宴夜4



「いつも帽子を目深に被り、顔はよう見えなんだが…我らでも分かるくらい、可愛らしい服を着ておるのよ。仕草も、控えめでしずしずというか、モジモジというか。まるで人形のように儚く、三成でさえも気掛かりになるほどの…
三成は、何度か近付きはしたのだが、いつも話し掛けられずじまいでな、

そんなある日…」



『こんなところにいないで!あっちでいっしょに遊ぼう?ワシが、みんなに言ってやるから』


「その頃から爽やか少年だったんだ。そりゃモテるよなぁ〜(…って、親ちゃんいないんだっけ)」
「さすがですねぇ。…じゃあ、それがショックで?」

「三成の前で、いともあっさりやってのけ、しかも彼女は逃げ出し…それを徳川が追い、」


『わ、分かった、もうしないから…誰にも言わない。だから、泣かないでくれ』


「彼女は、徳川に弱々しく殴りかかっておったが、奴はものともせずその身体を抱き、帽子を取り、その頭を優しく撫でて…」


「あーあー、そりゃあ…」
「儚いfirst love & broken heartっつーわけかい」

官兵衛と政宗が、気の毒そうな顔を向けた。


「だが、全くの逆恨みじゃないか」
「元々も、理由なしに敵視していたからな…多分、それも後付けの一つだったんだろう」

かすがは呆れ、孫市は再び親兄弟のような心境になったと見える。


「………」
「ん?どしたの、姫ちゃん?急に」

静かになった鶴姫を、佐助が窺うと、


「私…、やっぱり知ってるかも知れないです、その子のこと」

「えっ!」
「ホゥ…真か?」

全員が、彼女に驚きの目を向ける。
しかし、鶴姫の顔からは楽しむ色は消えており、


「近所にね、ファッションデザイナーの方がいらっしゃるんです。すっごく可愛い…子供服も手掛けてるんですけど。私のことも可愛がって下さってて、今でも服を贈ってくれたり…」

「…ああ」

孫市が、分かったという風に呟く。
他の彼らは、二人を交互に見ていたが、


「そこの子供さんです…多分。同い年で──でも、実は…」

鶴姫は、大変言いにくそうに、


「…男の子、だったんです…」



「………」
「………」
「………」


同情や憐憫といった、何とも言えない空気が充満する。
吉継でさえも、大分ショックだったのか、完全に沈黙してしまっていた。


(それで、恥ずかしくて…)


三成も気の毒だが、その『彼女』も、かなりの仕打ちに遭っていたのだ。
今頃どんな人生を送っているのだろう、と余計な心配まで起こってくる。


「何と、な…。…いや、驚いた。あの可憐な『銀髪の乙女』が、男だったとは…」


「「「銀…」」」


ポツリと佐助や政宗、元就らが呟くと、


「それも、三成には仲間意識か、嬉しかったようでな…」

と、吉継が答える。
…が、途中から、彼の表情も佐助たちと同様のものへ変わっていき、

鶴姫と孫市も、厳かな顔にて、



「──元親さん、…です…ね…」





(((……う、……わぁ……)))



…色々と、申し訳ないことをしてしまった感で、一杯になる面々。

元親が、初等部の中頃まで女の子のような外見であったことは、幸村と元就以外はよく見知っていた。
幸村だけは今も知らないのだが、もちろん元就は、使える情報として取得済み。

静かになった場に、何だろう?と幸村がきょとりとするが、


「あ、真田!これまだ味見してなかったな?小生もう要らんから、」
「良いのですかっ?ありがとうございまする、黒田殿!」

「真田、私の分も食べてみてくれ。これもなかなかだぞ」
「おぉ、孫市殿のも美味そうですなぁ!是非、こちらのケーキも!」

官兵衛と孫市により、たちまち意識がそれる彼だった。


「…これも、絶対内緒ですよ…?」
「Ahー…けど、皆知ってるしよ」

「それは、外見のことだけでしょう?普通にしていれば、中性的な…女の子としても、ボーイッシュな感じで。──だけど、あの服を着せられ、髪型を変えられた元親さんは…、はっきり言って…、


世界一の美少女さんだったんですから…!!!」


最後だけは、キラキラ感激モードで、力強く言い放った鶴姫。

彼女がしきりに、『昔は可愛かったのに…』と惜しむのは、そのせいだったのか──と、本当の意味で理解ができた。


「じゃあ、家康は知ってたんだな」
「スゲーねぇ。姫ちゃんもピンと来なかったくらいだし、ホントに誰にも言ってないんだ」

政宗と佐助が、感心するように頷き合う。
自分なら、絶対にネタにしてつついていたな…という気持ちを抱えながら。


「写真、見てみたいな。(幸村には敵わないだろうがな)。やっぱり、小さい頃も着せれば良かった。はぁ…」
「…かすが、聞こえてる」

引き続き、幸村の気の方向を操縦する孫市である。

そうしている内に、三成たち三人が戻り、秀吉と半兵衛も席に着く。
幸村たちに一声かけ、信玄らの宴会状態の場へ移った。

そして、何と彼らだけでなく、氏政と小太郎も同伴、すぐさま鶴姫は、全身輝き始める。

学園含むグループの会長である氏政だが、彼らの間では壁はないも同然。信玄とは親戚同士でもあるしで、大人組はますますの盛り上がりを見せた。


「風魔様、良かったらこちらに…っ、美味しいんです、このケーキ!沢山ありますからっ」

今日は運転手でもあるらしいので、飲酒できない小太郎を、鶴姫が懸命に誘う。

しかし、仕事の関係で長居できないらしく、また終わる頃に、氏政を迎えに上がるということなのだが…

恥ずかしがっている暇はない。鶴姫は、思いきってデジカメを取り出し、


「あああのぅ…!い、一緒に撮って下さい!!」


「……」

こくり、と彼が頷くと、途端に増す彼女の輝きに、皆が目を眩ませた。


「ほら、そこ並べよ」
「あっ、ありがとうございますぅ!」

元親がカメラを受け取り、小太郎の隣へ頬を染め並ぶ鶴姫。

彼女のその状態を好ましく思っている幸村なので、ニコニコしながら見ていた。
そして、それにだらしなく鼻の下を伸ばす数人。
と、それらに冷めた視線を送る、他数人。


幸村と同じように平和そうな顔で笑っているのは、家康ただ一人であった。

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