、生徒会のメンバーとここまで親しくなれたのは、彼の力あってこそだった。
…という感謝の意は何度も伝えてはいるのだが、彼も照れ屋であるらしく、人前で言うのはやめてくれと請われている。
(特に、佐助の前では決して、と)
なので、今日も帰ってから、メールにしたためよう…と、胸にしまった。
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