特別5







「──慶次から聞いたぜ」


幸村が布団に入ると、元親は椅子に座り、ベッドの方まで近寄った。


「………」

「許してやってくれよな。…あいつ、お前が心配でしゃーねーだけなんだ」

「分かっておりまする…」

幸村は呟くと、首を元親の方へ動かす。


「………」
「………」

しばらく、二人とも黙り込んでいたが、元親がそれを終わらせた。


「…恥じてんのか?嫉妬したこと」


(なっ)


しかし、元親の顔は優しいままである。

幸村が、何も返せないでいると、


「何も気にするこたねーよ。一度そんな風に言われて、他の奴に行かれちゃあ、誰でもそうなるって。…嬉しかったんだろ?佐助の気持ち」

「…そんな」

元親は笑って、


「まぁー…複雑だろうけどよ、政宗のときも、お前そうだったんだろ?…好かれて嫌な気には、そうそうならねーよ、逆はあっても」

「………」

正に複雑そうな顔になる幸村を、温かい眼差しで見つめる。


「──何を隠そう、俺も告られたことがある。…男に」

「え!」

元親は苦笑し、

「はっきり言って、嬉しかったぜ?仲良いダチでよ、むしろ好きだから、色々…なんつーか」


(元親殿も…!)


幸村は、物憂げな考えが、一挙に端に追いやられるのを感じていた。


「まぁ、俺のは参考にならねーけどな。相手、覚えてねーし」
「ええっ?」

「酒の勢いっつーか、何かそんな感じ」
「はぁ…」

幸村は戸惑うが、


「でもな…そんなんでも、やっぱ『特別』になっちまう。勝手な話だけどよ、『あの気持ちが、違う奴のものになんのか…』とか、つい考えたりしてな」

「……!」

「だから、お前がそう思ったのだって、悪いことじゃねぇ…いや、悪いとしても、俺も同罪だから安心しろ」

「元親殿…」

幸村は、少しでも近付けるよう、身体をそちらへずらす。


「あとよ、相手も悪い。こっちがグラッとするくらいの気持ちと、顔と目と声で…言われちゃあな…」


(………)


幸村は、政宗と佐助のそれらを思い出し、顔を隠すように布団を引き上げた。


「その彼女のことは分かんねーけど、あいつは恋愛感情抜きで、お前のこと大事にしてるよ。そりゃ間違いねぇ。だから、お前も好きなように、あいつを大事に思や良んだ」

「…はい」


──あの日、佐助に一番言って欲しかった言葉。

そのときの思いと、元親の優しさに目の周りが熱くなる。


「元親殿、慶次殿のご様子…」

「大丈夫、大丈夫。あいつは、お前が面と向かって『大嫌い』とでも言わねぇ限り、何も落ち込んだりするような奴じゃねーから」

「そのような…」

嘘でも言うはずがない、と続けようとした瞬間、


『ポローン』


「!」

綺麗な音が鳴り、幸村は布団から飛び起きた。


「おい、幸村!?」

慌てて元親が追いかけると、彼はパソコンの前にかじり付き、



──気が抜けたように、その場に崩れた。



「おい、どしたっ?」

「…、は…っ」

元親は焦るが、幸村は含むように笑い出す。


(メール…?)


画面を覗くと、


(──佐助……)





「遅い…っ、やっと──!」


幸村は怒りの口振りだが、その顔は涙で濡れていた。


…恐らく、本人は気付いていない。





「元親殿、──好きでござる」

「…は!?」

あの日の再来か、と元親は身を固くしたが、


「好きなのだ、…皆。他のどのような友達よりも、大事でござる…こんな風に思うのも、悪い気が致しまするが」

「い、いや…」


「幸せになって頂きとうござる。…なのに、苦しい。一緒にいたいのに、痛いのです。
──何故、某はこのように幼いのだ。幾度となく考えても、分からぬ…。出した答えも、言うのが恐ろしくて…」

「………」


「楽しかった思い出があり過ぎて、変わるのが怖い。離れたくない。悲しませたくない。なのに…ッ?」


話している途中で、急に身体が大きく揺れたかと思うと、



「元親…殿…?」


──幸村は、彼の腕の中に収まっていた。



「泣くなよ…。俺、お前が泣くのだきゃ、耐えられねんだわ…昔から」


(泣い…ッ?)


知らぬ間の失態に、カッと血が上る。



「心配すんな…お前から離れてぇ奴なんか、いるわきゃねぇ。万が一、あいつらが去ったって、俺は絶対離れねぇ。──約束する。俺だけは、必ず…お前の傍にいるから」


(…元親殿…)


元親は、言い終えてから真っ赤になり、急いで幸村から離れた。


「とととりあえず、あいつらには言うな!?死んじまったら、さっきの約束も守れねーからよ」

「そ…れは、困りまするな…」

幸村も笑みつつ、濡れていた頬を拭う。


「…お前が、一生懸命考えて出した答えだろ。それが正しいか間違いかなんざ、誰にも決められねぇ。心おきなくやって来いよ」

「──……」

「お前は、幼くなんかねぇ。立派に成長してる。心配しなくとも、その内分かる。…煮詰まったら俺に言え。
──俺は、もうずっと…お前の味方なんだから」


ニッと、いつものように、頼もしく笑う。


…幸村の心に、安堵が落とされていった。









かすがが、張り切って作ってくれた料理は、本当に美味しかった。

あの使用人が用意してくれたものも、同じほどに…


佐助からのメールを、何度も何度も読み返し、自分は元気にやっている、との返事を送信した。


──寝る前の頭に浮かぶ、様々な顔。


最後に思い描いたせいだろうか?…再び見たあの夢の中で、元親の顔がはっきりと映し出されたのは。


暗闇の中、幸村の口元が微かに揺れた…







‐2011.11.14 up‐

あとがき


ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

なかなかドーンと進められず、すみません(´Д`)

「お嬢様」「坊っちゃま」って呼ばせられたのは、満足。

本当、ゴチャゴチャしてて申し訳ない;


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