対論3






──二年生での、最後の終業式。


今日は真面目に朝から登校して来た慶次だったが、幸村と実に何日振りかの再会なので、じくじくと増す緊張に見舞われていた。

とりあえずは、ケータイの番号を聞き出すなどの会話で、場は持たせられるだろうが…


「Morning」
「おっ、…はよ」

何故だか、こういうときは政宗に一番に遭遇することが多いなぁ、と漠然と浮かんだ。


「…昨日って」
「Ah〜俺らもサボったからよ、知らねーわ」
「あ、そーなの?…『俺ら』って?」
「お前と佐助以外。幸村もな」

「──えっ?」

幸までサボリ!?と、愕然とする慶次。

数秒後に、佐助に騙されていたことも理解する。
てっきり、登校したものかと…それも、彼の口の上手さがそうさせたのだろうが。


「夜は、佐助ん家でな。さすがに幸村は帰らせたが。まーた元就の奴が帝王でよ〜、とんでもねぇ宴になって…多分、佐助と元親は今日もサボんなー、ありゃ」

「えー…」

何だよ、皆でコソコソと…と、慶次は、面白くなさそうに口を曲げる。


(俺こそ、慰めてもらいてーってのに)


まぁ、佐助がいてはそれもできそうにないし、周りも皆気を利かせたのだろう。


「昼間はどこに?」
「近場でブラついただけ。けど、気分転換にはなったみてーだぜ?」

──幸村の。


…それを聞き、慶次の視線が下がる。


「……」


(落ち込ませて…んだろうなぁ…)


佐助から、昨日の話はもう聞いているだろうか?だとしたら、その枷は少しは軽くなったはずであるが。

自分にできるのは、それをもっと改善させてやることしか、今はない。
そしてもちろん、そのつもりで気持ちは片を付けられている。


「俺にもやってよ〜。元就が振られたときも、宴会したんだろ?」
「ありゃ、本人から無理やりなー。…ま、休み中のいつかな」
「俺、何日かいねーから、予定空けといてよ?」

政宗は笑って、「出たぜ、久々の放浪癖」


「あ、元親から聞いた?」


慶次はこの春休み中、知り合いが営む宿泊施設を渡り歩こうと、予定を組んでいた。
残っている小遣いやバイト代で回れるくらいの、そこまで遠い土地でもないのだが、慶次にとっては未開の場所なので、楽しみでもある。

以前より、いつか行きたいと思っていたのだが、佐助の記憶が戻ったと分かってから、ぼちぼち本気で話を進めた。
…その頃には、色々と考え込むことが多くなっているのではないかと、予想も。

タイミングが良かったとは言えるかも知れない。──彼には、家に閉じこもり鬱々と倒れる処方など、とことん向いていないのだ。


(さっけ、気ィ遣ってんのかな…)


今日もサボるのは、慶次と幸村が二人で話せるようにと。



「おはようございまする」
「!!」

正に噂をすればで、幸村と元就が教室に入ってきた。


「ぉ、おはよ!」

声が上ずる慶次だったが、


「…っ、ひ、久方、振りで、」

向こうも同じくらいどもり、裏返ったもので応じる。

確かに、久し振りの顔合わせだったが、実際の期間以上に会っていない気がした。



(痩せた…?)


寝不足のときのように、目の下が若干腫れている。瞳も、少し充血しているしで。

自分のせいで、と思うと胸が掴まれた。
…だが、己のために、と考えると、我ながら図々しいと思いながらも、


(泣いてくれたのか…)


──今度は温まり、切なくなる。




(…そうだ、)

ケータイの番号を、と言おうとすると、


「おはようございま〜す!皆さん、昨日は集団自主休校、派手にやっちゃってくれましたねぇ〜」

明るい笑顔とともに、鶴姫が寄ってきた。
廊下で話していたのか、かすがと孫市も、自席に荷物を置いたりなどしている。


「今日は、六時半からですからね!遅れないように、いらして下さいよ〜?」
「え、何が?」

と、全員が首を傾げると思っていたのだが、


「何言ってるんですか〜、打ち上げの話ですよ!場所は、○○の三階の、△△ってお店ですからねっ?間違えないで下さいよ?」
「分ーってるって」

政宗がうるさそうに手をヒラつかせると、「絶対ですよ〜」と言い残し、鶴姫は再び教室から出て行った。


「張り切っておるな。さすがは、幹事を買って出ただけはある」

元就が苦笑すると、幸村は微笑を浮かべる。


「あのー…」

慶次は困惑しながら、「俺、初耳なんスけど」

他の三人は驚いたように、


「元親から、メールいかなかったか?」
「まぁ、我も一昨日の夜聞いたばかりだがな。人気の店らしく、キャンセル待ちで、今日が急に空いたのだと」

他の店もあったが、鶴姫はどうしてもそこが良かったらしい。
美味しくて評判で、スウィーツには幻の一品などと言われるものも、いくつか存在する。


「生徒会お疲れ会と、こいつの退院祝いだってよ」
「……!」

思わず幸村を見ると、照れたように笑う顔。

慶次は、自分の失態を今さら思い知り、


「ぁ──お…めでとう、幸!ごめん、今頃っ、俺、」
「い、いえ、そんな…っ」

慌てたように首を振り、幸村は自分の席へ着く。
追いかけたかったが、こんな場所で、しかもすぐホームルームが始まるという時間では、何も伝えられやしない。

結局無言で見送ると、


「お前が逃げ回ってんのに、キレたんじゃねーか?さすがの元親もよ」
「しかし、バレてしまったな…。あやつめ、それならば我らにも口止めすべきだろうに」

「ちょ、あんまりだろーっ?それに、逃げてたわけじゃねーし…!」

慶次は情けない声で、二人の肩を掴み揺らす。

小さな叫びは、「まぁ、良かったじゃねーか、知れて」と、苦笑でかわされた。



(よくねぇよ…っ!)


──今日は、バイト先のカフェブースから、応援を要請されている。


様々なショックが積もり、終業式がどのように終わったかも、全く分からなかった慶次だった。

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