歓待3






蘭丸たちが来た後、元親と元就も加わり、病室は賑わいを見せていた。

昼時になり、


「飯にしねぇ?」

と、元親が提案する。

光秀にオゴらせよう、と外の喫茶店に向かうことにし、子供二人はそのまま帰る流れになった。
佐助も連れ出し、元親は「また戻っからよ」と、幸村たちに手を振る。

元就は、「朝が遅かったので、遠慮しておく」と病室に残った。





「…元就殿…」

「──良かった…本当に…」


彼らが去ってすぐ、両手で自分の手を包んで来た元就に、幸村は、あっという間に涙目に変わってしまう。
元就も軽く目を閉じていたので、気付かれてはいないだろうが…

お互いへの気持ちを確かめるよう、しばらく二人は沈黙し合っていた。


「話を聞いたときは、本当に心臓が止まるかと思うた…。行方が分からなくなったときからそうであったが、あの馬鹿が予想外に死人のようになったゆえ、我までそうなるわけには……全く、あやつ…」

「元親殿…?」

元就は首を振り、


「もう一方の眼帯よ。…お前にも見せたかった、それはもうひどい有り様で。あれを見れば、ファンも一気に冷めるであろうな」
「はは…」

幸村は苦笑したが、


「本当に申し訳ござらぬ、ご心配をおかけし…ご迷惑まで」
「お前のせいではない。何度も言ったであろう?」

キッパリと言う元就に、幸村は「…はい」と、粗相をしたような顔になる。


「我にかかれば、あのような仕掛けなど。奴が、我を侮ってくれて良かった。あのやり方だったからこそ、我らは助かった──単細胞の元親がダシに使われていれば、どうなっておったか分からぬ。火事場の何とやらで、手錠をまるごと破壊しそうではないか?」

至って真面目な顔で言う彼に、幸村はつい吹いてしまう。

それに、元就は気を悪くしたようでもなく、かえって表情を柔らかくし、


「あれのお陰で、佐助が知恵を働かせた…我たちも、お前の救出に一役買ったと、勝手に思い込んで、」

元就は言葉を切り、


(──まだ、してくれるのか…)


と、回された腕を横目に、それを細める。



「思い出してから、…」
「…やはり、元就殿は元就殿でござる。嫌いになど」

幸村は眉を下げて笑い、


「昔も、ずっと思っておりました…元就殿の、真の顔を知りたいと。──その心に、触れたいと…」

「………」

元就は、何か考えるように黙っていたが、「…そうか」と一言もらしただけだった。



「かすがとも話していたのですが、今度、向こうに遊びに行ってはみませぬか?某たちも、こちらに越してからは、まだ一度も」

三人が一緒に通った小学校へ──という意味である。

幸村の生家のある街ではなく、ここからまだ近いと言える土地だった。


「皆も、元就殿にお会いしたいと言っておりましたぞ」

まあ、その理由は興味本位がほとんどだろうが、と元就は胸中を苦くしながらも、


「…では、こちらも皆で参るとしようか」

彼らの派手な容姿を前にし、唖然とする反応が目に見えるようで、愉快な気分になる。

真田兄妹に想いを寄せていた者たちを、一掃してしまうことであろうな──と、思い浮かべつつ。


(幸村をもてはやしていた女子たちは、奴らに目移りしてしまえ…)

さらには、奴らが困ることになれば良いわ、などと黒い考えを抱きながらも。



「…幸村」
「はい?」

幸村が見上げると、元就はもう一度微笑み、


「『今』のお前は、奴らの中では、我が一番知っていて…分かっておる。佐助が何と言おうと──たとえ、昔はそうだったのだとしても」

「も…」


「自慢なのだ、…お前が想像するよりも遥かに。…であるから、我儘ではあるが……」

きっと、彼の前でしか見せないだろう、温もりに身をゆだねる目にて、


「そこは、我だけにしておいて欲しい。この先もずっと…。…必ず、見合うだけの人間になるゆえ。お前も、自慢できるような…」

その第一の場が、二人の旧友たちとの再会…になれるかは、分からないが。

自分は、彼の傍にいるのに、少しは許される人間になったことを、わずかでも感じてもらえれば。


「…元就殿は、まだ分かっておらぬようで」

軽く睨んでくる幸村に、ふっと小さく笑み、


(出逢ってくれて──…)



結局、彼らを連れて行こうとすぐに思い到ったのは、幸村だけに留まらぬからであることを自覚し、自分を笑う。

興味を引くものや成績の結果以外で、誇りに思えるものが、…こんなにも。



「元就殿こそ、某はずっと…」


ギュウ、と固く握る手の力。

──いつかの日を懐かしく思い返す心地で、元就の口からは、また温もりが零れた…。














「…満員御礼だな、こりゃ」
「いつの間に…」

喫茶店から、元親と佐助が戻ってみると、二人だけだったはずの病室は、人で溢れ返っていた。

かすがも戻っており、生徒会メンバーに加え、鶴姫。


「お二人とも、狡いですよっ?ご近所さんなんですから、声をかけてくれても良いじゃないですか〜?」

ぶぅ、と頬を脹らませ、鶴姫が元親と元就に言うが、


「こーなるから、誘わなかったんだよ。ったく、ちったぁ考えろって」
「だって、まさかお二人も今来ているとは、思わなかったんですもん」

「いや、お気になさらず!部屋は広いし、某は嬉し…」
「──病人に気を遣わせて」

ジロッと睨む元就だったが、五人には効かず、幸村ばかりが焦るのみ。


「まぁ、そう怒りなさんなって。元気な顔見りゃ、すぐ退散するつもりだったんだから」
「そんな…ゆっくりしていって下され」

「病人の願いは、聞かねばならぬよなぁ……猿飛?」

官兵衛の言葉に幸村がすがると、吉継が、すかさず佐助にニヤついた顔を向ける。


「誰も、帰れとは言ってないでしょ。その代わり、大人しくはしてよね」

「「はーい♪」」

鶴姫と吉継が満面の笑みで応え、どういう嫌がらせだ、と思う佐助たちであった。

[ 48/77 ]

[*前へ] [次へ#]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -