歓待5
「これ、頼まれてたヤツな」
「すみませぬ、お手数おかけして」
紙袋を受け取り、元親に頭を下げる幸村。
「もう少しいる」と彼だけ残ったのは、これを幸村に渡すためでもあった。
「それ、佐助にだろ」
「なっ、何故?」
「あいつの好きなとこのだし、お前にチョコやったっつって、自慢してたからよ」
「──誰にも言っておらぬと、思っておったのに…」
それで、かすがにさえも話していなかったのだが。
「俺しか聞いてねーよ」
その心を読んだように元親が笑うと、幸村は少し驚いた目で、
「佐助は、元親殿のことを、本当に信頼しておるのですなぁ」
「はぁっ?何でそーなる?」
幸村は微笑み、
「実は、ホームステイ中のメールにそのようなことが…内緒ですぞ?」
「…お、おー…」
それ、俺が書いたんだけどな…と冷や汗をかきながら、元親はぎこちない笑顔で返した。
「まぁ付き合いも長ぇし、お前のことに関しちゃ、俺が一番言い易いんだろ。他の奴は、何っつーか…」
「(あ…)」
幸村も、彼が思っていることを悟り、返す言葉に迷う。
「お前らが、すげぇイチャついてたらどーしようかって、元就と話してたんだけどよ。いつも通りでホッとしたぜ」
「…ぁ…、ぇ……と…」
「いや、だったら元就の奴が大暴れだろ?俺が八つ当たりされんの、目に見えてっからな」
元親は苦笑するが──…
「…悪ィ。笑えねぇよな」
「──…いえ…」
…彼の気を病ませたいわけではない。
だが、幸村は俯く顔と声を、上げることができなかった。
「今日来てみて、よく分かったよ。…お前、まだちゃんとは話してねんだな、佐助とも。──あいつらだけじゃなく」
「…はい…」
だが、元親は穏やかな声で、
「今は、元気になることだけ考えてろ。佐助も、そういうつもりでいるんだろうと思うぜ。他の奴らはともかく、自分はそうしようって決めてる気がするよ」
「……で、ござろう…か…」
視線を上げた幸村に、「おう」と応える。
「前にも言ったけどな、俺はお前の味方だからよ。何がどうなっても、俺だけは絶対お前から離れねぇし、見損なったり蔑んだりもしねぇ。…嫌ったりなんか、死んでもしねぇ。──だからな、」
幸村の頭の上に、手を軽く載せ、
「そう、すりゃ良い…お前の、気が済むように。…俺が、尻叩き続けっから──あいつら全員のよ。揃いも揃って、格好付けの馬鹿ばっかなんだ。俺が上手くやりゃあ、ずっとヘコんだままになんざ、ぜってーならねぇから」
(…元親殿…)
手のひらの温かさを感じながら、幸村は感謝するよう、小さく頭を縦に振った。
「お前の俺らへの思いは、皆とことん分かってっから。…お前がそうすんのは、他をないがしろにするってことじゃあ、絶対ねぇからな?もう、分かってんだろうけどよ」
「…は、…ぃ…」
いつもいつも、こうして自分を救ってくれる、大きく温かい人。…昔と変わらず、またこうやって…
「某は、何かある度、必ず誰かの言葉に救われまする。…元親殿には、何度そうしてもらったことか。これからは、同じくらい頼りになる人間になれるよう…元親殿にも、きっと沢山返せるように」
真剣な顔付きで誓う幸村だったが、元親はただ目を細め、彼を眺めているだけ。
「分っかんねぇかなぁ……ま、お前だから、しゃーねぇか」
「え?」
「…気にすんな。──これ、昔も同じようなこと言ったけどよ」
元親は、情けない表情に苦笑を浮かべ、
「お前がそう思ってくれてるみてぇに、俺も同じもん沢山もらってっから。だから、んな気張んな。そーいうもんじゃねーだろ、ダチっつーのは。…な?」
「……元親どのぉぉ」
「うわ、お前泣くなよっ?俺殺られるって、あの二人に!妹、佐助より怖ぇしっ」
「ぅぐ…っ、泣いて、などっ…」
「出てるって!ちょ、ま…、ヤバいって、マジ」
本気で慌て始めた元親は、とにかくタオルを渡すが、
(…あ、)
「そうだ、お前驚かそうって、まだ言ってなかったんだが」
「えっ…?」
これで涙も引っ込んでくれると、尚良いのだが…とも思いながら、
「俺の祖父さん──…鬼島津だぜ?」
………えっ
幸村は、数秒固まり、
「ほ…、…本当に──!!?」
「(あ、引っ込んだ)」
淡い期待が叶い、元親も落ち着く。
「マジマジ。退職してから、自由謳歌しまくりでよー。ほとんど家にいねーんだけどな。旅行だの、ダチんとこ行くだので…。もう、いっそのこと家売っちまえば、ってくれぇ」
「そう…なのでござるか…」
あの懐かしい、豪快で気っ風の良い姿を思い浮かべる。
彼と元親なら、気が合い良好な関係を築けただろう。
いかにもお似合いの祖父と孫であろうことが、すぐに想像つく。
「『鬼』繋がりでござるなぁ」
「お前も加わりゃ、三鬼だな。…じーさん、お前に会いてぇってよ。今度帰ったら、遊びに行ってやってくんねぇ?」
「こちらがお願いする方でござろうっ!早くお会いしとうござる、島津殿…!」
明るくなった顔に、元親は満足そうに笑う。
「やっぱ、お前はそーじゃねーとな」
「っ!お帰りで?」
ポン、と自分の肩を叩き、立ち上がる元親を幸村が見上げる。
「おう、もうこんな時間だしな。長居してすまねぇ」
(そろそろ、佐助と二人きりってのに、あいつがキレ始める頃だろーし…)
…一向に戻らない二人の意図も、分かっていた元親だった。
“あいつらも、近ぇ内に来るっつってたから。…気にすんなよ?”
しばらく、最後に残された彼の言葉を反芻していた幸村だったが、間もなく佐助とかすがが戻り、また普段の様子に返る。
かすがが席を外した際に、佐助へプレゼントを渡したのだが、
「ありがと」と、笑う顔を見て、
(…ああ、やはり──…)
頭の中では、元親に多くもらった一言一言が、幾度も徘徊を繰り返していた。
‐2012.1.25 up‐
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
あと何章で終われるかは自分でも分からないんですが、それゆえに。
光秀・蘭丸・いつきは、少しでも出したかったので。無理やりって感じかもなんですが; 彼らなら、絶対お見舞い来るんじゃなかろーかと。
島津のじっちゃん&元親、捏造すみませぬ; どっちか言うと、慶次の方ですよね。
慶次も孫同然で、謙信様と三人で飲んだりしてんです、きっと。
じっちゃんは登場しないけど、一番最初に付けた設定だけでもぉぉ、と。
就と親の、幸村と二人きりのやり取りはもうないと思うんですが、都合上、先に持って来てしまいました。この後、脇キャラが出るかもで、妙な気もしますが。
あと西軍の、全くシリアスじゃない感(過去のこと)、本当に申し訳ない;
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