祝福4
「君の大切な秀吉は、僕が必ず幸せにするからね」
「はは、ぁはは…──よろしく」
何とも素晴らしい笑顔で宣言され、慶次も負けないもので応えた。…冗談や、からかうでもなく。
その内、謙信が車で迎えに来てくれ、邪魔者は退散と手早く荷物を手にする。
「慶次くん」
「ん?」
半兵衛は、また静かに微笑み、
「僕は、今までもとても幸せだったよ。…君は?」
「──…」
一瞬詰まった慶次だったが、同じように笑い、
「…そうだな」
と一言だけ残し、部屋を後にした。
─────……
「珍しいですね、お前がここまでなるなんて」
「んー…ちっと飲み過ぎたぁ」
あはは、と慶次は苦笑いし、「良いことがあってさ」
謙信は客間に布団を敷き、慶次を促す。
「かすがちゃん、怒るかなー…」
「ふふ」
同じ部屋ではないのだが、空気を共有するというだけで、彼女の逆鱗を掠める。
しかし、秀吉の家よりこちらの方が、幸村たちのマンションに近いのだ。
少しでも、…気分だけでも、距離を縮めておきたかった。
「謙信は、いつでもそうやって綺麗で、羨ましいよ」
「おや慶次…、あいにく良い物は持ち合わせていませんよ?」
「いやいや、ホントに…」
慶次は枕の上に腕を乗せ、
「…俺、ここまで来てもこんなんでさぁ…。何かもう、呆れ通り越しちゃって」
と、自分を笑う。
「そんなことはありませんよ。逃げているわけではないのでしょう?逃げる道もないのだとも、分かっているようですし。…安心なさい、かすがも怒ってなどいませんでしたから」
「…結局優しいんだもんな、かすがちゃん…」
眉を下げ笑う慶次に、謙信も穏やかに微笑む。
「うん…。力もらえるかなぁ、って下心持って、会って来た。もちろん、ここにも」
「お前が受け取れるなら、いくらでも持ってお行きなさい。渡せられるのか、分かりませんが」
「や、充分過ぎるくらい…」
腕を布団にしまい、はにかむ慶次。
「──俺、一世一代の格好付けるつもり。精一杯…」
そこからの声は消え、代わりに静かな寝息が聞こえ始める。
これが、すぐにけたたましいいびきに変わるのは、今までの付き合いで分かっていることではあったが、
(…お前も充分綺麗でいますよ、慶次…)
謙信は、慈しむ笑みで、その寝顔を窺う。
だが、やはり大音響には耐えられず、ぴっちりドアを閉めた彼だった…。
時は、一日戻り──…
「明日だね」
「うむ。…世話になったな、佐助」
小綺麗になった病室で、幸村が頭を下げる。
ようやく、明日退院という日になっていた。
──二人きり。
「…ど、う言えば…良いんだろうな?…その…」
「ん、何が?」
優しく覗き込んでくる佐助に、幸村はどぎまぎしながら、
「改めて、…よろしく、頼む…」
「え…」
佐助はピタリと止まる。が、幸村は思いきったように、
「お前を、幸せにさせて…くれ」
顔は赤く俯き、小さな声ではあったが、きっぱりと──
(旦那…)
佐助の中に、今までにない温かく熱いものが込み上げる。
少しだけ痩せてしまった身体を腕にすると、それが際限なく溢れてきた。
「…来てくれてありがとう、佐助。助けてくれて。ずっと想ってくれて、…また守ってくれて。どう言えば良いか分からないが、俺はお前が…」
「良いよ。…言わなくても分かってるから」
赤くこすれたような、目の下の腫れ。
…どれだけ深く、考え悩んでくれたというのか。
「好きだよ、…俺様も言い表せないくらい」
──全てを捧げたいほど。
想い過ぎて、何もかもが見えなくなる。
…だからこそ、
「こっちが礼を言う方だよ…ありがとう、旦那。…なぁ、俺様旦那が嫌って言わなきゃ、絶対離れないぜ?それでも良いの?」
「あぁ…」
己の胸に顔を埋め答える幸村に、佐助は「そっか…」と微笑む。
「俺様、最高に幸せ。…いや、ずっとそうだった。旦那が、そうやっていてくれて…俺様に、その姿を見せてくれてさ」
「それは俺とて同じだ。お前がいるだけで、俺は」
「──何でかってのはさ、」
幸村の頬を撫で、目に愛しさを浮かべ、
「俺が、旦那からそれをもらってるから。旦那がいると、俺様は無敵なの。世界一幸せなんだよ。だから、それが旦那にも移るってわけ。…すごいよねー、旦那は。…ホントにすごいよ」
「佐助…」
仕上げ、とばかりに佐助はニッコリ微笑み、
「だから、俺様も旦那をそうするからね。誰よりも幸せにする。旦那の最高の笑顔を、…それがどんなにすごいものなのか、きっと教えてあげるから」
抱き締める力が強くなり、それに応えるよう、幸村の身体は弛緩していった。
‐2012.2.14 up‐
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
終わりに近付くにつれ、あぷあぷしてきました; 流れも頭の中では全部できてるんですが、何故か。
色んな捏造、会話だらけ本当に申し訳ない。多分こんな感じが続きます、終わりまで。あー;
自己満足突っ走りますので、こんな終わり方かって不快に思われるかもで、それもすみませんです。
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