対論6
「慶次ど…の、」
「良いって。ちゃんと知ってるし、分かってっから。…ごめんな、いつも聞いてもらって…でも、もうこれきりだからさ」
笑い、慶次はカーテンの中から出る。
幸村も続くと、部屋の大きな水槽の、青く明るい光が二人を照らした。
「…記憶戻ってからは、初めて話したけど」
「あ…」
「昔話の一つもしねぇで…余裕、なさ過ぎだよな」
慶次は苦笑するが、
「でも、良いよな?これからは、いつでも話せるんだし」
「……!」
その言葉に幸村は勢い良く頭を上げ、何度もそれを頷かせる。
それに感謝するよう慶次は微笑むと、今度は照れたように咳払いをした。
「もういくつか、言いてぇことがあるんだけど…」
頼むから、ツッコまねーでくれよ?と念を押した後、慶次は重そうな口を開き、
「どんな病気に何度かかったって、どんな事故に何度遭ったって良い。
そんなの、いくらでも我慢する。…できるから。
──だからさ、その代わり…
『 … 長生き、して 』 」
(一秒でも良いから、長く。
……俺、よりも)
俺は、大昔の俺と違って、とんとヘタレでさ
…絶対、無理そうなんだ
だから、頼むよ
俺を悲しませるのは二度とごめんだと、思ってくれてんのなら
こんな言い方、図々しいけど
…俺とも、何かの糸を繋いでくれよ
ほんの隅っこで良いから
二人の世界に、わずかだけでも居させて
置いていかれるのは、もう、
もう……
「──この歳で、しかもその同級生に言う言葉じゃねーってのは、よーく分かってんだけどさ〜」
明るく言うのは、自分に合わない暗いものを、決して漏らさないようにするためだ。
彼はきっと、自分のこういった性分を、好んでくれているだろうから。
「…あと、ありがとう。記憶のこととか関係なしに、」
出逢って、くれて。
──必死で、こらえている。
その顔だけで、慶次にはもう充分だった…。
「…大丈夫?」
「ああ」
佐助の心配そうな顔に、幸村はしっかりと頷いてみせた。
「ごめんな、俺様のせいでさ…。でも、ありがと…」
「……っ」
顔を伏せ、幸村は佐助の胸に両の拳を当てる。…至極軽く、だが。
「ほら、笑って?皆、旦那のために来てくれるんだから。…俺様の顔、よく見てよ」
「(あ…)」
しばらく、その顔を見ていた幸村だったが、
「ありがとう…」
そう言って返した笑みは、彼に劣らぬ、心からのものに戻っていた。
──案外、平気なもんだ。
そう感じるのは、記憶が戻ったときから何度も浮かべた予想図だったから、…なのだろう。
今日は、カフェブースで大人数の予約があり、スウィーツ側もそれのヘルプに入る。
イベントは、結婚式の二次会だった。
「慶ちゃん、もう上がって良いよ」
「えっ?」
終わりまであと一時間以上ある。慶次は、不思議がるのだが、
「明日から連勤で、しかもフルだろ?元気で、頑張ってもらいたいからさ」
「え〜?俺、まだ全然元気だよ?今日、終業式だけだったし」
首を傾げるが、スタッフは本当に案じる顔になり、「良いから」と慶次の背を押す。
(ま、良いか…)
本当に何ら問題ないのだが、一人旅を充実させるためには、体力を温存しておくのも悪くない。
誰もいない静かなスタッフルームで、黙々と着替える。
裏口から出たが、何となく表に回り、店内を覗いてみる。
イベントは盛り上がりのピークを迎えており、周りから祝福を受ける新婚二人の、幸せそうな姿が目に入った。
(──うわ、雨…っ?)
頬に感じた冷たい感触に、慶次は慌ててその場を離れる。
傘など所持していない。
だが、家までは走ればすぐだ。
慶次は、駆け出す。
久し振りだったからか、火が点いたように、その速さはぐんぐん増していく。
顔に浴びる水が、顎から滴る。
拭っても拭っても、手が乾くまでに間に合わない。
──風邪を引いては、大変だ。
いつもの如く「ただいま」もそこそこにし、まつの叱る声を背に、浴室へと直行する。
…外の地面はどこも濡れておらず、月明かりが、それを白々と照らし示していた。
‐2012.3.9 up‐
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
2p目の会話最後らへん→『現在の佐助や慶次は、幸村に逢う前から友達』…って意味で。ぼやかしてしまって、分かりにくかったかもm(__)m
恐らく、あと二話ほどで完結できるかと。
何度もしつこいのですが、私だけが納得する終わり方だと思われます…(´ω`)
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