宴夜2



「そ、れは……しかし…、」


幸村は、言葉に詰まる。

政宗の、母親に対する複雑を極めた感情を思い浮かべ、それが彼女にも向けられているのかと青ざめたのだが、


「そうじゃねぇ。似てるのは顔だけで…他は全然だよなと、笑って仰られるくらいだ。俺も、そう思うしな」
「そう──なのですか…」

幸村がホッと息をつくと、「脅かしてすまん」と、小十郎は苦笑い。


「知れば知るほど、百八十度違うってのが分かって…えらく気に入っちまったみてぇでな。で、それを見てぇがためなんだろう、ついあんな風にやっちまうんだ。…もう、おかしくてよ。本人の前じゃ、言えねぇが」

小十郎の、静かに笑いこらえる顔に、幸村も「なるほど…」と、それを噛み締める。

そんな事情なら、さっきと全く違い、大歓迎だった。
幸村の胸も温かくなり、笑みは、小十郎と見分けのつかないのものへと変わっていく。


「本人は口にしねぇが、あいつの上杉先生への……それが、一番気入ってるんだと思うぜ。『あのバカップルは手に負えねぇ』と、ブツクサ言いながらもよ、」

そこが、最も母親と違う部分だからな…と、小声で後付ける。


「だからな、お前らは似てて…、政宗様が引かれるってわけだ。不器用だが真っ直ぐで、情が深くて、やたらと熱くて」
「先生…」

その呟きに、小十郎は満足そうに笑い、


「お前だけだ、記憶が戻っても俺をそう呼んでくれんのは。他の奴らは…、それ以前の問題だったがな」

幸村も、同意の笑みでもって応えた。


「ありがとうございまする。嬉しゅうございました。…また一つ、彼女と『きょうだい』になれて。──政宗殿曰くの『シスコン』を卒業するのは、もう諦め申した…」

「向こうも一生卒業する気はねぇんだ、構わねぇだろ」

幸村の頭に手を置き、くしゃりと髪を撫でる。


「あれだけ人の気持ちを解せるお前だから…分かってんだろうが。少しだけ、許してやってくれ。馬鹿な冷やかし、…とかよ。それが、あいつらなりの祝福なんだ」

「──…」

小十郎の声は、その表情にも勝るほどの優しさに溢れており、幸村は再びそれに耐えねばならなかった。…だが、


「大丈夫だ。あいつもあいつらも、必ず笑う。お前がそうやって、いる限り…」

小十郎は上がった顔に、「言うまでもなかったな」と、苦笑する。


しかし、幸村はすぐに首を振り、


「某は、半人前で甘えん坊で贅沢者なので、…でも、決してもらいっ放しには、」

だから、と続け、


「きっと必ず、そうなりまする──誰が何と言おうと。…かすががああ言ってくれたように、某も『守って』みせまする。これをずっと、ずっと…」


そこに手を当て誓うように。咲き誇るは、



「その顔ができりゃ、もう…」


眩しさに目を細め、小十郎は、今までになく胸や頬が温まるのを感じていた。













店の中は、仕切りで自由な広さに区切れる内装で、幸村たちが使うスペースは個室風にされていた。
周りの目をそこまで気にせずゆっくりでき、噂通りの、店の人気さが窺える。

生徒会メンバーに、親しい友人たちと、信玄や謙信、小十郎らの教師の姿も。
会費の多くは大人たちに出してもらえそうであるし、鶴姫は幹事とは言えど、生徒会と幸村からの挨拶と礼の、司会進行を務めるくらいだった。

後は、『とにかく料理や話を堪能すべし』とのお達しで、彼女自身もそれに身を投じる。
大人組は酒も入り、信玄の豪快な笑い声が響き渡っていた。謙信も上機嫌で、小十郎に酌を(拒否を認めぬ笑顔で何度も)したりなど…。

生徒組は、幸村の回復を祝い、生徒会を労ってからは、いつものような会話に変わっていた。


「とうとう受験生ですねぇ…。この一年がすごく楽しかったから、何だか切ないです〜」

くすん、と泣き真似をする鶴姫に、他の皆も苦笑いで応える。


「だよなぁ…遊んだ記憶しかねぇわ。つか、年中お前らといてばっか。それ以外は野郎共だし…」
「で、よく成績落ちなかったよね〜。誰のお陰かな?んー?」

元親の隣にいた佐助が、彼の脇腹を肘でつつく。

「へぇへぇ、貴方様のお陰でございますよ」
「素直が一番よ?親ちゃん。これで一つ、少しだけモテ度上がったって」
「お、マジ」

「しかし、スタートがマイナスからではな。ぬか喜びさせるようなことを言うてやるな、佐助」
「たまには親ちゃんにも夢見せてあげようかな、ってさ。俺様、今心広くなってっから」

「何か良いことあったんですか〜?」
「あは、分かる〜?でもまだヒミツ〜。ねー、旦那…?」


振られた幸村は、「んむっ?」と佐助を見返し、

「美味いぞ、この抹茶パフェ!佐助も一口食うてみよ!」
「えぇ…」

いつの間にやら…よく見てみると、彼以外の何人かの前にも、デザートが運ばれていた。


「幸村、苺パフェも美味ぞ。少し分けてやろう」
「あ、ではこちらも」

幸村と元就のデザートグラスに、赤と緑の色が混じり合う。


「俺様たちみたいだね、旦那」
「ん?(パフェに夢中)」

「どこに迷彩色のアイスが?緑一色は、我であろうが」
「この濃さは深緑でしょ?就ちゃんは明るい緑じゃん」

「Hey、幸村。俺にも一口分けてくれよ」
「あ、はい!」

二人が争っている隙に、前から顔を覗かせる政宗。


「バカ、そりゃ元就の方だろが。お前が使ったスプーンで……OK、come on!」


──と開けた口に、佐助がピザ一片(タバスコ大サービス)を押し込んだ。

あとはいつもの通りで、元親は食べられる状況ではなくなる。



「今でも不思議だが、こんな面子で、よくツルめるようになったよなぁ…」

官兵衛が、しきりに首を傾けながら言う。


それは、佐助や政宗だけを言っているのではなく、彼らと自分たち生徒会が──という意味も含めてだった。

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