宴夜3



「(しかも、この二人が同じ場で、飯を食う日が来るとはねぇ…)」

「(あいつらが真田を救って以来、憑き物が取れたようだな)」

官兵衛と孫市が、ヒソヒソと囁き合う。


視線の先には、三成、吉継たちも含め、その正面に座る家康の姿。

もとより、佐助たち幼なじみ四人組とは仲の良い家康なので…しかし、実際彼と付き合いが長いのは、元就を除いた生徒会メンバーの方であるのだが。

この調子だと、良い雰囲気に向かっていきそうに思える。
家康とも親しい官兵衛と孫市だったが、友人が多く快活な彼であるので、どうしても真逆の三成の方に目が行きがちであった。
ゆえに、兄や姉のような心境で、『良かったなぁ』…と。


「初め、毛利からうちで打ち上げできないか、と言われてたんだがな」

家康が言うと、

「お屋敷にも久し振りに行きたかったんですけどね〜、どうしても、ここのデザートを食べてもらいたかったんです!絶対、真田さん気に入ると思って」

と、鶴姫が申し訳なさそうに、だが明るく笑った。


「はい!どれも美味で、まだまだ食べられそうでござる!」

幸村も同じように笑い、

「徳川殿には、お世話になりっ放しで。むしろ、こちらがお礼を…狭い家ではありますが、是非今度うちに」

「ああ、そんなの…でも、嬉しいな。ワシは、そっちの方が楽しみだし…、この店も本当に良いところだ。さすがは、目利きの幹事殿だな」

「えへへ〜。そう言ってもらえると、頑張った甲斐がありますっ」


「…ふん」
「ヒヒ…」

照れ照れとなる鶴姫とニコニコ笑う幸村からの、家康への称賛の眼差しに、三成と吉継が小さくこぼす。(吉継の笑みも、悪いものでもないようだ)


「親ちゃん、ちゃんと見てた?あれが、モテる男の良い見本だよ」
「からかうなよ、猿飛。モテるのは、毛利や三成の方じゃないか。学祭の人気投票でも…」

ピクリと三成は眉を動かすと、


「そういえば…貴様何位だったのだ?」

そんなものではあるが、勝っていた事実に気分が良くなったらしい。
家康は、話しかけてくれたことに純粋に喜んでいたが。


「ワシは八位だったよ。政宗と猿飛が六位だったろう?それで」
「あああ、思い出させないでよ、徳ちゃん!」

「ありゃ、何かのmisに違いねぇ。この俺が、元就や慶次、しかも元親に負けるなんざ」

「アンタの場合は正しいでしょ。俺様の票はさ、絶対、親ちゃんと間違えられたんだと思うのね。旦那に負けるのは仕方ないから」

「てめーらなぁ…」

だが、言っても労力の無駄なので、元親はそれ以上はやめておいた。


「しかし、あのチョコの数は凄まじかったがな」

かすがが、バレンタインデーでの家康の色男っぷりを、嫌味ではなく指摘する。


「確かにね〜。でも、ミッチーと就ちゃんも大量に置かれてたじゃん、生徒会室に。あれ、結局どったの?就ちゃんは、お菓子好きだから食べたとして」

「フン。名乗りもせん無礼者からの物など。全て葬ったに決まっている」

途端、『えぇ!』や『ひっでぇ』などの非難の嵐。


「そうではなかろ。食さなかっただけで、捨ててはおらぬ…なァ、黒田」

吉継の愉しげな声に、

「あー…。毎年のことだ、もう慣れてるよ」

と、官兵衛は遠い目をする。

どうやら、惨くもそのチョコたちは、官兵衛の手元に全て回されたらしい。


「何だぁ、良かったんじゃん、黒ちゃん」
「良いわけあるかっ!もらえんより虚しいんだからな…」

官兵衛が嘆いていると、三成のケータイに着信があり、


「秀吉様と半兵衛様がいらしたらしい!お迎えに──ああ、刑部良い、座っていろ。まだほとんど食っておらんだろうが」
「そうか?すまぬな」

「なら、ワシも一緒に」
「何だとッ?一人で充分っ…」

「まぁまぁ、そう言うなや」
「!何故貴様まで!…どけッ!秀吉様たちに一にお会いするのは、この私──」



…………………



「元親まで行ってしまったな」

「ホント、『アニキ』だよねぇ…。なぁんであーいう、就ちゃんみたいなやっかいな人間、構いたがんのかね」
「血迷いごとを。こちらが相手をしてやっておるのだぞ?」

孫市の呟きに、またも被さる佐助と元就の確執。


「相変わらずアンタにゃ優しいな、あいつ」
「ヒ、ヒ…ヌシの誰かさんに対してだけ──には及ばぬわ」

「…Ha」

政宗の一言に、ただでは起きぬの吉継。
だが彼の苦笑に、「ヌシは、案外素直よな」と、愉しげに笑った。

そんな彼を見ていた鶴姫が、「あっ」と小さく叫び、


「何てグッドなタイミング!さぁさぁ大谷さんっ、今こそ教えて下さい、早急に!」
「?何をだ?」

身を乗り出す鶴姫に、珍しくポカンとする吉継。

「ちょうどお二人がいないから…、石田さんたちの仲違いの理由ですよっ」

「あー、そういや!知りたい知りたい!今チャンスじゃん、ねぇっ?」

佐助も、顔を輝かせ始める。
知りたそうにしていたもう一人(元親)には、後で伝えてやろう…、と思いながら。


吉継は、「ああ…」と低く笑い、

「他言無用であるぞ?我も、こんな早に友人の亡骸を拾いとうはないのでな…」

『分かってますって!』との良い返事に、一つ頷くと、


「あれは、初等部に上がる前の話…ゆえに、黒田やヌシら以外は、知っておるやも知れぬが。

三成と我は幼い時分からこうであったのだが、我ら以上に、周りへ入り込めておらん者がおってなぁ…。月に一度だけ、園の門の前で一人突っ立って…誰かが近寄ると、逃げ出すようにして帰りよる。

三成は、その者を密かに気に入っておったようでな」


「うっそぉぉぉ!!?」
「石田さんに、そんな素敵な思い出がっ?私、全っ然知りませんでした!どんな子だったんですかぁっ?」

それぞれ理由は違うが、目を爛々と輝かせ、吉継に食い付く佐助と鶴姫。

他のメンバーも、「へぇ」と驚いている様子。
幸村は「?」という風だったが、元就が差し出した他のデザートに意識が移り、二人だけの世界に舞い戻る。

孫市も昔を思い出そうとしているのか、小首を傾げていた。

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