歓待4
「皆、記憶が…」
ポロッと口にしてしまい、幸村は周りを窺うが、
「あってもなくても、大差ない。いちいち気をやるな」
「──すみませぬ…」
強い口調で三成に言われ、少々落ち込み気味に閉ざす。
「『記憶があろうとなかろうと、今までのように親しくしてくれ』──と、石田は言っている」
「なッ、孫市貴様…っ」
「すまぬな、口下手で。語学は得意なのだが、使う分には全く反映されんでなぁ」
「刑部まで、余計な…」
「ありがとうございまする、石田殿!」
幸村は、キラキラとしたものを背負い、
「何より嬉しい言葉にござる!…某、石田殿とは何故か闘えぬ…と思っていたのですが、このためだったのですな…」
と、三成の両手を取る。
…彼は、「うぐ」と一唸りし、反応に詰まってしまった。
「──『私を裏切るな』と、それは凄まじい勢いで…」
吉継が、ヒソヒソと他のメンバーにバラすと、
「マジで?おいおい、んな押し付けがましい求愛、ウザがられんぜー?幸村だったから、良かったかも知れねーが」
「我らも言われたではないか」
「そーだっけ?」
元親と元就が、堂々相槌を打つ。
「うるさい!!…真田、現世でも裏切りは許さない…分からせたかったのは、それだけだ」
「もちろんでござる!」
幸村は、ハツラツと答えるが、
「裏切るなって…何に対してだ?あいつ、何か勘違いしてないか?」
「…そりゃ、正してあげなきゃだよねぇ」
かすがと佐助が、やんわりと色めき始める。
「奴との問題だろう。『家康には、何一つ渡さない!』──だ」
「ははぁ…」
孫市の答えに、一同納得の意を示した。
「でも、真田が助かったのに、あいつが力を貸したって聞いて、かなり感じ入ってたよなぁ」
官兵衛がボソボソ言うと、「良い傾向だ」という言葉が、誰からともなく上がる。
「そういや、ミッチーって、何で徳ちゃんにあんな風なの?やっぱ、昔のことが原因?」
「それは、何だか悲しいですよねぇ…」
鶴姫が気を落とすと、
「いや、そうではないが…タブーなものでな」
と、吉継が残念そうに苦笑する。
「(え〜、気になる〜)」
「(あいつがいねぇときに、コッソリ教えろよ)」
「(ハイハイ!私も聞きたいですぅ!)」
佐助、元親、鶴姫が吉継を取り囲んだが、三成が振り返り、速効素知らぬ振りをする三人。
(…皆、こんな風に話せるまでになるには、きっと…)
自分は、思い出してすぐに佐助に会え、信玄と話せ、こうして他の皆とも…
でなければ、複雑で混乱した境地に、一体どれほど佇んでいたことだろう。
三成も吉継も、元就と同じく、こんなにも穏やかになって。
心身ともに、健やかに──…
「…いや、やはりまだ痩せ過ぎでござるよ、二人とも」
「「っ?」」
幸村は、三成と吉継をぐいっと引き寄せ、
「こちら、お見舞いに頂いたものですが、沢山下さったので…是非お二人にも!」
「「何…?」」
「お二人は、もっと太った方が良うござる!免疫力も付きまするし…石田殿は、いつき殿の菓子が良いですな、野菜が摂れまするので」
「ホゥ…?これは、三成にはちょうど良い」
「さぁさぁ、大谷殿も!」
「我は良いのよ。着痩せするタイプでな、実は八十キロ近くある。…ああ、去年の夏の後増えてな」
「なっ、何とぉ…!?」
「こう見えて、筋肉まみれよ。ゆえに、三成を鍛えてやってはくれぬか?」
「いや、私は菓子は…」
「大谷殿、むしろ某を鍛えて下され!一体どのような──」
…放っておくと際限なく突っ走って行きそうだったので、官兵衛が止めた。
「…幸村、あれ」
「(!)」
そうだった、と用意していたものを、かすがに出してもらい、
「バレンタイン…のお返しでござる。ありがとうございました」
と、鶴姫と孫市に渡してもらう。
「そんなっ、入院してるのにわざわざ…!?真田さぁぁん!」
「こんなの、良かったのに…」
二人は感動の表情になり、
「もう、真田さんが無事だったことが、何よりのプレゼントなんですからー…!」
「そうだな──本当に、良かった…」
「お二人とも…」
幸村もウルウルなり、三人で少しグスグスした後で、プレゼントの中身に、わいわいし始めた。
「私が店に行ったけど、写真をメールで送ったから、ちゃんと幸村が選んだ物だぞ?」
かすがが言えば、
「可愛いです〜!孫市姉さまのは赤ですね?真田さんの『好きな』赤!」
「そうなのです、孫市殿に似合うかと…いや、勝手にお好きだろうかと」
「大好きですよね?姉さまっ?」
「あ、ああ…本当にありがとう……かわ、いい…」
「良かった…」
幸村もホッとした顔になり、かすがに感謝するよう視線を合わせた。
その様子に、男性陣は静かな表情で微笑んでいたが、
(((──お返し、してねぇー…)))
一見ほのぼのとした光景だが、女子たちの、このいつもより高いテンション──当て付けもあったりして…と、少々怯える彼らだった。
幸村の病室を出て、一同は病院の外に場所を移す。
かすがと佐助も、見送りに降りていた。
「退院お祝い会をしたいんですけど…終業式には、って言ってましたよね?」
「おおっ、さすがはお姫さん!考えることが違う」
「えへへ、そうですか〜?」
官兵衛に褒められ、上機嫌になる鶴姫。
「ああ、それなら…」
「だが、問題は場所だ」
「我に考えがあるのだが──」
生徒会ドSトリオも、意外に乗り気で、話に加わる。
何やら盛り上がりそうな雰囲気になり、皆、手を振り歩き始めた。
「じゃあ、真田によろしくな」
孫市も遅れて二人に挨拶し、場はすっかり静かに姿を変える。
「…口を出す隙もなかったな」
「皆、久し振りに会ったから……俺らも楽しかったね」
佐助は笑い、「ちょっと、お茶してから戻ろっか」
「………」
いつものおどけた調子だったが、珍しく、かすがは何も言い返さずに、頷いていた。
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